表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/68

第十話 隠れ里での最初の収穫

我々は隠れ里へ無事逃れることができた。


里のなかには初めて隠れ里を訪れる者もいて、初めて見たその全容に目を丸くして驚いていた。



「カイル殿、儂も事前に聞いてはいたが……

ここまで来ると想像を遥かに超えておるわ。本当にここが魔境の中とは、思えん有様じゃの」



そう呟いた長もそのひとりだった。


彼の前には、収穫を迎えた麦畑が一面に広がり、夕日を浴びた穂は大地を黄金色に染めていた。

そして同じく、陽に赤く染まった集合住宅が立ち並んでいる。



「はい、この隠れ里は安全な防壁に囲まれ、里の人間全てを賄う食料を得ることもできます。

食料の備蓄を増やし、魔物素材を交易で売れば、他の里に住まう人外の民も、ここに呼び寄せることができるでしょう」



「カイル殿、儂は其方に何と言って礼をすれば……」



「いえいえ、私自身も子供たちに、そしてこの里の人たちに救われました。

お礼など必要ありません」



我々が移住後、無事、隠れ里での初めての収穫も迎えることができた。

魔境の大地は想像以上に豊かで、予想していたより遥かに多くの実りを、私たちにもたらしてくれた。


魔境の大地がこんなにも農耕に適した、豊な土地であることに、私は驚いた。

これまでの歴史で、次々と魔境が切り開かれ、開拓地となっていった理由が分かったような気がした。



私たちは、隠れ里にて収穫した実りを全て、我々自身のために使うことができた。

圧政を敷き、厳しい税を要求してくる領主もいないからだ。

そのため収穫を祝う収穫祭は、盛大に催された。


そこで私は、多くの者に取り囲まれ、盃を交わすことになった。



「カイル殿、これで我らの里の者たちは立ち行くことができます。なんと感謝して良いやら……

今後はどういった方針で進みましょうか?」



実は私自身、実は無事収穫を迎えることができるまでは、ずっと不安だった。

魔境の中に逃げ込んだとしても、作物が育たなければ、いくら交易に出ていても食料が間に合わない。



「いやいや、私も魔境の大地がここまで豊かな実りをもたらしてくれるとは、思ってなかったです。

これで、皆が来年までは食いつなげる目途が立ちましたが、まだ蓄えがありません。

残った土地も、皆で協力して開墾を進め、次回の収穫では十分な蓄えを作ることを主眼としましょう」



「で、その先、どうすれば良いかとお考えかな?」



「私は余所者です。ですが集落の方々はそんな私を温かく迎えてくれ、それに感謝するだけです。

ですが、この先については、私が言うのも可笑しな話ですし……」



「いや、遠慮なく仰ってくだされ。是非!」



ちょと躊躇して、傍らに居た長の方を見ると、彼は笑顔で頷いていた。

自分にした話を、ここでして構わない、そういう事か?



「あくまでも、私の個人的な考えとして申し上げます。


まず、最初に行うことは……

まだこの魔境の周辺には、人外の民と言われる同胞の集落が存在する、そう聞いたことがあります。

きっと彼らも苦しい生活を送っていると思われます。

彼らを此処に誘い、人外の民同士で支え合う、豊かな暮らしを送れるようにするのはどうですか?」



「おおっ! そうだな。

我々がカイル殿に救われたように、今度は我々が近隣の里を救わねばならんな」



「その次に考えているのは……

この隠れ里も決して安全とは言えません。

いつか、我々も力を蓄え、多くの魔法士、魔の民を復活させた暁には、ゴートの街の北に広がる広大な魔境、そこに新天地を求めるべきではないでしょうか?


子供たちから聞いた歴史では、人界の民と我々は決して相容れない存在なのかも知れません。

我らが彼らに対し対抗する、十分な力を持つまでは」



「ふむ、そんな事を考えておったか。

カイル殿はこの里の生まれではないが、我ら以上にこの里の事を考え、未来を見据えられている。

やはり貴方が相応しかろうな……」



長はそういって笑った。

いえいえ、長には以前から伝えていたでしょう?

そう言いかけて私は言葉を飲んだ。


なんとなく、外堀を埋められている気がしたが、私自身、認められたことに悪い気はしなかった。



その日を境に、私は長と共に行動することが多くなった。

そして長からも学ぶ機会が増え、私がまだ知らない、この世界の情勢についても知ることができた。



「カイル殿、貴方は今日より2つの役目を担っていただきたい。

ひとつ、周辺に住まう人外の民にも救いの手を伸ばし、仲間としてこの隠れ里へと誘うこと。

ひとつ、将来的に安住の地、我らが安心して住まう土地への移住計画を立てること。

貴方に我らの未来を託すので、是非お願いしたい」



長から正式に役目をいただくことになった私は、これまで得た情報、知識を改めて再整理した。

それを踏まえ、計画の立案にあたった。



〇整理事項:魔境について


どうやら、我らが今住まう魔境は、2か国の辺境域西部に広がっており、その先には踏破不能な大山脈が延々と広がっているらしい。


我々が住まうローランド王国と、その南西にあるブラッド公国、この2つの小国はお互いに競うように魔境を切り開き、建国された国らしい。


今かろうじて残っている魔境も、いずれそれらの国々によって切り開かれてしまうだろう。

数百年後、遠くない未来に魔境は消滅するだろうと言われている。


人外の民たちは、このことを嘆き悲しんでいる。

かつては故郷だった、そして今は貴重な収入源となる狩場、魔物が住まう魔境が消滅する未来を。



〇整理事項:領主たち


元あった集落は、ローランド王国のドーリー子爵が治める領地にあり、人外の民には圧政を敷いているが、それでも隣国のブラッド公国よりはまし、そんな感じらしい。


ドーリー子爵はブラッド公国との国境を接するため、ローランド王国より派遣された兵も含め、旗下に1,200名もの兵を抱えているそうだ。


人外の民が不穏な動きをすれば、たちまち彼は軍勢を派遣し、里ごと焼き払うだろうと言われている。

過去には、反抗の兆しを見せた一つの集落が、彼の軍に襲われ、灰塵と化したことがあったそうだ。



また、ドーリー子爵の隣領、東側に領地を持つゴールト伯爵も油断がならない人物と分かった。


彼の領地には、人外の者たちが住まう里はない。

いや、かつてあった里は、彼の施策で全て無くなってしまった。そう言った方が正しい。


ゴールト伯爵が人外の民に課す税は過酷で、納税が滞るとたちどころに奴隷として売られる。

その結果、彼の領地では主人の所有物として存在する以外、人外の民は存在しなくなった。



また、彼の領地には2つの魔境が広がっている。


そのひとつは、我々の住む魔境で、それは隣国のブラッド公国辺境域から、ドーリー子爵の辺境域にまたがり、奥は大山脈の麓に沿って伸びている。


魔境は大山脈添って東に、ゴールト伯爵領内に伸び、その領域はだんだんと細くなる。そして終点(東端)は、ゴートの街から西に約1日の距離にあった。



もうひとつの魔境は、ゴートの街から北に半日の距離にある、ローランド王国の領地北端に連なる大山脈、その唯一の切れ目を越えた先にある。


こちらは、いくつかの小国が丸ごと入る程の大きさといわれすが、その実態は誰にも知られていない。

ただ、あまりにも広大な魔境が広がっている、そう言われているだけだ。



「魔の民が住む広大な魔境、そこに逃れるためには、ゴールト伯爵の領地を少なくとも1日、駆け抜けなければならない訳だ……、厳しいな。


通常移動では、ドーリー子爵の領地を4日、仮に魔境を密かに抜けるとしても、ゴールト伯爵領だけは魔境のない場所を、丸1日進まなくてはならない。

隠れ里に住まう人々を全員引き連れての移動となると、これは至難の業だぞ……」



私は思わずそう呟かずにはいられなかった。



自分が言い出したことだが、調べれば調べるほど、困難さが分かる状況に、私はただ頭を抱えた。

少なくとも大部分の行程は、魔境を抜けて密かに進む必要がある。

そして最後は、一戦も辞さない覚悟で、ゴールト伯爵領を強行突破する必要がある。



彼の戦力は?

北の魔境に配された兵士の数は?

ゴールト伯爵が設置した、魔境を遮る砦をどう抜ける?


私には、まだ調べねばならないことが沢山あった。


我々のような狩人たる者や、魔法士たちは別として、女子供、老人たちが、今より厳しい環境と言われる北の魔境を、数日間から数十日に渡って移動すること、それはどう考えても不可能だった。



私はこの時点で私の計画は行き詰った。


どうする?

何か解決策はないのか?


それ以降、私は常にこのことを考えて、数年を過ごすことになった。

最後までご覧いただきありがとうございます。


しばらくは隔日の投稿になります。

次回は明後日9時に『魔の民との交流』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ