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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第十九話 追跡の始まり①

カイルたち一行は、遂に偽装されたトンネルの入り口まで辿り着いた。

果てしなく奥深くまで伸びる、大地に穿たれた暗く長い通路に、不安を感じる者もいた。



「さぁ、ここまできたら脱出は第一段階は成功したも同然だ。

家畜を引き連れた先発隊は、もうずっと奥まで進んでるよ。中に入ったらどんどん奥に進むんだ」



私は皆を励まし、トンネル内へと誘った。

少しでも早く、全員をトンネル内に入れ、この入口を封印したかったので、少し焦っていたかも知れない。



「ほらみんなっ! 奥まで私に付いてくるんだ。

奥に行けば中は明るい。簡単だが食事も用意してあるので、もうひと頑張りだ!」



先発隊で、既に家畜を引き連れ、トンネル最奥部まで進んでいたアルスが、入口の所で私たちを迎えた。

彼の言葉に釣られて、続々と中に入る者が続いた。



「ソラ、手間を掛けるが、ここの入口は完全に封印して欲しい。追手が来ても気付かれないことが望ましいが、念のため用意した罠も使う。入口以外は少し通路を残して、途中まで進んだあの場所で、一気に……」



ソラは無言で頷くと、岩石と土砂で入り口の封印を行い、私と共に最後尾を進んだ。

トンネルを三分の一ほど進んだ所に仕掛けた、罠を準備するために。



カイルたちを遠巻きに見張っていた男は狼狽した。

雨にかすみ、暗い中で遠くに見えていた人馬の群れが、ある時忽然と消えてしまったのだから。


そもそも、夜の雨の中彼らの姿を確認するのは至難の業だ。

だが、彼らは非常に小さな、薄暗い灯りで地面を照らしており、それが頼りだった。


灯りがいつの間にか減ったか?

そう思った時には遅かった。何かが崩れ落ちる音と共に、全ての灯りが消えた。



「何だ! 奴ら気付いたのか?」



慌てて彼らのいた場所まで駆け寄ってみたが、その姿は忽然と消えていた。

辺りを走りまわり、そこら中を調べてみたが、暗がりの中では何も見つけることができなかった。



「ちっ! もうすぐ夜が明ける。

そうなれば、どこに隠れたか見つけ出してやる!」



そう言って、その場に座り込み、到着するはずの応援を待つこととなった。



カイルたちは多くの仲間、隠れ里を脱出した人外の民と共に魔境側の出口で夜明けを待っていた。

そこに遅れて、罠の仕掛けを終わったソラと彼女に同行した者達が戻ってきた。



「ソラ、ご苦労さま。どうだった?」



「はい、ばっちりです。例えトンネルの中を追って来ても、途中で完全に行き止まりになります。

沢山の人数で入ってくれば、仕掛けが発動して……」



「そっか、なら俺たちは、後は関門から来る兵だけを警戒すればいいね。

じゃあ、そろそろ明るくなってきたし、避難所へ移動を開始するとするか?」



「はいっ!」



私達一行は、出口側の封印を解除すると、今度は女性や子供、老人を乗せた荷馬車と徒歩の人々を先頭に、粛々と移動を開始した。


魔法士や、魔物との戦闘に慣れた者たちはその外側に展開し、護衛の任に当たっていた。

その通路は、地魔法士によって平坦に整備されており、移動の速度も速い。


数時間の移動で、先頭を進む者達は北の魔境に偵察の際設けた避難所に到着した。

無事、壁の中に誘導が終わると、護衛たちの多くは、騎馬に乗って引き返し、後続の出発に備える。


このため、一番最後になった家畜の移動には、多くの護衛が付き従い、家畜たちを魔物の襲撃から守ることができた。


最後尾には、地魔法士と風魔法士、時空魔法士たちが付き、足跡や轍を消し、平坦だった道を消し、岩や灌木が転がる森の荒れ地に変えていった。



カイルたちが家畜や荷駄を連ねて、魔境側のトンネルを出た頃、関門のゴールト伯爵領側には、600騎もの兵達と共に、ドーリー子爵と、行商人たちが駆け付けていた。



「奴らはどこだ? どこに消えた?」



行商人のひとりは、見張りの為残った男に問いただす。

その目は血に飢えた獣のように鋭く、見張りの男を威圧した。


行商人たちは焦っていた。

彼らは見張りからの知らせを受け、歓喜して駆け付けて来た。だが、肝心の獲物が消えていた。


見失った……、では、ドーリー子爵に面目が立たない。

野盗を追うという、大義名分がなければ、彼らは単に隣領を脅かす、不穏分子でしかないからだ。



「あの……、その、奴らはここら辺で消えちまいまして。

恐らく、ここにある横穴に入ったと思うんですが、気付いた時は入口が塞がれていて……」



「何故それを先に言わないかっ!

全軍! 直ちに岩をどかせろっ。土を掻き出せっ。奴らはきっとこの奥に居る!」



横で話を聞いていたドーリー子爵の指示が飛んだ。

600人もの兵士が、一斉に作業にかかると、簡単に覆われていた封印を取り除くことができた。



「やはりな、奴らこんな物まで作っておったか。

これより200名はこの穴を通って奴らを追い立てろっ! 本隊400騎は、関門より魔境側に進む!」



ドーリー子爵の指示が飛ぶと、200名の兵士は足早にトンネル内に消えていった。



「お主らにも褒美を取らす。兵たちの後ろに続き、そちらの道を進まれよ。

恐らく、討伐隊以外、関門通過の許可は下りんだろうからな」



行商人の2人はしぶしぶ、ドーリー子爵に言われた通り、トンネルの中を進むことになった。

彼らが手配した見張りの2人を、有無を言わさず引き連れて。


暗闇に閉ざされたトンネルの中は、兵士たちが灯した明かりが、ぼんやりと壁を照らしている。

その中を黙々と兵士たちは進んだ。



「旦那、まだこの中を進むんですか?

この先は魔境に通じているかも知れませんぜ。気味が悪くてしょうがないです」



「ふん、この先に奴らがいると確認できなければ、褒美の金貨はやれんが、それでも良いのか?

お前たちは、自身の手柄を見届ける必要があるぞ」



視力自慢の見張りの男は、行商人のひとりにそう言われると、黙って付いていくしかなかった。

少し恨めしそうに雇い主を見ると、彼らの前に立ち、先行している兵士を追って奥へと進む。


どのぐらい進んだろうか?

暫らく進んだ所で、少し開けた場所があり、そこに兵士たちが立ち止まっていた。



「どうしました? 何かありましたか?」



「いやな、この空間の先の道が埋まっていてな。今また岩を取り除いているところだ。

お前たちも掘り出した岩をここまで運ぶのを手伝ってくれ」



兵士たちに言われ、しぶしぶ4人も列に加わった。

彼らは、バケツリレーのごとく、縦に何列も並び、掘り出した岩を手渡しで後ろへ回していった。



「おおっ、もう少しで天井に空間ができるぞ。

この先もこの穴は続いているようだ」



兵士のひとりがそう声を上げた時、掘り進んでいる場所の天井が、不気味な音を立てだした。

敢えて支柱と天板が外され、天井が弱くされていた部分を、唯一天井を支えていた岩石が、彼らによって取り除かれたためだ。



「くっ、崩れるぞ! 退避っ!」



その声が響いた瞬間、轟音を立てて天井部分が崩れ落ちた。

そうすると、彼らが立っていた地面には、更に大量の土砂の重みがのしかかった。



「うわぁぁっ、足元がっ!」


「だ、誰かぁっ!」



岩で封印がされていた部分から、手前の開けた空間まで、一斉に大地が陥没し崩れ落ちた。

そして、一帯を支えていた支柱や天板も崩れ落ちると、トンネル内には大規模な崩落が連鎖的に起きた。


カイルたちは、通路用のトンネルの下に、もう一つ、崩落を誘うトンネルを掘っていた。

更にソラの工作で、通路用のトンネルにあった支柱の多くは外され、天井を支えるには強度不足となっていた。


封印の岩石をどかし、天井への支えを失ったこと、取り除いた岩石を開けた空間へと運び、それらの重量が崩落用のトンネルを支える支柱の限界を超えたこと、この2つの理由で崩落は連鎖的に発生した。



「だから嫌だって言ったんだ!」


「助けてくれっ!」


「そ、そんな、これも奴らの罠なのか?」


「覚えてろっ!」



この叫び声を残し、2人の見張りと、2人の行商人の姿は土中に消えた。


200名の兵士たちと共に……

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