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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第二十二話 北の魔境での戦い① 避難所防衛戦

魔境に作られた避難所の、防壁の上から隠れて様子を見ていた私たちにも、探索で忍び寄る兵士の姿が確認できた。


私たちは息を飲んで防壁の陰に姿を隠し、その様子を見守っていた。

暫くすると、兵士たちの様子が急に慌ただしくなり、その全てが一旦後退したように見えた。



「間もなく奴らはやってくる。

恐らくこの避難所を発見したのだろう。偵察のものを残し、後退して体制を整えて一気に来るだろう。

きっと奴らも隠れてこちらを伺っているはずだ。引き続き隠れているように」



皆は引き続き身を隠している。

私は背中に汗が止めどもなく流れ落ちるのを感じながら、息を殺し待っていた。



ドーリー子爵が構えた森の入り口の本陣では、100人の兵士たちが懸命に岩をどけ土砂を掻き出していた。

それを眺める子爵は、自身の予測を裏付ける確信を得ていた。



「奴らは既に、ここを抜け森の中ということか……

あの馬鹿どものお陰で、1日の遅れが悔やまれるわっ!」



子爵は遠く後方に見える、関門の方角に向き悪態を付いた。

その時、更に奥地へと展開させていた、探索隊からの急使が駆け込んできた。



「報告っ! 報告ですっ!

この先、更に奥地へしばらく進んだ場所に、怪しい建造物がございます。

現在、見張りの者を配置し、後方にて探索隊は集結するよう動いております。

この先のご指示を!」



「でかしたっ! 見つけたか!

捜索隊は今を以て作業を中断。武装を整え探索隊に合流する。

なお、ここには20名ほど残し、本陣を守りつつ穴を掘り続けるように」



そう命じると、直ちに行動を開始した。


大急ぎで80名の兵を率い、集結地点に移動すると見張りに付いていた者を集め、情報を確認した。



「これより約1,000歩ほど進んだ、小高い木々に囲まれた場所に奴らの拠点があります。

周囲は高い土壁で覆われ、中は確認できませんが、数百人を収容できる規模の砦のようです。

奴らが中にいるかどうかは、確認できておりません」



「ふむ……、そうか。

以前のこともあるし、油断はできんな。密かにその周囲まで移動し、三方から包囲せよ。

強襲せずとも良い。奴らに退路を残し、矢による攻撃を軸に圧迫せよ。

魔物と敵襲には十分警戒してな」



ドーリー子爵自身、以前の戦いから学んでいた。

彼らは息を潜め、我らを待ち構えている可能性がある。奴らが築いた魔境の中の隠れ里でもそうだった。


そして、一方に敢えて包囲網を開けたのは、その方面からの撤退を誘うためだ。


魔境の中では、外で攻撃を行っている者の方が危険となる。

包囲殲滅の危機となれば、全員が頑強に抵抗することになるだろう。


そうすれば、砦を落とすには時間がかかり、自分たちは魔物の襲撃に合う可能性が高まる。



「そう何度も同じ手はくわんっ!

奴らの反撃が落ち着けば、正面のみ砦に取り付き防壁を越えよ。

左右は、開いた方角から奴らが逃げ出した際、追撃を行う準備をしておけ」



子爵率いる軍勢は、万全の体制を整えながら、目指す砦に足を忍ばせ移動していった。



「何じゃと? どういうことだっ!」



同じころ、ドーリー子爵の位置からはそれなりに距離のある、関門で待機するゴールト伯爵にも急使が訪れていた。



「はいっ! ドーリー子爵は、本陣にて何やら穴を掘っていた部隊を引き連れ、奥地へと移動しました。

探索のため、展開していた兵たちも集結しつつあるようです」



「奴め……、発見したようだな?」



こう呟き、口元を綻ばせた。

そしておもむろに立ち上がると、命令を発した。



「全軍、奴の後を追え! 奴らに横取りさせるな。

各指揮官には、部隊を集結させ全軍で以てこれに当たるよう、今すぐ伝えるのじゃ。

ふふっ、獲物は目の前だぞっ!」



こうして、避難所を包囲しつつあった、ドーリー子爵軍380名の後ろから、ドールト伯爵軍800名が慌てて駆け付け始めた。



防壁の上でカイルは、空を仰ぎ見た。

既に陽は高く昇り、間もなく中天に差し掛かろうとしていた。



『最初の警報から恐らく3時間ぐらい経ったか?

以前と違い、今回は慎重に攻めてきた分、思ったよりも時間が稼げたな。

そして……、そろそろか?』



そう私は心に思い、傍らに居たサラムに話しかけた。



「攻撃合図はサラムに頼む。

私の指示で、得意の火の玉をあの場所に当てて欲しい」



そう伝えた時だった。

突如一斉に矢の雨が砦に向けて襲ってきた。


防壁上に身を隠す、私たちの周囲にも数本突き立ったが、大半は無人の内側へと吸い込まれていった。

第二射、第三射と続いた後、変化が起きた。


南東から、大人数の兵士たちが叫び声を上げて突進してくる様子を確認すると、南側(関門側)の防壁に、それらに押されるように200名ほどの兵士たちが現れ、取りつき始めた。



「サラム、今っ!」



私の合図で、サラムは次々と火魔法を発動、ヒクイドリが放つような火球を連続して放った。

火球は、防壁と同じ高さ、正面の木々の梢に置かれていた、巨大な枯れ葉や柴の玉に当たる。


事前に十分に油を染み込ませていたそれらは、たちまち巨大な炎の塊となって、木々から落下した。

もちろんその下にも、燃えやすい枯れ枝や枯れ葉、油などが染み込ませてある。



「敵襲っ!」


「火だぁっ!」


「罠だぁ」



兵士たちが絶叫する間も、木から落ちた炎の塊は、大地にぶつかる衝撃で一気に炎が広がり、そして周囲の大地は火の海となった。


最初に押し出された200名は、難を逃れたようだったが、その後に続いた数百名は多くが炎の壁に飲み込まれた。

辺りには彼らの上げる絶叫が響き渡り、目を背けたくなるような惨状が展開された。


壁に取り付いた者たちは、決して幸運だったわけではない。

炎を合図に、彼らに向けて城壁上からも一斉に攻撃が開始された。



「ここは死地だっ!

左右の壁に展開して一時退避っ!」



魔法や矢の攻撃で討ち減らされ、既に150名を切っていた兵たちは、指揮官の指示に従い炎と防壁の間の回廊を左右に逃げ延びた。



「しまった! こちらが罠かっ!」



彼らの足元は崩れ、指揮官らしき男が狼狽の声を上げる。


そこには、彼らの背丈の倍以上ある、深い落とし穴が用意されていた。

そこに数十人の者たちが次々と飲み込まれた。


その多くは、落下の衝撃で負傷し、味方の救助を待つ以外、為すすべがなかった。



「奴らは少人数だ!

同じ罠が何度も発動できるわけもない。盾で矢を防ぎ、梯子を下して負傷者を救出しろ!」



ひと際豪奢な鎧をまとった男が指示しているのを見て、私は彼がドーリー子爵だろうと推測した。

これまで何度か、物陰で同じ顔の指揮官を見たことがあったからだ。



「左右の落とし穴は攻撃の手を緩め、正面の敵に集中!

時間を稼ぐぞ!」



私は攻撃の方針を変更した。

負傷兵は少しでも多く救出して欲しかった。


これは単に人道的な理由ではない。負傷兵を多く抱えるほうが、軍としての行動は制限され弱体化する。

これは私自身が帝国軍人として、従軍した経験から知っていたことだ。


このころになると正面の炎は弱まり、火の壁は何か所かで切れ間を作っていた。

その間を縫って、続々と新手が突入してくる。



所詮我らは著しく数に劣る。

罠と魔法で何とかその場をしのぎつつ、私たちはその時を待っていた。


そして、ずっと待ち望んだものが遂に到来した。

最後までご覧いただきありがとうございます。

今回からは三日ごとの投稿になります。

次回は三日後、7/5の9時に『北の魔境での戦い②』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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