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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第十三話 魔境での戦い

隠れ里での暮らしも軌道に乗り、それなりに蓄えもできたため、そろそろ計画を次の段階に、そう思っていたある日、私は再び不吉な夢を見た。


それは以前見た夢と同様、不思議な現実感がった。



-----------------------------------------------------------------------


その日は久しぶりに隠れ里の皆で宴が行われていた。

魔境で狩りを行っていた者が、最近では珍しいヒクイドリを狩ってきたからだ。

しかも、黒と赤の斑の羽根を持つヒクイドリだ。交易では相当の高値がつくこと間違いなかった。


宴が進み、多くの者が酒に酔ったころ、それは突然始まった。

密かに防壁を越えてきた兵たちが、夜陰に紛れ集合住宅を取り囲み、一斉に襲ってきた。


不意を衝かれた私たちは、それでも必死に戦った。

魔法士たちは皆、矢面に立ち血路を開きながら、多くの同胞たちの逃がそうと奮戦した。


だが多勢に無勢、ついさっきまで笑い合っていた者が、襲撃者に討ち取られ次々と息絶えていく。

幼い子供たちも、私が一緒に遊んだ子たちにも、奴らの凶刃が襲った。


私は一人でも多くの者を逃がすよう、絶叫しながら必死で戦い、何本かの矢が自身に突き立った……


-----------------------------------------------------------------------



そこで目が覚めた。

私は目が覚めた後も、暫く夢の内容に震えが止まらなかった。



「まさかこれもまた、現実となるのか?」



私は自問自答しながら、それでも対策を考えるべく、ひとり思いに耽った。

だが今度の災いは、私に時を与えてくれなかった。



その日、魔物を狩りに出た者たちが、何故か早々に戻って来た。まだ陽は中天に達しておらず戻るには早すぎる時間だった。


彼らを迎えた隠れ里の皆が、歓声を上げている。

私もその歓声に釣られ、外に出て彼らを迎えた。



「カイルさん! 久々に大物です。黒と赤の斑の羽のヒクイドリですっ!

これならきっと高く売れるますよ」



声を掛けて来たサラムの言葉に、私は戦慄した。

それはまさに、今朝見た夢の通りだったからだ。


私は暫く言葉を失い、呆然と立ち尽くしたあと、直ちに決断した。



「みんなっ!

敵が、王国の兵士が近づいている可能性があるっ!

これより四方に見張りを出し、警戒体制を敷く。

男たちは全員武器を持って防壁の上に立て。


女子供と老人は、食料、道具類を取りまとめ、直ちに移動の準備を行って欲しい。里を捨てる覚悟で対応を行い、時空魔法士は可能な限りの物資を収納し、女子供と一緒に隠れ里の東門付近に待機を!


万が一の場合、魔境の出口とは反対側、一番遠い東門から脱出する」



私は慌てて、そして矢継ぎ早に指示を出した。


突然何を?

里の者たちは訝しがったが、これが初めてではない。

以前にも集落への襲撃を予言したことのある私の言葉は、彼らにとってもそれなりに重みがあったようだ。


そうやって、急ぎ準備を整えている間に、西側に出した斥候から報告が入った。



「大変ですっ! 600名以上の兵士が魔境に入り、こちらに向かってゆっくりと進んでいます」



やはりか来たか!

私は覚悟を決めた。



「全員、予定通り迎撃と脱出の準備を」



「ですが、敵は大軍です。どうされますか?」



「もうこうなっては仕方ない。西門の外側、敵の進路上にに解体した家畜の内臓をばら撒く。

血の匂いで魔物が寄ってくるように、できるだけ多く、できるだけ広範囲に。

それを行った後は、速やかに門の中へ退避を!」



「カイルさん、それって……」



「ああ、魔物たちを誘き寄せる。既にこの隠れ里の存在は露見した。

ならば、侵略してくる彼らにも、魔境に入る者の禁忌を、自ら知ってもらおう」



そう言うとカイルは、凄みのある笑顔を浮かべた。

その顔を見た者は、日頃の温厚な彼とは全く違う表情に戦慄した。



迎撃態勢は整った。

我々も万が一に備え、訓練は日頃から積んでいる。


防壁上には弓矢を持った者、攻撃に向いた魔法を行使できる魔法士たちが立ち並び、攻め寄せる兵士たちを待ち構えた。


東門の手前には、移動の準備を整えた女子供、老人、家畜たちが集まっていた。



果たして、日が暮れる少し前に彼らはやって来た。


西門の前に到着すると、兵士たちは散開して、防壁に取り付こうと行動を開始した。

本来、奇襲を行っていると思っている彼らは、自分たちの存在が露見し、我々が防衛体制を整えていること、防壁上から息をひそめて監視していることを知らない。


人外の民たちは、固唾を飲んでカイルからの攻撃開始の合図を待っていた。

そして、それは突然やってきた。



「うわぁっ!」」


「た、助けてくれっ」


「魔物だぁっ!」



突然、西門前に散開していた兵士たちが、口々に叫び声をあげ始めた。


いつの間にか彼らは、魔境の奥より出てきた、黒狼の群れに取り囲まれていたのだ。


それまで、攻め寄せる立場であった彼らは、魔物たちに不意を突かれ、隊列を崩しひどく狼狽した。

もはや奇襲どころではなくなり、自らの命を守ること、そらが彼らにとって最優先事項となっていた。



カイルはその様子を物陰から確認しながら、合図を出す機会を窺っていた。


兵士たちが防壁を背にして、襲い来る魔物たちへの対応に必死になっていった。

だが、集まってくる魔物はその数を増やしていく。


そこには、黒狼だけでなく、もっと手ごわい魔狼や魔熊、ヘルハウンド、マンティスなど続々と彼らの元に集まりつつある。


誘因のため散布された家畜の内臓だけではない。

こうなってはしまっては、600人という人数自体が、魔物を誘引する原因となっていることを、兵士たちは知らない。



散開していた兵士たちが、再び集合して魔物と対峙し始めた瞬間、カイルは合図を出した。

同時に防壁上から一斉に矢が放たれた。



「てっ、敵襲っ!」


「おいっ! 敵って、どっちだ?」


「は、反撃しろっ!」



兵士たちは前後から攻撃を受けて、大混乱となった。


それでも、一部の兵たちは果敢に反撃を試みたが、それも効果的ではなかった。

人外の民たちは安全な防壁上からの矢を打ち下ろし、兵士たちからは姿さえまともに見えないはずだ。



「壁に上れっ! 上に登ってしまえばこちらのもんだ」



兵士を率いる者の指示が出ると、一部の兵たちは防壁に取り付きよじ登り始めた。

もし奇襲だったら、これも十分効果があったかも知れない。


だが、彼らは逆に待ち構えられており、防壁に取り付きよじ登っている間は格好の標的となる。


魔法士が放つ炎に、絶叫して火達磨になる者、雷撃を受け防壁から転げ落ちる者、顔面に氷の塊を受け悶絶する者、矢に射すくめられ絶叫して転落する者が続出した。


そして城壁に向かう彼らには、背後から魔物が襲う。


襲い来る魔物は、数が減るどころか次々と数を増やし、守る兵士たちの数か目に見えて減っていく。



「た、た、助けてくれー……」



そんな悲鳴を残し、魔物に引きずられた兵士たちが、次々と魔境の深部へと消えていった。


最初の襲撃からどれぐらいの時間が経過したかわからない。辺りが暗くなり始めたころ、押し寄せた兵士たちは完全に潰走状態になった。


算を乱して魔境から出ようと逃げ散る兵士たちを追って、魔物たちも彼らの後に続いた。


彼らの不幸は終わらない。

ここは魔境の畔や入口付近ではない。

逃げる先にも延々と魔境は広がっているからだ。

おそらく半数以上の兵は、魔境の外まで辿り着くことはないだろう。



「みんな、よくやってくれた。ありがとう。

さぁ、私たちはここからが本番だ! みんな、もう少し力を貸してくれっ!」



これが、長く遠い旅、後に長征と呼ばれる旅の始まりになるとは、私を含めその時は誰も思ってはいなかった。

最後までご覧いただきありがとうございます。


しばらくは隔日の投稿になります。

次回は明後日9時に『長征の始まり』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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