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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第三十話 人界の友

ケンプファー男爵は、ひたすら月明かりに照らされた道を進み、懸命に馬を東へと走らせて人外の民たちを追っていた。


騎馬だけでも先行し、彼らを止めなければならない。

早く魔物をおびき寄せる荷物を捨てさせなければ……


そんな思いで、必死になって後を追っていた。



元々彼は、ローランド王国貴族の中では、異質といえる存在だった。彼の領内では、人外の民を擁護するだけでなく、一切の差別を許さなかったという点で……


だが彼は圧倒的に少数派であり、駆け出す彼の様子を多くの兵、貴族たちが嘲笑って見送り、彼に追随する者は誰一人としていなかった。



カイルたちは三角砦を出て、街道近くで様子を伺うため、茂みの中に隠れて待機していた。



「カイルさん、来ます!

数百人が此方に向かって駆け出す足音と、それを追う馬蹄、そして更に後方にも多数の足音が……」



報告してきたのは、音魔法士のソンナだった。

私が唯一、救援部隊を編成する際、事前に宣言した条件の例外としていたのが彼女だった。


音魔法士の存在を聞き、彼女が魔法士となったとき、私は過去の日本での記憶を思い出していた。

同じ海軍に進んだ友人に、潜水艦乗りがいたからだ。

従軍中、たまたま呉で彼と再開する機会に恵まれ、酒を飲み交わしながら、お互いにここだけの話で華を咲かせた。


その時聞いた、潜水艦のソナー員の話に発想を得て、彼女には特別な訓練を積んでもらった。

聴覚に秀でた者の職人技、周囲で発生する音を増幅して聞き取り警戒すること、これを魔法にて再現できるよう、腕を磨いてもらっていた。


今や彼女は、常人には聞こえない音を増幅したうえで、その詳細を聞き分け、包囲や規模を判別することができる。

斥候としては最高の人材だ。



「後続は騎馬、そしてその後ろは歩兵か?

追い立てているとしたらやっかいだな……、こちらは数に劣る。一旦やり過ごし、後背から襲うとするか」



今すぐにでも、街道に飛び出したい気持ちを抑えて、私たちは待機して一旦彼らをやり過ごした。

恐怖の顔を浮かべて街道を東に走る同胞たち、そして、通過した直後に駆け抜けた騎馬の一団と、少し後方に続く歩兵の集団。



「およそ100名か……、取り敢えず気取られないように後に続き、隙を見て襲撃を行う。

全員! 急ぎ彼らの後を追うぞ!」



私達は彼らに続き、街道を駆け出した。

だが、暫らく走ったあと、再びソンナが合図を出した。


私達は一旦停止し、左右の茂みに隠れながら足音を消して彼らに近づき、様子を伺った。

ソンナはひとり闇から忍び寄る魔物の警戒を行っている。



「カイルさん、様子が変です。

彼らは同胞に引き返すように説得しています。

そして、荷物は危険だからすぐに捨てるようにと。

お前たちは騙されている、そう伝えていますが……

東に逃げようとしている同胞たちと揉めています」



「確かにな……

引き返してしまえば、囮の意味をなさない。一体どういうことだ?」



「あっ! 南側から魔物っ!

黒狼らしき集団が彼らに接近しています。続いて東」



「ソンナ、警告を発する。拡声を頼む……」



ソンナが頷くのを待って、私は大きな声をあげた。



「みんな魔物だぁ! 南側の暗闇に魔物がいるっ! 続いて道の東からも黒狼が襲ってくるぞっ!」



ソンナが増幅した私の声は、恐らく彼らまで届いたのだろう。彼らは慌ただしく隊列を変更し始めた。



「良いかっ、子供たちを中心に円陣を組むんだ!

外側は我らが守るっ! 固まって移動すれば、奴らも簡単には襲って来ないので陣形を乱すな!

全軍、襲撃を防ぎ護衛しつつ、西の砦へ移動する!

民を守るぞっ!」



どうやら、進行方向から来る魔物のお陰で、我先に逃亡していた集団は、説得者の言葉を聞き始めたようだ。

だが、100名で300名もの非戦闘員を援護するのは簡単ではない。早晩、彼らは行き詰るだろう。


どうする?



「良いかっ! 絶対に討ち減らされるなっ!

左右で連携するんだ。民を守る使命を忘れるな!」


 

騎馬を下り、指揮官らしき男は、最も危険な位置で奮戦し続けていた。

だが、もうすぐこの均衡は悪い方に崩れるだろう。


ソンナが更なる魔物の襲撃を告げて来た時、私は決断した。



「全員、これより彼らを援護する。

兵達と戦闘になった場合は、個別に各自退避を!」



そう告げて、指揮官の男に群がった魔物の群れに突進した。


飛び込むと同時に、目の前の獲物に夢中になっていた、二匹の黒狼を続けざまに切り伏せる。

更に、その後ろに居た魔狼が飛び掛かってくるのを身体を捻って躱し、すり抜けざまに切り下げた。


呼吸を整えると、唖然としてこちらを見ていた指揮官を横目で見て、彼に告げた。



「加勢する。少し進んだ先に安全な場所があるので、そこに誘導する」



「ありがたい! 遠征軍にも私以外に物好きが居たとは、知らなかったな。助勢に感謝する。

全軍! 援軍だっ! 彼らの誘導に従えっ!

引き続き、民を輪の中に守り、西に移動する!」



まぁ、誤解してくれているようなので、暫らくはそれで良いだろう。

こうなれば突然、彼らとの戦闘が始まる心配もないだろう。



魔物との戦闘に慣れた者たちで構成された我々は、数こそ僅か30名だが、対魔物戦闘に限れば彼ら100人より圧倒的に強い。10分ほどの戦闘で、当面の危機を脱

することができた。



「所で、何故荷物を捨てさせるんだ?」



「ん? ああ……

あれは食料ではない。魔物の血肉が入っているらしい。ゴールトの外道は、これで魔物を誘きよせ……」



「全員! 荷物を開けて中身を確認しろ!

血肉は魔物を誘きよせ、次の魔物を誘う! 死にたくなかったら、今すぐ荷物を確認して、茂みの中に捨てろっ」



ソンナは良いタイミングで私の声を拡声してくれる。

全員がその場で荷物を確認し、悲鳴を上げる。


私の仲間たちはそれを奪い取ると、直ちに左右の茂みに投げ捨てた。

そして直ちに移動を再開した。



その後も数度の魔物を撃退すると、やっとトンネルの入り口近くまで来ることができた。



「ひとつ確認しておきたいことがある。

この先も、貴方は彼らを守る者か?

ゴールト伯爵の命に背いてまでも……

例え敵であっても、必要であれば話し合いに応じ、手を握ることができるか?」



「ああ、私も先に言っておくことがある。

私達はあの外道共と、進む道を違えた。奴らは人の命を餌にすると言い放った。絶対に許すことはできん。

それに比べれば、敵であった貴方たちの方が、よっぽど信頼できると思う。

我らも命を救われた側だ。私だけでなく、誰もがそれを分かっているだろう」



「いつからだ?」



「最初からだよ。

あれほど腕の立つ連中を、同じ軍にいて知らない方がおかしいだろう?

まぁそれに、貴方は別として、人外の民……、いや失礼、魔の民の末裔は目立つからな。

私はゴウラス、ケンプファー、どうやらこの100名を率いる男爵家の当主らしい」



「はははっ! なるほどな、それは迂闊だった。

我々も貴方がたが、同胞たちを命懸けで守ってくれている姿を見て、思わず飛び込んでしまったからな。

私はカイル、どうやら魔境に逃げ込んだ人外の民たちの、長をしているらしい。

これから安全に隠れる場所にご案内する。まぁ、この人数だ。かなり手狭だがそこは許して欲しい」



私達は2人して、思わず笑った。

人界の民にも、しかもローランド王国貴族に、こんな男がいるとは、思いもよらなかった。



ファルが封印を排除し、アースが先導し先ずは救助した同胞たちがトンネルに入った。

続いて私とゴウラス殿、そして彼の旗下たる兵士たち、最後に救援部隊とファルが入り、再び封印する。



「なんとっ! こんな所に……

これだけ地の利を取られてるんだ。勝てると甘い期待を持つ方が愚かだな」



三角砦の中に入ると、ゴウラス殿だけでなく、彼の兵、そして同胞たちも驚きに言葉を失っていた。

そして極度の疲労から同胞たちは、その場にへたり込んだ。



「同胞たちよ、もう安心だ。

ここは我々が、君らを救うために用意していた砦だ。狭くて申し訳ないが安心して休息を取って欲しい。

そして、気持ちが落ち着いたらお願いがある。


仲間を裏切ってまで君たちを救いに駆け付けた、ケンプファー男爵と兵士の皆さんに感謝して欲しい。

彼らが駆け付けてくれなければ、皆を止めなければ、君たちは魔物を誘き寄せる餌となり、果てていた。

彼らは命懸けで君たちを守ってくれたのだから。


我々にはまだ戦いがある。だが、約束する。

必ず勝利して君たちが望めば差別も迫害もない、私たちの新天地を、共に拓く仲間として受け入れる。

先ずはここで、温かい食事と休養を取って欲しい」



これを聞き、彼らば全員が歓声を上げ、泣き崩れた。

念のため……、今度はソンナに大きい音は、かき消して貰っているが……



「ケンプファー男爵と、旗下の兵士のみなさま。

私達は共に彼らを守って戦った仲間であり、皆さんの勇気ある行動には尊敬の念を持っています。

私達は皆さんと戦う意思はありません。ですが、ゴールト伯爵たちから仲間を、家族を守るため戦います。


お願いです。戦いが終わるまで、ここで目をつぶっていてください。どうかお願いします。

戦いが終われば、ローランド王国へ凱旋される帰路については、我々が責任を持ってお送りします。

皆さんを束縛することは決してありませんので、どうかご安心ください。


このあと、皆さまにもお食事を用意します。傷を負われた方は申し出てください。直ちに治療いたします」



こう告げた時、彼らからも安堵のため息が漏れた。



「カイルさん、我々は、戦う前からその準備や施設、そして気持ちでも負けていたようですね。

立場上加勢は致しかねますが、我々は見守ることお約束します。そして願わくば、君たちの勝利を!」



私達が初めて、友と呼べる人界の民を得た瞬間だった。

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は三日後、7/29の9時に『隘路決戦』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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