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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第二話 不思議な力の一端

私がこの世界に転移した当初から、話す言葉以外で私を混乱させていたことが幾つかあった。


一つ目は、この集落の近くで倒れていた私が、初めてテスラとアクアを見た時、私の視界には不思議なものが表示されていたことだった。



テスラ【鑑定結果 特性:風魔法士 状態:未発現】

アクア【鑑定結果 特性:水魔法士 状態:未発現】



彼女たちの姿の脇には、これまで見たことない不思議な表示が、ぼんやりと浮かんでいた。

私は全く訳がわからず、何度も目をしばたたかせていた。



「風魔法士?

そもそも鑑定とは一体何だ?

未発現とはどういうことだ?」



初めてのことに混乱し、私には何も理解ができなかった。


その後集落で暮らすうち、集落の人々全てにこの鑑定結果、表示が出る訳ではないことに気付いた。

だが、その表示が出ていたのは、200人近くいた集落の中で、8割近くにものぼっていた。



後日になって魔の民が辿った歴史、魔法が行使できる力を失った経緯の話を聞き、ひとつの可能性を考え、私は無理やり自分を納得させることにした。



彼女たちは失われた筈の魔法の素養を持っているのではないか?

それが私には見えるのではないか?

この力は、彼女たちの言う魔法のひとつではないか?


もしそうであれば、私にも魔の民の力があり、言ってみれば彼ら、人外の民の仲間ではないのだろうか?



無理矢理自分の中で納得はしたものの、それらが実証された訳ではない。

また、表示に出ていた未発現の状態から、どうすれば発現するのか、そこも皆目見当がつかなかった。



二つ目は、この世界では私の身体は以前の私と比べ、遥かに強靭でかつ、膂力りょりょくも比べ物にならないぐらい強くなっていたことだ。


私は幼いころから剣道を学び、中等学校では学校一の腕前、そう呼ばれたこともあった。

長年努力し、培われたものがこの世界では役に立つことになった。



それが理解できたのは偶然の出来事からだった。


ある日、子供たちが遊ぶ森に魔物と呼ばれるものが現れた。

そこは本来、比較的安全な森のはずだった。

血の匂いを周囲に漂わせ、遠くから魔物を誘引するようなことさえなければ……


もちろん集落ではそんな愚かなことをする者は、子供ですらいない。


だが、たまに訪れる行商人たちが、魔境の脇を抜ける際に魔物と遭遇し、この集落に逃げてきた。

本来、魔物に追われた際、人里に向かって逃げることなど、固く戒められ絶対にやってはならないことだ。


だが彼らはその禁忌を犯した。

逃げる過程で、魔物を集落に引き入れてしまった。



「子供たちを早く! 里の中に!」



私は森を駆け回り、まだ森に残っている子供がいないか探し回った。

そして、逃げ遅れていた子供を見つけた。



「カイルっ! 怖いっ! 助けてっ!」



木に登り、助けを求めるマルスの下には、黒狼と呼ばれた漆黒の毛並みの、私が知る狼よりは遥かに大きい魔物が二体、マルスを狙い取り囲んでいた。



「マルス、何があっても決して木から降りるんじゃないぞっ!」



そう言って私は夢中で黒狼に突進した。



手にしているのは、立ち木の枝を払う程度の木の刀、日本の木刀と呼べるほどの洗練さはないが、特別固い木を削り出したものだった。



二体の黒狼は左右に分かれ、狙う獲物を闖入者ちんにゅうしゃたる私に変え、襲い掛かってきた。


私は、木刀を中段に構えると、先ずは右側の黒狼に狙いを定め、自身も間合いを詰めた。

左足を踏み出すのと同時に、襲いかかってくる黒狼の牙を素早く左に払って木刀を振り上げた。


黒狼が怯んだ隙に、右足を右斜め前に踏み込み、黒狼の胴体を左袈裟に斬り下ろした。

重い手ごたえと、鈍い音とともに、黒狼は大地に伏して動かなくなった。



すぐさま、左側の黒狼に向き直り、宙を飛んだ前足と胸部に斬撃を見舞った。


この世界の私の膂力は、この斬撃で黒狼の足をへし折り、胸骨を簡単にたたき割った。

その後、地に落ち動けなくなった黒狼に、念のため止めをさした。


その時には、急を聞きつけ、助けに出た里の者たちも駆けつけて来ていた。



「カイルさん、あんた凄いなっ!

木刀で奴らを仕留めちまうなんて……、普通じゃないよ。こんな話、今まで聞いたことがない」



駆け付けた里の者にも驚愕された。

いや、一番驚いていたのはむしろ私自身だった。



「いえ、夢中で身体が動いただけです。

子供たち、マルスが無事で良かった……」



この事件以降、世話になっている里での私の役目は、大きく変わることになった。


子供たちの遊び相手から、里から少し離れた、魔境と呼ばれる魔物の生息地に入り、屈強な大人たちに交じり狩りを行うことに。



今や魔境は、限られた領域しか残っていないとはいえ、それでもまだ広大、かつ危険な場所であり、人界の者たちなら立ち入ることさえしない、特別な場所だった。


だが、この里の民はその魔境で狩りをし、そこで得た魔物を素材として売り収入を得ていた。

くだんの行商人も、その魔物素材が目当てで、定期的に集落を訪れていたのだ。


そのお陰でこの里は、他に人外の者が住まう里と比べると遥かに豊かであり、今日まで彼らが生き残れてきた大きな要因だった。



「カイルさん、今日もよろしく頼むぜ!

禁忌だけは犯さないよう、当分魔境に入る前には、繰り返し確認してくれよ」



それからというもの、私は彼らと共に定期的に魔境に入り、魔物と戦っていた。

そして彼らが長年積み重ねてきた、魔物と戦う術や、魔境での禁忌事項も教わっていた。


禁忌とは、魔境で行動する際に、絶対にやってはいけないこと、万が一の事態に取るべき行動など、彼らに受け継がれて来た、命を守るため、そして、里を守るために必要な遵守事項だった。



「はい、今日も声を上げて禁忌を全て読み上げましたよ。お陰でもうすっかり覚えてしまいました」



新人の狩人が魔境に入るとき、この里では必ずこれを行わせる。


一人前と認められるまで。

私には、禁忌は注意事項というより、魔物に対峙する者への、覚悟を誓わせるものに近いように感じた。


こうして、幾度も狩りに出掛けるうち、いつしか私も一人前の狩人として認められるようになった。



狩りを始めてから私の立場は、里で世話される者、言ってみれば居候から。里の生活を助ける者、稼ぎ頭へと劇的に変わった。


この変化は、これまであまり交流のなかった、里の大人たちとも交流を深めることに繋がり、いつしかその腕を買われ、魔境で行われる狩りでは、里の者たちを率いる立場へと変わっていった。



そしてまた、偶然の出来事から私は、もうひとつの不思議な力に気付くことになった。



その日、私たちが魔境で出会ったのは、彼らがヒクイドリと呼んでいる魔物だった。


鳥といっても空を飛べる分けではない。

漆黒の羽に覆われ、その体躯は人の背丈以上の大きさで、馬より遥かに早い速度で大地を駆け回る。


だが、その太く頑丈な脚自体が凶器となり、その蹴りは木の幹をも粉砕するほどの力があり、脚爪は鋭利に尖り、人の皮膚をも容易く切り裂く。


漆黒の大きな羽根は、重ねると刃を通さないほど頑丈で、しかも独特の艶を放ち、防具や装飾品としても価値は高いらしく、行商人に渡せば喜んで食料と交換してくれた。


羽根だけでなく、爪や角、嘴、脚の腱も素材として価値が高く、その肉も食べることができる。


狩りの獲物として非常に良い魔物だが、非常に危険であり、熟練の狩人でも不用意に対峙することを躊躇うぐらいだった。


さらに、個体としての強さに加え、厄介なことに、名前の通り口から炎の塊を吐き、遠距離からも攻撃してくるからだ。


通常なら絶対相手にしたくない、そんな魔物だった。



だが、今回新たに狩りの仲間として加わった、魔境での狩りがこの日初めてだった若いサラムは、無謀にもヒクイドリに挑みかかってしまった。



「ひぃっ!」



そして、たちどころに爪によって足を切り裂かれ、負傷して倒れこんでしまった。



「援護する。サラムを後方に!」



私は彼を庇い、ヒクイドリの正面に立った。

魔物が放つ炎の塊を左右に移動しながら避けつつ、互いに正面からぶつかるよう突進した。


魔物がその鋭い爪を持つ脚で、強烈な一撃を見舞うべく延ばした瞬間、左にかわしてその長い首目掛けて剣を横に払った。


ヒクイドリは、断末魔の声を上げることもなく、首を失った体は、そのまま数歩走ると倒れた。



「カイルさん、ヒクイドリに正面から突っ込むとか……、ほんと無茶しますね。

こんなの、誰も真似できない芸当ですよ……」



里の者から半ば呆れた、驚きと賞賛に満ちた声を掛けられながら、急ぎ売り物になる部分、足の腱と爪、漆黒の羽、嘴と頭部の角を皆で剝ぎ取った。


サラムが負傷している以上、肉は諦めるしかなかった。

流れ出る血を止血し、応急処置を行い、我々はいち早くこの場を離れる必要がある。


共に剥ぎ取りを行っていた、以前は私の遊び仲間であったマルスの父親、熟練の狩人であるアルスがヒクイドリについて、説明してくれた。



「このヒクイドリは、火の属性を持つ魔物なんです。

魔物の中でも、属性を待つものは少なく、どれも手強くなかなか倒せないんですよ」



「属性を持つ魔物って、何が違うんですか?」



「こいつは火を吐いたでしょう? 奴らは、その属性に合わせた魔法のようなものを使って来ます。

そして、属性を持つ魔物はその属性の魔石を体内に持っているんですよ。



「魔石……、ですか?」



「ちょっと待ってて下さいね。

現物を見た方が分かりやすいでしょうから」



そう言って、ヒクイドリを解体しながら水晶の様な形をした、赤い綺麗な石を取り出した。



「ほら、これが魔石です。

使い道もないので、まぁ行商人への売り物としては、そんなに価値がある訳ではないんですが……

良かったら、記念に持っててくださいな」



そう言って、こぶしより少し小さな、火の魔石を渡された。


その瞬間だった。何かとても不思議な感じがした。

まるで何かに呼ばれるように振り返ると、後ろには手当を受けるサラムがいた。



サラム【鑑定結果 特性:火魔法士 状態:付与可能】



鑑定結果に、今まで見たことのない表示、未発現の部分が、付与可能に変わっていた。



これこそ、人外の民として、迫害されて力を失った者たちが、自身と力を取り戻すことになる、記念すべき瞬間であった。



※※※ 禁忌事項 ※※※



『魔境の畔に住まう者、決して禁忌を犯すなかれ。

 禁忌を犯すもの、自らの命を贄に禁忌を知る。

 魔物を人の世界に招く愚行、決して行う事なかれ』



不血の禁忌

魔境の中やその周辺では、決して血を流してはならない

魔物は血の匂いに誘われ森深くからやって来る

負傷の際は直ちに血止めを行い、匂いの強い葉で患部を覆い、血のついた衣服は直ちに焼却すべし



不向の禁忌

魔物に追われた際は、決して人里に向かうべからず

道を知った魔物は、魔境を出て人里へ向かう



不断の禁忌

人を襲った魔物は必ず討伐しなければならない

人の味を覚えた魔物は次から必ず人を狙い襲う



不測の禁忌

複数の魔物を不用意に準備なく相手してはいけない

不慮の襲撃に常に備える準備を怠るなかれ

窮地の魔物は仲間を呼び寄せること忘れるなかれ



不退転の禁忌

進退窮まった時は、馬や家畜を犠牲にして魔物の足止めを行うべし

最後は自らの命を犠牲にしても、魔物を先に進めるべからず

最後までご覧いただきありがとうございます。

次回は明日9時に『魔法の復活』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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