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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第二十六話 ゴート再訪

定軍山の頂を白く彩っていた雪も、徐々にその範囲を狭め、里には本格的な春が訪れた。


この間、私たちは2つの里を行き来し、主にそれぞれの里の外壁工事や堀の掘削、耕作地の拡大などに従事し、それぞれの里の発展に貢献した。



しかし、ここに来る前は考えてもみなかった大きな問題、ここに来て最初に気付いたことに頭を悩ませていた。


それぞれの氏族は、本来同一の魔法を持つものだけで里を作り、血の交わりを断っていた。


だが、人外の民である私たちは、既に何世代も混血を繰り返し、彼らから見ると異質の存在だ。

これ以上、彼らの里に居続けることは、新たな問題を起こしかねない。



私は兼ねてより考えていた移住計画を、現実のものとする覚悟を決めた。

未だ、どの魔の民の氏族も住まない魔境の最深部、ずっと北の地に我々の集落を築くことに。


そうなると、独自の生活圏を営むための資材が必要になる。

我々が、半年間で新たに得た魔物素材を、2つの里では調達できない資材に変えることを決めた。


また困難な移住の旅になるかも知れない。

ここまで一緒に来てくれたみんなはどう思うだろうか。

そのことで頭を悩ましていた。



「カイルさん、ここまで皆、あなたを信じ、あなたに付いて来たんだ。

この先も同じですよ」



「アルスさんの言う通りですね。

どこに行っても、我々が安全な防壁を作ってみせますよ。これだけ地魔法士が揃ってるんですから」



「アースさん、地魔法士だけじゃないですよ。

私たち、火魔法士も今や16名です。移動の際は左右に展開して防御も十分にできます。

そして、ファルケさんの先頭隊と連携すれば、魔物対策は十分にできます」



「おっと、ヘスティア嬢ちゃんに言われちまったな。

私ら護衛隊は、魔法こそ使えませんが、狩人としての腕を磨いています。遅れは取りませんよ」



「と言うことです。カイルさん。

貴方はこれまで私たちを信じて任せてくれました。私たちも同じく貴方を信じていますよ」



最後に時空魔法士のファルが笑って言葉を続けた。



「皆、ありがとう。やっと決心がついたよ。

ゴートの街で再度資材を調達し、その上で移動を開始しようと思う。


アルスは残った者を率いて旅の準備を。時空魔法士はファルとソラを同行させたい。

アース、戦闘にも対応できる地魔法士を4名選抜して欲しい。

ヘスティアは火魔法士から同じく4名。

ファルケの隊からは10名ほど連れていきたい。


それぞれ人員を今日中に選抜し、明日以降の出発に備えて欲しい」



「カイルさん、今回も私は置いてきぼりですか?」



アルスは少し不満気だった。

だが彼を残さなくてはならない理由があった。



「アルスが残っていないと、クーベル殿やファラム殿と誰が交渉するんだい?

残った人々を誰が落ち着かせるんだい?


でも、もっと大事な理由があるんだ。

アルスは残った魔法士たちを率いて、中継所となる安全地帯を築いて欲しい。

差し当たり、ここより北の定軍山を抜けた先、風の氏族の里との中間地点にひとつ、その先は川を越えた先にひとつ、ファラム殿と相談し、更に北にもうひとつ。


奥の2つは、ちょっと規模の大きいもので良いと思う。どちらかで一度収穫を迎えたい。

なおこれらの間で宿営が必要な場合には、手狭でも一晩無事に過ごせるもので構わない。

この大事な役目をアルスに託したい」



「承知しました。

お戻りになるまでに間に合わないかも知れませんが……」



「なあに、三番目は、移住の隊列がが二番目を出る前に完成していれば良いと思う。

このうち最初の2つの中継施設は、移動後にファラム殿にお譲りするので、その前提で頼む。

三番目の中継所の近くには、地の氏族の集落もあるそうだ。そのあたりも繋ぎをつけておきたい」



「なるほど、先に我らがここに来る過程で作った、中継所と同じ、という訳ですな?」



そう、私たちはここ来る時に作った中継所を、グーベル殿に譲り、魔境での狩りの拠点として活用してもらっている。


新しく作る中継所も、安全に移動ができるための施設として、ファラム氏族長に譲ればいい。

私はそう考えていた。



「では私は、クーベル殿に計画を話し、交易に出ることの許可を求めてくる。

それぞれ準備を頼む」



こうして、新らたな旅の準備は開始された。



クーベル殿に私の意向を話し、交易の許可をもらった3日後には、私たち商隊一行はゴールト伯爵領に設置された関門近く、魔境側の切り立った岩山の前にいた。



「ここが、私たちが利用している抜け道です。

まぁ、人と馬がなんとか通れるぐらいのものなんですが……」



アベルが大岩を指さして笑った。


今回の交易について、クーベル殿が出した条件はただひとつ。

案内人としてアベルを同行させることだった。



アベルが大岩を収納すると、そこには狭い階段状の道が岩山に沿って続いていた。

地魔法士の助力なしに、この階段を作るのは困難を極めただろう、そう思っているとアベルは笑った。



「私たちは、邪魔な大きな岩を収納し、逆に手ごろな岩を取り出して並べるだけですからね。

あそこをトンネル? でしたっけ。それを作って抜ける方が、よっぽど凄いですよ」



無事、私たちは関門脇の岩山を抜けると、アベルは反対側にも大岩を置きなおし道を封印した。


その後、アベルと私を含めた22騎はゴートの街に向け馬を走らせた。

途中で、アベルの隠していた荷馬車を伴って。



ゴートの街は私の知る以前より賑わいを見せていた。

たまたま、顔見知りの商店の男に話を聞くと、意外な情報を得ることができた。



「いやね、ゴールト伯爵とドーリー子爵、両方から大量の武器、防具の発注があったらしいんでさぁ。

それで鍛冶屋や武器職人、防具職人は大忙しでね。

それぞれの素材を扱う商人たちも走り回っているって話ですぜ。


あと、なんでもドーリー子爵が魔境の中に大規模な開拓地を作るって話で、そっちの物資もかき集めているらしいですぜ?

それにどこかで戦があるって噂もあるし……、そんなこんなで、この街はいま凄い景気なんですよ」



これらの一部の原因は、おそらく私たちだろう。

それぞれ、我々の追撃戦で多くの兵を失ったのかもしれない。


事実、関門近辺では朽ち果てた剣や防具の残骸をあちこちで見掛け、何度も立ち止まり祈りを捧げた。


そして魔境の大規模開拓。

きっと私たちの隠れ里を活用するのだろう。


整備すれば、あのままでも数百人規模の入植が可能だし、住居や畑はそのまま放置していたし。



少し複雑な気分だったが、それなら素材となる魔物の部位も高く売れるだろう。

そう思い、いつもの仲買人を訪ねた。



「ほう? 2人揃ってとは珍しいな。

カイルの旦那を紹介してくれた時以来だが、今回も期待して良いのかな?」



仲買人にとって、今の景気、需要の増大は見逃せない商機だ。

いつも大量の素材を卸す2人が揃ってやって来たのは、彼にとっても願ってもないことだ。



「ご期待に応えれるかどうかは分かりませんが、それなりに素材は持って来ていますよ」



「アベル殿の言うとおりだが、こちらにも頼みがあってね。

ドーリー子爵の開拓地の話はご存じだと思うが、私たちもそこで商売を始めようと思っているんだ。

鍛冶工房や木工所、工房関係など手広くやるつもりです。

人手は確保しているんだが、開業にあたり必要な資材と、道具類が一式で必要なんです。

できれば……、買えるだけ買いたい」



「そうだなぁ……

道具類は問題ないが、資材は少々高くなるよ。

なんせこの景気だ。何もかもが足らなくて値上がりしてやがるからなぁ」



「これも、10個ほど持っている。

都合をつけてくれるんなら、まとめて全部あんたに預けるが……」



私はアベルが事前に教えてくれた助言に従い、時空魔法の属性を持つ魔石をひとつ、懐から取り出した。

それを見た仲買人は飛びついた。



「カイルの旦那っ! これは……

滅多に手に入らない種類の魔石じゃねぇか! それも10個一括なんて聞いたことがないよ。本当かい?」



そう、人外の者が住まう集落にいたころ、属性を持つ魔石は価値がない、皆そう思っていた。

だが、これは行商人の策略だった。


彼らは価値がないものとして、しぶしぶ安く買いたたき、価値のわかる取引先に高値で売り付けていた。


初めてアベルと会った時、魔石を譲ってほしいと彼に話したとき、彼の返答は予想外だった。

特に属性を持つ魔物の、魔石の価値が非常に高いことを、この時私は初めて知った。


そして、今の私には当面使用予定のない時空魔属性の魔石が20個ある。

アベルの提案は、その10個を今回売却することだった。



魔石を見て、激しく前のめりになった仲買人との商談はまとまった。

急いではみるが、最低3日から5日は猶予が欲しい、そう告げて彼は勢いよく走りだした。

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