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過去と未来を紡ぐ始まりの物語 ~カイル王国建国史~  作者: take4


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第九話 現実となる夢

幾度かの交易も、アベルが紹介してくれた卸先や仲買人を通じて順調に進み、隠れ里に関しても、防壁工事や、壁内の農地開拓は予想以上に進んだ。


そして、私があの夢に見た実りの季節を迎えた。



『どうか、あの夢の内容が杞憂であって欲しい。我々にはもう少し、時間が欲しい〗



私は祈るような呟きを日々繰り返し、準備のために必要な、狩りや隠れ里の工事に従事していた。

そしてある日、ついに恐れていた出来事が起こってしまった。



「カイルさん! 急いで来てくれっ! 

奴らが長を、長をっ! 早くっ!」



その知らせを聞き、私は慌てて隠れ里から、森外れの集落に大急ぎで駆け付けた。

そこには聖魔法士から魔法での治癒を受けている、長が横たわっていた。


長の衣服はボロボロになり、血と泥で汚れていた。



「あいつ等……、酷ぇことしやがる。

行商人が連れて来た役人がいきなり、今すぐ里を立ち退いて明け渡すか、3倍の税を払うか、どちらか選べと言ってきやがった。

無理難題を押し付けたかと思うと、情けを乞う無抵抗の長を、殴る蹴るで無茶苦茶しやがって……」



「長の容体はどうなっている? 奴らはどうした?」



私は血相を変えて、治療に当たっていた聖魔法士に問いただした。



「長は、全身の打撲や骨折箇所も多く、危険な状態でしたが、何とか命は取り留めています。

治療が早かったので、暫く安静が必要ですが、元通りに回復できると思っています。


奴らは……

その、余りのむごい仕打ちに、見かねたハルトが思わず火魔法を使ってしまって……

驚いて逃げて行きましたが。


ただ、これまで我らが秘匿していた、魔法の件が露見してしまったと思います。

カイルさん、どうしましょう?」



「……」



私は愕然とした。

以前に見た不吉な夢の通り、事態は進行している。

夢にはまだこの先がある。


もちろん、そうなった時に備え、色々と準備は進めていたのだが、まさか全てが夢の通りになるとは思ってもいなかった。


最悪の事態を予想して準備していたが、予想していた範囲で最も最悪の結果となってしまった。



「最早議論している段階ではない。

みんな、ここは危険だ。

きっと奴らは、兵を連れて戻ってくるに違いない。私たちから、何もかも奪うために。


奴らは人外の者の里を潰すぐらい、何の気兼ねもなくやってのけるだろうな……

そうさせてたまるかっ!


みんな、聞いてくれ!

明日中、いや、今日中に全員を隠れ里に避難させる必要があるだろう。今から急ぎ取り掛かるんだ。

これは、時間との戦いだ!」



こうして集落の者たちは一斉に避難を始めた。

慌てて行き交う人々で集落は混乱し、あちらこちらで土煙が上がり、注意を喚起する怒声が響き渡る。



「目ぼしい食料、家財は残すな。価値のあるものは全て持っていけ!

運べない家財、食料は時空魔法士に任せろ。家畜だけは各自で責任を持って連れて行けよ!」



「魔法士たちは、家畜を連れた隊列に護衛に付け!

半日も魔境を抜けるんだ。慎重に誘導し、魔物から仲間や家畜を守るんだ!」



共に魔境で狩りに出ていた仲間や魔法士となった者たちは、率先して里の者たちに声を掛け、皆が定められた役割を知っているかのように、動いている。


その様子を見て安心した私は、やっと意識が戻った長に話し掛けた。



「さて長、我々が逃げたと思えば、恐らく奴らは追手を各地に派遣するでしょう。

取りっぱぐれた獲物を回収するために……

口惜しいですが、ここは盗賊に襲われた形にして、里を全て焼き払いましょう」



「カイル殿、そこまでせずとも……」



「もし、このまま逃げただけなら、彼らは必死になって我らの行方を捜すでしょう。

そうすれば、危険を冒して魔境の中まで探索の手を伸ばすかも知れません。


ですが、野盗に襲われたとなれば……

我々の財貨は奪われたかも知れない、心の中でそう考えるのが妥当と思います。


そうすれば、我々への探索の手も緩みます。

そして我々は、より安全な場所に移住するための、貴重な時を稼ぐことができます」



「移住じゃと? カイル殿、其方は一体……」



「我らが人外の民、そう呼ばれている限り、この先も我々に安息の地はありません。

幸い我らは、魔の民の力を取り戻しつつあります。

そして、より広大で人の介入を許さない魔境が、ゴートの北側には広がっています。


数年は魔境の隠れ里で力を蓄えましょう。

そして、魔の民に助力を求めましょう。奴らが決して力の及ばぬ、広大な魔境へと移り住むために」



「其方はそこまで考えておったのか?

これまで其方は、我が里の者たちを導いてくれた。であれば、この先も……、其方に託そう。

口惜しいが、里を焼き払うこと、許可する」



こうして、その日の夜、魔境の畔にあった、人外の者たちの里は炎に包まれた。

一晩中燃え盛った炎は、集落をことごとく焼き払い、人外の民が住まう集落は消え去った。



カイルの決断は正に間一髪だった。


予め準備を進めていたらしく、役人が逃げ帰った翌日には、ローランド王国の兵800名が、彼らが住まう里を急襲して来た。



「な、なんじゃ? これはっ」



兵を率いて来た、この地区を治める貴族である、ドリー子爵は我が目を疑った。


集落があったと思われる場所には、今も焦げた匂いが残る、焼け跡がただ広がっているだけだった。

外周を取り巻く柵は、至る所で蹴り倒され、燃え残った木々の至る所に矢が突き刺さっていた。



「恐らく、昨日または昨夜、大規模な野盗の襲撃でもあったのやもしれません。

どうやら目ぼしい物は全て奪われ、集落の者は女子供に至るまで、全て連れ去られたようです」



配下の者たちが、あちこちから野盗襲撃の痕跡、折れた矢や刃こぼれして曲がった刃物、割れて散乱した食器などを持参し、野盗の痕跡を確認している。



「だが、遺体ひとつもないのは、どういうことだ?」



「ここは魔境の畔です。遺体や血を流した者をそのまま放置すると、すぐに魔物が襲撃してきます。


奴らは、根こそぎ奪う時間を作るため、遺体は炎の中に投げ込むか、穴を掘って埋めたのでしょう。

全く……、忌々しい知恵の回る奴らだ」



今回は先導役を務めた行商人が、兵士たちに代わって子爵に答えた。

彼が指さす先の大地には、血のようなものが染み込んだ痕跡が残っていた。



「では、盗賊たちはどちらに向かった?」



「何台もの馬車と大勢の人が通った痕跡が、魔境の外縁に沿って南の方に伸びています。

恐らくはそちらかと……」



兵士の言葉に従って、周囲を調べたところ、集落から南に向かう方向に、多数の荷馬車が通ったと思われるわだちや、数多くの痕跡が残されていた。



「では、急ぎ全軍を南に向けよ!

我が領地を荒らす野盗どもを討ち、我らの民の財貨を、収穫したばかりの食糧を取り戻せっ!」



こうして、800名の軍勢は大急ぎで南へと向かった。

誰もいない方角へ……



集落の脇にある森の中に潜み、この様子を見ながら、安堵に胸を撫でおろす一団がいた。



「カイルさんのいう通り、本当に来ましたね」



「あのまま集落に居たら、俺たちどうなったこたか。考えるだけでも恐ろしいな」



「そうだな、奴らは人外の民のことなんで、人とも思ってない。長にもあんな酷い事する奴らだ」



「それにしてもカイルさん、上手くいきましたね」



偵察要員として、カイルと共に森に潜んでいた者たちは、口々に言葉を漏らした。



「ああ、うまく偽装に乗ってくれて良かったと思う。

俺たちが魔境に逃げたと思われると厄介だからな」



カイルと時空魔法士1人、火魔法士2人、風魔法士2人、地魔法士2人とその他20人は、最後まで集落に残り、夜を徹して偽造工作を行っていた。


彼らは森に向かった人々の痕跡を消すとともに、馬車を全く関係のない南に何度も走らせた。

往路は馬車を、帰路は馬車を収納して戻り、再び北に向かい走らせることを繰り返した。

またある者は、古くなった武具を使い襲撃を偽装し、一部の家畜を使って血の跡を残した。


こうして夜明けになって偽装がひと段落すると、魔法士以外は全て魔境の隠れ里に撤退させた。

そして、カイルを含めた8人だけが、森の陰からその成り行きを見守っていた。



「では、私たちも隠れ里へ移動するとしよう。

魔境の中の道には、まだ我々が移動した痕跡が残っている。消しながら、ゆっくりと向かおう」



こうして、魔境の畔にあった、人外の者が住まう里がまたひとつ、人知れず姿を消した。

最後までご覧いただきありがとうございます。


しばらくは隔日の投稿になります。

次回は明後日9時に『隠れ里での最初の収穫』を投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

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