名探偵と助手・三部作 第三部 名探偵と助手よ、永遠に
「さて助手くん、毎度おなじみ、天才名探偵だ。今回は三部作のラストとなる」
「そうですね。次は先生と私の二人が犯人って展開でしょうか」
「そうなるね。そして三部作のラストだから、ここは華々しいシーンが欲しい。シャーロックホームズで言えば、モリアーティ教授と滝の上で決闘するような、ああいう名場面がいいね」
「犯人同士だった私達が争ったりするんですか。ドロドロしてますねー」
「三部作の終盤は、そんなものだよ。ゴッドファーザーみたいに死闘が繰り広げられるのさ」
「分かりました。では助手の私が、用意したものがあるので、手に取ってください」
「手に取るって……これは……ナイフだね」
「私も持ってますからね。そして、この衣装に着替えてください」
「何かな、死に装束? 真っ白な服が見えるんだけど」
「逃がしませんからね。さー、早く着替えて着替えて」
「いよいよですよ、先生。ブスッと、やっちゃってください」
「表現が猟奇的だねぇ。やはり第二部で、あんな恐ろしい事件を起こしただけの事はある」
「だから第二部のは冤罪事件です。いいから、さっさと片づけますよ。ほら、ナイフで突き刺して、先生」
「分かった、分かった。ケーキカットと行こうじゃないか……初めての共同作業という奴だね」
「共同作業は、これまでも一杯、してきましたけどね。私が先生の気まぐれに突き合わされてばっかりで」
「悪かったよ、助手くん。だから、君が持ってきたウェディングドレスを二人で一緒に着てるじゃないか……君は、これでいいのかい。二人きりで、他に誰も居ない、こんな簡素な結婚式で」
「今さらですよ。登場人物は二人だけなんでしょう? 被害者であるケーキは、私達の胃袋に片づけてあげましょう」
「ケーキのバラバラ事件という訳か。犯人の私達は、これから何処へ行こうかな」
「何処へ行っても、きっと事件が待ち受けてます。それが天才名探偵の宿命ですよ」
「ああ、その通りだ助手くん。世の中には、天才名探偵でも解決できない物事が山ほどある。それでも私達は、難題に立ち向かって行かなければいけない。世の中は白黒、綺麗に割り切れるものじゃないんだ。虹色の世界だってある。論理だけで世の中は動いて行かないのさ」
「どんな世の中だろうと、私は飛び込んで行きますよ。先生と一緒に」
「世の偏見は現実世界で起こってるんじゃない、我々の脳内会議室で生まれた色眼鏡による錯覚なんだよ。それを忘れないでね助手くん」