第十一話 魔の民との交流
人外の民を率いた脱出計画に行き詰まり、悩んでいた私にとって、あたかも救いの手を差し伸べるかのような使者が、隠れ里を訪問した。
「カイルさん、来るたびにこの里は見違えるようになってますね?
これはもう、皆さん既に立派な魔の民ですよ」
私たちが集落より避難し、隠れ里での暮らしを始めてから、2回目の実りの時期を迎えたころだった。
北の魔境に住むアベルが、我々の隠れ里を訪れた。
いつも彼はひとりでやって来ていたが、今回、隠れ里を訪れたのは、アベルは一人ではなかった。
彼はこれまでに3度、この里を訪ねて来てくれたが、こんな事は初めてだった。
「皆さんに紹介します。
今回は私たち時空魔法士の氏族の里から、長の名代として我が兄クーベルが、そして我らの里と境を接する風の氏族から、ファルム殿をお連れしました」
外見上、アベルに似たクーベルと異なり、風の氏族であるファルムは、鮮やかな緑の髪と深い碧の瞳をしており、仲間の風魔法士たちと比べても、明らかにその外見的特徴が際立っている様に感じられた。
「突然の訪問、失礼しました。クーベルです。
アベルから話は聞いていましたが、驚きましたな。
我ら以外にも魔境の暮らしに適応し、生活する民が居ようとは。しかも、豊かに暮らしている」
「初めまして、ファラムです。
人外の民が魔法の力を復活させたこと、ここに来るまで、それが信じられませんでした。
だが、この里に来て確信しました。今後は是非、我が同胞にも会っていただけると嬉しいです」
「初めまして、カイルです。
今はこの里の長を務めています。
いつもアベルさんにはお世話になっていて、大変感謝してます。我々が魔の民の力を復活させるにも、各属性の魔石が必要不可欠です。魔石をお譲りいただけたこと、これまでの皆さまのご厚意に深く感謝しております」
そう、この隠れ里に移住し、1回目の収穫を迎えたあと、私は長から次代の長に指名された。
余所者の私だったが、狩りの仲間や、魔法士たちがみな揃って強く推薦してくれこと、子供たちも強く賛同してくれたので、何故か里に住まう者全員にも素直に受け入れられた。
そして、今の隠れ里周辺の魔境では、属性を持つ魔物は数も少なく限られていたので、新たな魔石の収穫はここ一年ほどなかった。
私たちにとって、時折訪問するアベルが持ち込んでくれる魔石、それだけが頼りだった。
「アベルの話を聞き、今回は我らも各種属性の魔石を、それなりに持参しております。
その代わり、と言っては何ですがお願いがあります。
その、付与の魔法を……
本来魔法を使えなくなった人外の民が、魔法を取り戻す過程を見せていただきたい。
そうすれば、今回私たちが提供する魔石の対価は必要ありません。
我らは見たままを、戻って氏族の仲間に伝えたい」
「クーベル殿の仰る通りです。
我ら風の氏族は、かつて同胞を、既に魔法を失い人外の者と呼ばれた人々を、人界から救出し里で匿ったこともありました。
ですが……、彼らでは厳しい環境である魔境を生き抜くことができませんでした。
魔境とはそれほど暮らすのに厳しい場所です。
だが、人外の者たちが失った力を取り戻す術があるなら、そして交わったしまった事で失う力を取り戻せるのであれば、多くの氏族が互いに協力して、共に暮らせるようになる。
この里は我々の夢、叶わなかったものが実現している場所だと言うこと、この目で確かめたい」
ファラムさんのように、滅びに瀕したかつての同胞、人外の民を救おうとする魔の民は、過去にもそれなりにいたそうだ。
だが、救ったあとのこと、そこが問題だったらしい。
魔法を持たない人外の民は、魔境で暮らす力が極めて脆弱だ。
受け入れる側の氏族も反対する者が多い。
血が交わることでかつて人外の民が辿った道と、同じ道を進むこと、それを皆恐れているからだ。
各氏族の魔法士が減少すること、それは氏族の存亡の危機となる。
「クーベル殿、ファラム殿、仰っていることは分かりました。
以前アベルさんにお話し通り、いずれ我らはこの地を捨て、より広大で我々にとって安全な北の魔境の奥地へと、全員で逃げ延びるつもりです。
魔の民の皆さまのお力添えが頂けるのなら、それに勝るものはないと考えます」
「では?」
「あいにくこれまで魔石が足らず、付与ができていませんでしたが、もし、お二方がお待ちいただいた魔石を我々にお譲りいただけると言うのであれば、これからそれをお見せすることができます」
そんな経緯で、私は彼らの目の前で、ひとりひとり、11名の者に魔石の力を付与していった。
隠れ里では、属性ごとに魔法士となる優先順位が、既に本人の希望を前提に議論されている。
その為、該当する属性の魔石が手に入れば、優先順位の高い順に付与が滞りなく行われている。
本人の希望を優先したのは、魔法士となれば、仲間を守るために戦いに身を置く事になる。
それは魔物や、人間に対しても……
そのため、その意思や覚悟の無い者は、説明の上優先順位は下位に回ってもらっている。
「おおっ! 魔石の色が変わっているぞ!」
「確かに! 魔石から何かが抜け、カイル殿を通じて付与された者に流れていった気がします」
「どうだ? 感じるか?」
「はい、付与前は感じませんでしたが、今は明らかに……」
ファラムさんとその従者、クーベルさんとその従者らは、それぞれ思い思いの声を上げていた。
その中でもクーベルさんと、彼に付き従う者が怪しい動きをしていた。
「クーベル殿、計測はできましたか?」
私は疑念に思っていたことを明らかにするため、少しカマを掛けてみた。
「大変失礼しました。
こちらもお見通しだったとは……
この者は、時空魔法でもちょっと系統の変わった魔法の使い手でしてね。
空間収納の能力が無い代わりに、魔法士の存在を認識できる、いや、そこに魔法士が居れば分かる。
そんな程度ではありますが、定められた範囲内なら、索敵できる能力を持っているんです」
私の鑑定に似て非なる能力、探査に近い力か。
だが探査では、魔法士かどうかは分かっても、潜在能力や現在の状態までは分からないそうだ。
「カイル殿、十分に納得いたしました。
私は里に戻り周囲を説き、人外の民を受入れる準備を整えます。
我らの里があるエスト―ルは、魔境の中とはいえ比較的安全で肥沃な大地と川の恵みがあります。
更に、南側にある時空魔法士氏族の住まう領域は、天然の要害と言われ、崖と谷が成す隘路が魔物の侵入を阻み、守りに適した地でそこからの魔物の侵入を防いでくれています。
きっとエストールは、皆さまが安心して暮らせる地となるでしょう」
「そうだな、我々も同様に歓迎する。
魔境に入られた際、先ず我が里を訪れられるが良かろう。
ファルム殿の仰った通り、我らの氏族の里は、広さはないが天然の要害に守られておる。
魔物と同様に、この国の軍が害意を抱いて攻め寄せたとしても、そこで十分撃退が可能だからな」
「皆様のご厚意に感謝いたします。
我らは数年のうちにその準備を整える予定です。その際は是非お力添えをお願いいたします」
私は深く頭を下げた。
こうして私達は正式に、魔の民、2つの氏族との絆を結ぶことができた。
あとはこの国の軍勢を出し抜く算段を整え、十分な食料と移動手段、移住先で使用する緒道具など開拓に必要な物資を集め、準備を進めなくてはならない。
まだまだ、課題は山積しているが、我々には少しづつ光明は見え始めている。
<魔法士総数 58名>
初期 移住後 今回
火魔法士 9名+ 4名 + 0名 =13名
地魔法士 8名+ 2名 + 0名 =10名
水魔法士 6名+ 1名 + 2名 = 9名
風魔法士 5名+ 1名 + 3名 = 9名
聖魔法士 5名 + 1名 = 6名
雷魔法士 3名 = 3名
時空魔法士 2名 + 2名 = 4名
光魔法士 1名 + 1名 = 2名
氷魔法士 0名 + 1名 = 1名
音魔法士 0名 + 1名 = 1名
闇魔法士 0名
重力魔法士 0名
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39名+ 8名 +11名 =58名
最後までご覧いただきありがとうございます。
しばらくは隔日の投稿になります。
次回は明後日9時に『早すぎた露見』を投稿します。
どうぞよろしくお願いします。




