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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第二十話 追跡の始まり②

トンネル内で罠が発動し、200名の兵士たちと行商人たち4人が大地に埋もれた事実を、本隊率いるドーリー子爵は知らない。



「貴様らは一体何を考えている?

ドーリー子爵自ら、野盗を追いここまで来られたというのに、何故関門通過が許されんのだ?」



「そう仰っても、我らはゴールト伯爵より厳命を受けております。誰であれも許可なく通過を許すなと。

不用意に魔境に踏み込めば、いたずらに魔物を引き寄せることにもなりかねん。


そんなこともご存じないのか?

万が一、大挙して魔物が関門を襲ったとき、あなた方はその責任が取れるのか?


その野盗たちはどこにいる?

逃げ込んだと仰る魔境側には、人の影ひとつ見えないが、先ずはその証拠を示されるべきであろう?


失礼ながら、ドーリー子爵に申し上げる。

先ずはわれらが主、ゴールト伯爵に面会し、経緯をご説明いただいたうえで、許可を得てくだされ」



傍らで、配下の兵と関門を守る守備隊長とのやり取りを見ていた、ドーリー子爵は大きなため息をつき天を仰ぎ見た。


あの強欲な男に事情を話でもしたら、奴は全てを独り占めにしてしまうだろう。

だが、何も伝えなければここは通過できない。



「この際、やむを得ないか……

では、我らは野盗どもの痕跡を辿り、この関門を通過しないで追跡を継続する。


この旨、其方たちからも伯爵に報告してもらえるか?

決して伯爵の領地を侵す意図も、お騒がせする意図もないことを。ただ賊を追っているだけだと」



「承知しました。しかとお伝えいたしましょう」



守備隊長がそううなずき、伝令を走らせるのを確認すると、子爵は軍を率いて先ほど発見した横穴まで戻り、そちらから追跡することを決意した。




ドーリー子爵たちが、関門通過を巡り押し問答を繰り返していたころ、カイル率いる一行は既に魔境の中に築いた最初安全地帯、関門側の避難所に辿り着き、一息付いていた。



「さて、ここまでは無事に辿り着いたが、まだ油断はできないな。

この先、次の避難所まで進む道は深い魔境の森を抜けることになる。

さらに、関門からの追手も警戒しなくてはならない……」



「そうですね。次の避難所まで彼らの足では半日以上かかります。

ですが、ここでゆっくりしている訳にも行きません。関門が開き、大規模な人数で探索されればここもいずれ露見します。先を急ぐべきですね」



私は立ち上がり周囲を見回した。

冷たい雨の中、一晩中寝ずに移動した彼らも、護衛に当たっていた者たちもかなり消耗している。



「これより隊を分けて出発する。先ずは人を優先して。

荷馬車に乗り込めるだけの人数を乗せ、騎馬と荷馬車で次の避難所まで駆け抜ける。


アルス、指揮を頼む。アースとソラは彼らの誘導を行い、空の荷馬車を率いて戻って来て欲しい。

うまくいけば、今日中にもう二回輸送したい。


魔法士と戦闘要員は半数に分け、半数は護衛彼らの護衛につき、半数はここの防衛につく」



私の決断は直ちに実行に移された。

人だけを乗せた移動なら、2往復で戦闘要員以外を全て載せて移動できるはずだ。


3回目で荷駄に乗せることができる家畜類。

そうすれば、残りは翌日、足の遅い家畜を引き連れ全ての移動が完了する。


この北の魔境での夜間移動は危険すぎる。

今日できることはそれが精いっぱいだろう。

細心の注意は払ったが、雨の中の夜間移動を見ていた者がいれば、今頃騒ぎになっている可能性もある。


私たちが置かれている状況は、まだ安心できるものではい。



ドーリー子爵は、横穴の所まで一旦戻ったが、何も進展のない状況に苛立ちを募らせていた。

先に、横穴を進ませた兵たちからの報告もなく、状況はわからない。


伝令のため、横穴の中に入った兵の報告は、全く要領を得なかった。



「中はかなり奥まで穴が伸びておりますが、奥に大規模な崩落があり、途中で穴は塞がっています。

今、何名かで土砂をどけるよう試みておりますが……」



「先に進んだ200名はどうした?

何か痕跡はあったのか? 崩落した箇所より奥に進んでいるのか?」



「その……、途中まで松明を灯した痕跡もあるのですが、崩落した先がどうなっているか分かりません。

土砂を取り除くにもそれなりの人手と、崩落を防ぐための支柱など、木材が必要です。

狭い穴の中では、作業も思うようにできません」



「もう良いっ!」



子爵は、一番したくなかった決断を、今ここでするしかないことを理解した。



「これより儂は100騎を連れ、ゴールト伯爵に面会してくる。残りはこの穴を慎重に掘り進めろっ!

中に入った者たちの安否も気になるでな」



ドーリー子爵たちは、追撃のための貴重な時間を、ここで浪費することになった。

だが、カイルたちも全てが順調という訳でもなかった。



疲労困憊のアースとソラが、最後の輸送に必要な数の荷駄を引き連れ、関門側の避難所に戻った時には、既に陽は沈み、夕焼けが赤く空を照らしているころだった。



「申し訳ありません。

2回目の往路、黒狼の群れに遭遇しました。

戦闘を行う過程で、何種類かの魔物がおびき寄せられ、討伐に時間を要しました」



そう、黒狼は魔物たちの偵察要員だ。黒狼自体の強さは、熟練の狩人からみると大したことはない。

だが彼らは、戦闘を行っている中、次々と他の魔物を呼び集める。

一旦遭遇してしまったら、仲間を集められる前に素早く葬らなければならない。



「全員無事か?」



「はい、命を落とした者は誰もいませんが、3名ほど深手を負ってしまいました。

幸い、聖魔法士がその場で対処いたしましたので、命を取り留めましたが……」



「そうか……、厳しい中ありがとう。

そして、よく戻ってきてくれた。

輸送に関わった者たちは、今晩は夜警につく必要はないので、ゆっくり休んで欲しい」



夜間の警戒は、避難所の防壁上から魔物を警戒するだけで十分だ。

しかも彼らは、防壁に阻まれ襲ってくることはできない。


ローランド王国の兵士なら、誰もが夜の魔境の恐ろしさを十分知っている。

まして、夜に戦闘行為を行うなど、敵も味方も巻き込む自殺行為なのだから……



私たちは、最後の手段、ここが兵士たちに襲撃された場合の対策を行っていた地魔法士たちとともに、避難所の防壁の中に戻り、交代で休息をとった。



ドーリー子爵は関門前に設けさせた天幕の中で、不満に満ちた夜を過ごしていた。

ゴールト伯爵との面会が叶い、関門通過の許可は得ることができた。


だが……



「あの強欲な豚めっ! 自身の兵も討伐に参加させることが条件だとっ!

冗談ではないわっ。全てを掠め取る気でいやがる。

座して、ここで奴の兵が整うまで待っている間に、人外の奴らはより先に、より遠くに逃げるだろうが」



こう叫んで、側近の者に当たり散らした。

横穴を進んだ、200名の兵たちの安否もまだわからない。


仮に横穴が、魔境側に通じているのであれば、少しでも早く出口側からも捜索したかった。



「まぁいい。豚の兵士どもは、常にこの関門にこもり、安全な場所から首をすくめて守っているだけ。

魔境での行動や戦いなど、我らに及ぶまでもないわ。

せいぜい、魔物を惹きつける囮の役目、果たしてもらうとするか……」



そう呟き、酒杯をあおった。


関門中央部の砦は、最大で2,000名もの兵が駐屯できるよう作られている。

通常、200名しか駐屯していないので、今も十分な余裕があるにも関わらず、伯爵は子爵とその軍の駐留を許すことはなかった。



「どうせ我らに供する、食料や飼葉などが惜しいのであろう。

それとも、自軍以上の兵が駐屯することに怯える、小心者ということか?

いずれにしろ、奴の器量などそんなもんよ」



子爵は、伯爵への罵詈雑言を酒の肴にして、憂さを晴らしていた。



このように、カイルたちは追手側の不協和音にも恵まれ、北の魔境での最初の一夜を過ごした。

翌日から始まる、血塗られた逃避行の前に。

最後までご覧いただきありがとうございます。




今回からは三日ごとの投稿になります。


次回は三日後、6/29の9時に『戦いの始まり』を投稿します。


どうぞよろしくお願いします。

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