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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第二十七話 災厄の予兆

ゴートの街で、仲買人の指定した期日まで、待機する必要のあった我々は、宿を取り、残った資金で食料や種子などを買い、露店で掘り出し物がないか巡る日々を過ごした。


そして夜は、いつもの宿で過ごした。


-----------------------------------------------------------------------


定軍山の雪はすっかりなくなり、初夏の日差しが大地を照らしていた。

私たちは旅立ちの準備を整え、仲間たちとともに、夜は時空魔法士たちと共に別れの宴を開いていた。


夜も更けて、空には煌々と満月が暗闇を照らしていた。

そんな中、無謀にも夜の魔境を走破し、隘路を突き進む一団がいた。


夜間は偵察隊も出ておらず、隘路の途中に設けられた小さな関門に担当の者が詰めているだけだ。

先行した侵入者たちは、闇に隠れて彼らに忍び寄り、命を奪っていく。


彼らの後ろには、1,000を超える軍勢が続き、黎明前の暗闇のなか、誰もが深い眠りに就いているころ、定軍山の斜面に設けられた里を急襲した。


予想外の襲撃に、里の者たちは狼狽し次々と討ち取られていく。


侵入者は、我々が眠る宿営地も包囲し、火攻めを行ってきた。

燃え盛る炎の中、子供たちは逃げまどい、彼らを守るため必死に防戦する男たちも凶刃に倒れていく。


私やその仲間たちも奮戦したが、燃え盛る炎で退路を失い、気が付くと私は業火に包まれていた。


-----------------------------------------------------------------------



「……、またあの夢か。

3度目ともなると、もはや疑う余地もないか。だが、奴らは夜の魔境をどうやって抜けてきた?

初夏、出発の準備が整う時だとしたら……、あまり猶予はないな」



目が覚めると、私はすぐに行動を開始した。

我々の主力、魔法士たちの多くは、中継地となる避難所の建設で定軍山を遠く離れている。


交易から戻った後、招集をかけたのでは間に合わない。



「アベル、申し訳ないが商品の受け取りなど、後を託したい。

待っている間、ゴールト伯爵、またはドーリー子爵などの出兵の動きがないか探って欲しい。


ファル、一度魔境側まで送って欲しい。

その後ゴートに戻り、アベルと共に物資を受け取り帰路について欲しい。


地魔法士4名と、火魔法士のうち2名は私と共に、定軍山に戻り、アルスたちを呼び戻す。

恐らく交易隊が戻った後、数日を経ずして敵襲の可能性がある」



アベルは何のことか分からず、終始きょとんとしていた。

だが、これまでに苦楽を共にしてきた仲間たちは、突然の私の行動をよく知っていた。


また何かが起こる。

自分たちを襲う災厄が!



立ちどころにそれを理解したのだろう。

直ちに準備を整えだした。



「交易隊の任務も重要だ。物資の入手は是非お願いしたい。私は先に戻り、体制を整える。後は頼んだ!」



そう告げて、私たちは騎馬を走らせた。



私たちは強行軍で定軍山に戻ると、隘路で地魔法士たちにいくつか指示を出した。

そして彼らには、その作業の準備に入るよう手配した。


仲間の元に戻ると、先ずは中継所建設に出ていたアルスたちに早馬をを出した。

作業を中断し、急ぎ定軍山に戻るようにと。


その後、クーベル殿に面会し事の次第を告げた。



「信じられないかもしれませんが、実は私には未来に起きる危機を予見する力があるようです。

確実に、ではありませんが漠然として。

これまでに二度、我々はその予見に救われました。


恐らく次の満月ごろ、夜間に隘路を抜けた大規模な敵襲があります。

夜の魔境をどう抜けたか……、信じられないことですが、それは分かりません。

ですが、私たちはこの里を防衛するため、これより動くことご許可いただきたい」



クーベル殿は少し考えこんだ。



「……、信じましょう。

カイル殿は色々規格外ですからね。

鑑定や付与魔法なんて、私たちは知りませんでした。ならば、未来予知の力があっても不思議ではない。

わが里を守ってくださると仰っているのに、信じない訳にはいきませんな」



そのまま私たちは2人で大まかな防衛戦略を議論しはじめた。



「私が思うに、確かに隘路は防衛上非常に有利です。

ただ、盾を構え大人数で押し込まれれば、数の勝負で圧倒的に不利になるでしょう。

そして、皆様の魔法は戦闘には不向きです。


あと、我々がお譲りした中継所、敵はそこを占拠し出撃の拠点としてくるのではと考えます。

魔物対策をどうやってくるか、この点は不明ですが」



「カイル殿には話していなかったが、ここ最近奴らは時折門を開き、盛んに斥候を放っているようだ。

もしかすると、以前に戦のあったという施設、既に占拠しているやも知れません。

なので先日、交易の申し出があったとき、アベルにはその旨を含ませて同行させていたのだが……

実は、旅立つカイル殿たちに余計な気遣いをさせんよう、この件は秘匿しておりました」



「それは……、大変失礼しました。

ならば、中継所も既に存在が露見しており、攻撃を受ける。その前提で策を考えましょう。

あそこは守りに向きませんので、放棄します。


我らは隘路で敵を分断し、後方から奇襲をかける。

これで奴らは浮足立つことでしょう。


その後は、魔境を越え2度とここまで手出しすることのないよう、徹底的に排除します」



「となると、迎撃はこの地点で……」


「はい、ここに罠を張り……

あとこちらに拠点をつくり……」


「では、この砦は……」


「退路を潰すためにも……」



2人の議論はその日遅くまで続き、防衛戦の準備が開始された。



翌日、私は共に交易から戻った、4名の地魔法士2名の火魔法士、定軍山に残留していた時空魔法士1名と新たに魔法士となった重力魔法士1人、護衛部隊から10人を率いて隘路を南に進んだ。


隘路を出ると、アベルたちが交易に使用している道がずっと東に伸びており、我々はこの道を街道と呼んでいた。


街道を数キロほど少し進み、少しだけ定軍山とは反対側の森に入ると、以前我々が使用していた中継所がある。


この中継所は露見している可能性もあるので、事前に奪われる前提、いや、敢えて奪わせる方向で考えている。そして奇襲で奪い返す。


そのために必要な、我々が隠れる場所を探し、街道を東へと進んだ。

左手に見える定軍山の麓と街道の間には深い森が広がっているが、少し進んだ先には、裾野の岩山が森の中を突き抜け、街道近くまで三角形状にせり出し、絶壁の崖で覆われている場所があった。



「ここだっ! ここなら最適だろう」



私はその崖目指し、周囲の魔物を警戒しながら馬を降りて進んだ。

せり出した崖の先端は、道を外れ森を200メートルほど進んだ場所にあった。



「アース、ここに崖を偽装した三角形上の砦を作って欲しい。先端が道に向かうように。できるか?」



「崖の先端を削り、時空魔法士が岩を収納、または重力魔法士のティアが移動してくれれば、なんとか。

ちょっと岩を削るのが手間ですがね」



「ヒメルダ、ティア、決して無理しなくていい。

大人たちのように頑張らなくて良いから、できる範囲で力を貸してくれるかい?」



私は、緊張気味のふたりに、極力意識して優しく語りかけた。

彼女たちは最近、お礼にいただいた魔石で魔法士になったばかりだ。


時空魔法士と特に重力魔法士は、鑑定の結果、適性のある者自体が少なく、希少な存在だった。

もう大人たちには候補者もいない。



「私たちの里は食べるものにも困り、貧しい暮らしをしているとき、カイル様たちに助けて貰いました。

今までも守ってもらってばかりで……、今度は役に立ちます!」



そう言ったヒメルダは、我々が最初に声を掛けた、他の人外の者が住まう里の出身だった。



「私たちは行く当てもなく、いつも酷い目にあっていました。今生きていることができるのは、お腹いっぱい弟にご飯を食べさせてあげれるのも、長たちのお陰です。頑張ります!」



ティアは両親を亡くし、弟とともに奴隷として売りに出される前に、ゴートの商人から買い取った。

もちろん、奴隷としてではなく、仲間として。


そんな2人は、付与の機会があると知り、迷わず手を挙げていた。



彼女たちは、まだ魔法士として目覚めたばかり。

そのため、アルスも建設部隊として連れて行かず、定軍山で日々魔法の修練をさせていた。


魔法は無限に使えるわけではない。

使う度に、体力と精神を激しく消耗するようで、消耗を抑え、疲労に耐える訓練が必要だった。

彼女たちはまだその途上、無理はさせられない。



私たちは、彼女たちの状態を伺いながら、急ぎ仮設の砦、出撃と撤退時に隠れ場所となる、砦の建設を進めた。


この世界の月、日本と趣はかなり違うが、それが満ちるまで猶予は10日前後しかなかった。

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