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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第十二話 早すぎた露見

時空魔法の氏族クーベルと、風魔法の氏族ファルムが隠れ里を訪問し、今後の支援を約束した後、カイルたちを取り巻く状況は一気に前へと進んだ。


彼らにより支援を約束された、隠れ里に住まう人外の民たちは、新しい希望に燃え、その持てる力をより精力的に発揮しはじめていた。



彼らの交易隊は、ゴートの街でこれまで以上に積極的に、多くの魔物素材を販売し、その対価として多くの武器、馬や荷馬車、農機具や種、この先、移住後に必要な道具類を買い集めるだけでなく、同胞である人外の民の情報を収集し始めた。


そして彼らの努力はすぐに報われた。


5人、10人と窮乏し行く当てをなくした人外の民が救われ、隠れ里の新たな住人として、次々と仲間に加わっていった。



そんな活動を続けていくなか、彼らが昔住んでいた集落からは離れた所にある、同じく辺境の魔境の畔に住まう100人を超える人外の民の里に対して、支援の手を差し伸べることになった。


その里は、ローランド王国で最大の里が野盗に襲われて消えて以降、残った人外の者が住まう里のなかでは、最も大きなものとなっていた。


カイルは彼らを訪問し、代表者を魔境の隠れ里に招待することにした。



「あんたら、生きていたのかい!

噂じゃ野盗に襲われたって聞いていたんだが……」



彼らは先ず、失われたはずの里の民が生きていることに驚いた。そして、訝しがりながらも、カイルたちの招待を受け、代表者を隠れ里に派遣した。



「なっ! 魔境の中に?

何故、里がある? 何故、暮らしていけるんだ?」



そこで彼らは、魔境の中にある隠れ里の存在と、豊かな生活と安全性に再び驚愕することになった。



「ま、魔法じゃと? あり得ない!

魔の民はとうに滅んだ筈じゃ! 一体……、どうやって?」



更に、失われた筈の魔法、魔法士の復活に我が目を疑い、言葉を失った。


彼らが夢にも思わなかった暮らしがそこにはあった。

危険な魔境の中にある、安全な拠点で魔法を活用し、同胞たちは豊かに暮らしていた。


そこには迫害に怯えることも、飢えに苦しむことも、そして魔物に怯えることもない、誇りを取り戻した人外の民の暮らしがあったからだ。



「ゆ、夢のようじゃ。こんな暮らしをしている同胞がいるとは……、我々が望んでも手に入らない暮らしがあるとは……」



招待された者たちは涙を流して喜んだ。


その後、数日かけて彼らの様子を観察し、信用ができると判断すると、カイルはたたみかけた。



「ここはまだ仮の住まいです。

いずれもっと安心して暮らせる場所、かつて魔の民が暮らしていたような、そんな住処を確保する予定です。我々は、同行を望む方全てに手を差し伸べるつもりです。

共に、新たな里を築きませんか? 我らの里を!」



今、カイルたちが考えている壮大な計画を語った。

もちろん、この時点では肝心な部分は濁したり、移住先の詳細は伏せているが……



圧政に困窮し、迫害に苦しんでいた里の代表者たちは、将来の希望に涙を流して喜んだ。


彼らは直ちに決断し、今の里を捨て、カイルたちと合流することを決めた。

その結果、隠れ里は当初、200人に満たなかった人口が、一気に300人を超えるまで膨れ上がった。


このような彼らの活動は、その後も続けられ、路頭に迷っていた者や、小さな集落がその後幾つか救われていった。



魔境から程遠くない辺境の街道では、2人の行商人が最近の不況を嘆いていた。

彼らは危険な辺境を旅するため、安全を考慮し、2台の馬車を連ねて行商に回る事が多い。


彼らが他の行商人と一線を画すこと、それは商売相手として、人外の民を選んでいることだ。


他の商人が敬遠する人外の民の里を回り、魔境で得られた貴重な魔物素材を安く買い叩く。

それらを市場で、正規の値段で販売することで、彼らは莫大な利益を得ていたことだ。



「なぁ、最近おかしいと思わないか?

先日も、奴らの集落がひとつ消えちまったよな」



「ああ、今回も根こそぎ消えてやがる。

野盗に襲撃されたあの里と同じく、身ぐるみ剝がれたのか、人っ子ひとり残っちゃいねぇ」



「怪しいと思わねぇか? 今回消えた里の奴ら。

今までは食料の為、どんな素材でも喜んで出して来やがったが、最後に行った時は碌なもん出して来やがらなかったぜ」



「ああ、あの時は大赤字よ。奴ら、飢え死に覚悟で強気の交渉してきやがったからな。

結局こっちも折れなかったから、交換用に仕入れた商品が全部余っちまって、酷い目にあったぜ」



「いや、俺の言ってることはそうじゃねぇ!

余りにも状況がそっくりだってことだ。

前の里も、今回の里も、最後はやたら強気の交渉をしてきただろうが?」



「確かにな……、という事は、どこかに手引きしてる奴がいるという事か?

同業者ならこんな掟破り、許しちゃおかねぇ!」



「そうだとも。

実は先日、ゴートに立ち寄ったんだが、どういう訳かヒクイドリの羽根が大量に出回ってやがった」



「何だと! おかしいじゃねぇか。

あれはゴート近くの北の魔境じゃ滅多に取れない代物だぜ。俺たちの縄張りならともかくよ」



「その通りだ。

俺たちはここ最近、ずっとヒクイドリの羽根なんて卸しちゃいねぇ。なのにゴートに出回った」



「俺たちのあがりを掠め取っている奴がいる。

そういうことだな?」



「それだけじゃねぇ。

里に住む奴らが消えるってことは、他の可能性も十分あるってことだ。

ひょっとしたら、これは大きなヤマになるかも知れないぜ?」



「なるほどな……、それにしても許しちゃおけねぇ話だなこれは。そして、金の匂いがするってことか?」



このような会話が交わされ、彼らは暫らくゴートの街に根を下ろし、目を光らせることになった。

自分たちが受けた損失の恨みもある。彼らの執念は凄まじいものがあった。



しばらく経ったある日、遂に彼らの執念と言っていい努力は報われることになった。


網を張っていた店舗のひとつに、ヒクイドリの羽根を大量に卸した者がいる、そんな情報を入手した。

だが、彼らが駆け付けた頃には、その一行は姿を消していた。



カイルたちはいつも魔物素材の販売には心を砕き、ある程度の注意は払っていた。

大量の素材を卸すときは、多少収益は減るが、必ず仲買人を通し出所をわからなくしていた。


仲買人は、最適な時期を見計らって商品を売る。

そして何より、仕入れ先は彼らの生命線であり、決して口外することはない。


だが、長となったカイルは、自身で交易に出ることが少なくなっていた。

交易はある程度慣れた者に任せ、自身は同胞の救出や、脱出計画の準備に重点を置いていた。


そして、行商に出た者が、たまたま大きな受注を受け、少しでも収益を上げ、カイルを助けたい、そんな思いで目立つ販売をしてしまった。



僅かなタイミングの遅れで、相手の正体を掴み損ねた行商人たちは、次の手段に出た。

彼らはこれを機に、ゴートに張った網を引き払った。



「奴らも相当用心深いようだし、作戦を変えるぞ。

これからはゴートではなく、辺境に網を張る」



「なるほどな。

人外を探すには人外を、ってことか?」



彼らが行商に出ている里の中で、50人にも満たない小さな人外の民の集落があった。

彼らはその里に出向くと罠を仕掛けた。



「最近タチの悪い盗賊が出ているので気を付けな」



「そうよ、豊かな暮らしをさせてやるって言って、里から移住させようとしてくるからな。

その甘言に乗った里が、幾つか皆殺しに遭ってる。

奴ら人外の民を装ってくるから用心しろよ」



「もし、そういった怪しい奴らの誘いが来たら、俺たちに知らせてくれ。

野盗退治に協力したとなりぁ、領主からこの里にも、たんまり報奨金が出るぞ」



そう言って、いつもの倍の食糧を、今までとは打って変わった安値で、彼らに提供した。

彼らは、行商人の忠言に感謝し、協力を約束した。


そしてついに、その里の者に住まう者のひとりが、自分達に救いの手を差し伸べてくれた筈の、同胞たちを売ってしまった。



2人の行商人は、待ちに待った知らせを受けると狂喜した。

その知らせを受け、密かに手下を派遣して隠れ里に招待された者の後を追わせた。


この様な経緯で、遂に彼らは、人外の者の隠れ里を突き止めるに至った。



魔境の中に築かれた隠れ里を見て、彼らはあまりの規模と、しっかりとした防御設備に驚愕した。



「奴ら、魔境の中に隠れ里を築いているとはな。

これじゃあ俺たちには全く手が出せねぇぜ。どうするよ?」



「ふん、まだ手はあるさ。

俺たちと同様に、奴らに一杯食わされたお方に、報告して分け前に預かるってのはどうだい?」



「そうだな、ドーリー子爵を巻き込むか?

奴らは税を納めていないし、行商でも相当儲けている筈だ。分け前と褒賞だけでも、俺たちにも十分な額が回ってくるだろうな」



「奴らめ、調子に乗るのも今のうちだ。

数百人の兵士たちが攻めれば、この程度の防壁などどうにでもなる。あとは……奪い放題だな」



彼らは目の前に広がる防壁と、その中にあるであろう豊かな町を想像し、舌なめずりをしていた。

最後までご覧いただきありがとうございます。


しばらくは隔日の投稿になります。

次回は明後日9時に『魔境での戦い』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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