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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第十八話 邪な者たちの蠢動

カイルたちが東端の避難所で天を仰ぎ見ながら天候の推移を見守っていたころ、邪な思いを持つ者たちもまた、空を見上げ、彼らの動向を探っていた。



「奴ら、いったい何処へ行きやがった!

ドーリー子爵の軍勢は、探索に失敗し魔境の各所で魔物に襲われ、散々な目にあってるって聞くぜ」



「誰か分らんが、奴らの中に知恵の回る奴がいるようだ。子爵が町や村に放った密偵も、ことごとく肩透かしを食らっていると聞いたしな。

魔境から南西に向かったらしい痕跡も……、おそらく偽物だろうな」



「そうだな、そう言えば……

商人仲間から、先日大量の荷を積んだ見慣れぬ商隊が、ゴートから東に向かっていたと聞いたぜ。

どうやら新しい開拓地が作られるって噂も……」



「それだっ! きっと奴らに違いない」



「なら、俺たちも東へ……」



「まぁ落ち着け。

奴らの中に、小賢しい奴がいると言っただろう?

そんな見え透いたことする訳ねぇだろうが!

ちったぁ頭を使え!」



「なら西か?」



「奴らの中には魔の民か、その血を引く奴がいるようだ。以前にお前も奴らが魔法を使うのを見ただろう?

そして今回、奴らは人がとうてい住めないと言われた魔境の中に、隠れてあんな物築いていやがった」



「だから何だ?」



「お前は腕っぷしは良いが、頭はからっきしだな?

西の魔境でできたことは、北の魔境でもできるだろうが!」



「奴ら、北の魔境に行くってことか? それをとっ捕まえるんだな?」



「ああ、女子供を引き連れて、密かに関門を超えるとなりゃ、時間がかかる。だが、門の至る所に兵士がいる訳じゃねぇ。

俺たちはそれを見張って、兵士を呼び集めるって算段よ。隠れる場所もない所なら、奴らは一網打尽よ」



「だが、あのゴールト伯爵だぜ?

俺たちに分け前なんか、これっぽっちも下りて来ねぇぜ」



「だから頭を使うのよ。

ドーリー子爵に領境まで兵を率いていただき、待機してもらう。そして俺たちは奴らを見張る。

発見した際には馬を走らせ、知らせを送るんだ。

この国の定めでは、盗賊を追っている場合なら、兵が領境を越えても十分言い訳は立つだろう?」



「いやはや、お前さんの知略には頭が下がるよ。

選ぶ仕事を間違えたんじゃねぇか? はははっ!」



彼らはその後、密かに配下の者を集め、ゴートの北にある関門を見張らせるよう手配を進めた。

また、その策をドーリー子爵に注進し、獲物の分配を約束してもらうことにも成功していた。



行商人たちが、カイルの作戦を看破したことを、カイルたちは当然知らない。

彼らは、関門を監視する者を巧妙に配置し、カイルらに気取られないよう細心の注意を払っていたからだ。



「カイルさん、待つとなると、中々雨は来ませんね?」



「そうだな、こればっかりはどうしようもないからな」



カイルたちはずっと雨を待ち望んでいた。

この時期の雨は、降りだすとそれなりの雨量があり、豪雨となることも珍しくない。

一度それなりの雨が降れば、日中でも視界は曇り、音は大地を叩く雨音にかき消される。


カイルたちは雨に紛れ、日中に足の遅い家畜を、トンネルまで先行して移動させ、日が暮れてから人馬を一斉に移動し、北の魔境に脱出する作戦だった。


だが、待ち望んだ雨はなかなか来なかった。



「カイルさん! 来ましたよっ!

雨ですっ! しかも相当の土砂降りですよ!

これなら、どれだけ大きな音でも全く聞こえません₎」


私は早朝から、皆と共に眠る仮設小屋に飛び込んできたサラムに、叩き起こされることとなった。

待ち望んだ雨に、嬉しさのあまり誰もが外に出て、ずぶ濡れになるもの厭わず、駆け回った。



数刻後、全ての準備を整え終わった先発隊が、避難所の中庭に勢揃いした。



[みんな、今までよく我慢してくれた。

今日は私達人外の民に取って、記念すべき日になると思う。だが、油断は禁物だ。

どこで兵士たちの目が光っているか分からない。常に斥候を出しつつ慎重に進んで欲しい。

そして約束して欲しい。何か異変があれば、迷わず家畜を捨て逃げること。これは絶対だよ。いいね?」



「はいっ!」



「では……、出発!」



家畜を輸送する先発隊は、地魔法士のアースが隊長として率い、副隊長にはソラが同行している。

2人とも、トンネル掘削に同行していたので、土地勘も十分にあり、信頼して任すことができた。


彼らの指揮下には、全員騎乗した屈強な男たちが50人付き従っている。

私を始め、避難所に残った後発隊は、祈るような気持ちで彼らを見送った。



ゴート北部の関門を見渡せる場所には、巧みに偽装された見張り小屋があった。

激しく雨粒が大地を叩きつける音と、霞んだ視界で周囲の様子をまともに確認できない状態のなか、そこに2人の男たちが潜んでいた。



「おい、本当に来るのか?

こんな雨じゃぁ先も見通せず、まともに歩くのも厳しいんじゃねぇか?」



「知るかよ。俺たちはここで見張るだけで、それなりの金がいただけるんだ。割のいい話じゃないか?」



「そうだな、万が一発見したら褒賞は金貨5枚ってのも、凄い話だぜ」



「まぁ……、見つけたらの話だがな。ん? どうした?」



「……、静かにしろっ! 今、何か聞こえた気がする」



行商人たちがこの2人を雇ったのには理由があった。

ひとりはとても目が良く、しかも夜目が利く。

もう一人はとても耳が良く、異質な音はかすかな音でも聞き取ることができるからだ。



「おいっ! やっぱり雨の中に、何かいるぞ。

どうせこの雨なら向こうからも見えんさ。少し前進して、確認するぞ」



耳の良い男の指示で、2人は隠れていた小屋から這いつくばって前進した。

そして暫らく進むと、異様な光景が目に入ってきた。


数十頭の牛、それと同数近い豚などの家畜類が、列をなしてゆっくりと関門の方に向かっている。

中には、荷馬車に乗せられた家禽類もいるようだ。



「おい、これって言われていた奴らか?

人間の数は少なすぎるし、もしかして、関門の砦に納品する家畜類じゃなねぇのか?」



「俺も分からん。だが、もう少し様子を見よう。

俺たちが確認するのは、少なくとも100人以上、食料や財貨をたんまり積んだ女子供も含んだ連中だ」



彼らは、激しい雨に打たれながら、根気よくその場で見張りを継続した。褒美で貰える金貨を目当てに。



日が暮れたころ、魔境の東端にある避難所でも、出発の準備が整っていた。

先発隊を除く約300名が、出発の時を待ちわびていた。



「カイルさん、頃合いですかね?

この時間まで何も連絡が来ないという事は、先発隊は無事辿り着いた可能性が高いと思われます」



アルスの意見に私は大きく頷いた。



「みんな! 恐らく先発隊は目的地に無事到着できたと思われる。

我々も続くぞっ! 雨の夜道は視界も悪く、朝からの豪雨で足元も悪くなっている。

灯りは小さく、足元だけを照らすように改良している。それ以外の灯りは決して使わないように。


では、出発!」



人々は暗い、雨の降りしきる中、行動を開始した。

雨の中の逃避行、陰鬱とさせる状況にも関わらず、全員の足取りは非常に軽い。

この先、大きな希望を持っての行進だからだ。


こうして我々一行は、予定よりもかなり早く、夜明けには十分余裕を持って関門近くに到着した。

それを見張る者たちの存在を知らずに……



「おいっ! 奴ら来たぞ。凄い数だ。

女子供を含め、300人はいるな? これで俺たちには金貨が手に入るぞ!」



「ああ、俺には奴らが、幸運をもたらす使徒の行列に見えて来たよ。

今から俺は、隠れ家に戻り馬を走らせるので、お前は奴らの動きをしっかり掴んでおけよ?」



「ああ、任せろ。俺は目だけは自信があるんだ」



一晩中雨に打たれ、忍耐強く待ち受けていた彼らによって、カイルの計画は露見してしまった。

見張りのひとりを乗せた馬が、ドーリー子爵の元へ大急ぎで走り去っていった。

最後までご覧いただきありがとうございます。


しばらくは隔日の投稿になります。

次回は明後日9時に『追跡の始まり』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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