04 那遊ちゃんって、そういう風な事をする子なのか?
「これって、こうした方がいいのか? いや、それとも」
隼人は悩んでいる。
土曜日。自室にいる彼は、パソコン画面を前の椅子に座り、作業をしているのだ。
画面上には、制服を身に纏った女の子らが映し出されていた。
「このシチュエーションだと、この選択肢がいいのか?」
隼人は画面上に表示された三種類のセリフに迷っていた。
そのセリフの返しによって、女の子との関係性が大幅に変わってしまうからだ。
彼が今、プレイしているのは、恋愛シミュレーションと呼ばれるゲーム。
恋愛に疎いため、ゲームを通じて、女の子との関わりを学んでいる感じである。
どういった返しが一番適しているのか考えてばかりだ。
恋愛に奥手なため、未だに幼馴染に告白できていないのだが……。
「じゃあ、今の雰囲気的にこの返しの方がいいかな? ああ、そうだな。この返しでうまくいくはずだ」
隼人が、三種類の内、二番目のセリフにカーソルを当て、左クリックした。
これで……。
あれ?
現実は違った。
画面上に映っている女の子の表情が暗くなる。
少々睨まれたのだ。
まったくもって不正解であり、画面上に映っている女の子から振られてしまった。
え、ええ⁉
ど、どうしてだ?
最善の策だと思い、選んだセリフだった。
あああ、なんで⁉
隼人が頭を抱え、俯き悩んでいると、背後から気配を感じる。
ん……?
不思議に思い、顔を上げ、振り返ろうとする。
と――
「ふーん、お兄ちゃんって、こういう風なの好きなのー」
背後からやってきた子に、耳元で囁かれる。
嫌らしい吐息に、心がフワッとした。
「う、うわッ、な、なに⁉」
隼人は驚き、椅子から滑り落ちてしまったのだ。
「イテテテ……」
尻もちをついている。
上を向くと、そこに佇んでいたのは、ピンク色のTシャツ姿の義妹――那遊であった。
というか、勝手に入ってくるなよと思う。
「ど、どうしたの? 那遊ちゃん?」
「お兄ちゃん、どうしてるのかなって。ちょっと、気になってきちゃった♡」
「そ、そうか」
那遊は父親の再婚相手の連れ子である。
出会った一日目は、おとなしい感じだったのに、好きな人がいるという発言をした瞬間、豹変してしまったのだ。
一緒に生活し始めて、四日目。
那遊と一緒にいると、何が起きるのか予測がつかず、怖い。
「お兄ちゃんがやってるのって、エッチなゲームなの?」
義妹はパソコンの画面を見ていた。
「ち、違うから」
隼人がハッキリと言い切り、床から立ち上がり、一先ず椅子に座り直したのだ。
「じゃあ、どんなゲームなの?」
「普通のゲームさ」
「へえ、普通のゲーム? 画面には、女の子ばかりだよ。お兄ちゃんには、好きな人がいるんですよね? それって浮気じゃないの?」
「浮気じゃないさ。二次元と三次元を一緒にしないでくれ。俺はこのゲームを通じて、女の子との接し方を学んでるんだ」
「へえ、こういう風なのに頼ってるの?」
「そうだよ。別にいいだろ。それと、那遊ちゃん。勝手に人の部屋に入ってきちゃダメだよ」
「どうして? 一緒の家族でしょ?」
「そうだけど。一応、隠したいこともあるだろうしさ。那遊ちゃんも、勝手に部屋に入られたら嫌でしょ?」
「えー、別に」
「困らないの?」
「私は別に見せてもいいよー」
「え?」
「なに? 想像しちゃった?」
「べ、別に何も……」
隼人はサッと視線を逸らす。
な、なに、義妹に心が揺れてんだよ……。
彼は気恥ずかしくなった。
「お兄ちゃんがそんなに女の子に興味があるなら、見せるけど」
「え? い、いいよ」
「私、何を見せるか、言ってないんだけど? もしかして、エッチなことだと思った?」
「ち、違うから……」
な、なんなんだよ……。
隼人は小学生相手に動揺していたのだ。
「お兄ちゃんって、ロリには興味ないって感じ?」
「俺は普通だし……そういう風なのには」
決してロリコンではない。
それは断定できた。
「へええー、そう」
生意気な表情を見せる那遊。
何かを企んでいるような顔つきである。
「お兄ちゃんって、童貞?」
「⁉」
想定外のセリフに、義妹を思わず二度見してしまった。
「なんて?」
「だから、お兄ちゃんって、童貞なのってこと」
「な、なんで、そんな事を聞いてくるんだ?」
「だって、お兄ちゃんの事、もっと知りたいなぁって思って」
「そ、そうか」
なんか、この子にはすべてを話してはいけないような、そんな気がするな。
「ねえ、お兄ちゃん。どうなの?」
「那遊ちゃんの想像に任せるよ」
「じゃあ、童貞ってことでもいい?」
「な、なんでだよ」
「だって、想像に任せるって言ってたじゃん」
「だからって……」
「ねえ、お兄ちゃんってこういう風なの好きでしょ?」
義妹は、身に纏っているTシャツの襟部分を掴み、服の中身をチラチラと見せてくる。
見えそうで見えない。
――って、小学生の下着なんか……。
「お兄ちゃん。見たいでしょ?」
「い、いや……」
「でも、動揺してるでしょ?」
「し、してない……」
「でも、下半身の方は、反応してるよ」
「え?」
隼人は下半身を見やった。
「きゃはは、もう、お兄ちゃん、やっぱ、反応してるじゃん」
「……」
どうしたらいいんだ?
この子って……まさか、メスガキ的な、そんな感じの子なのか?
義妹はニヤニヤと企みの顔を見せている。
この子と、今後も生活していかないといけないのか。
そう思うと、少々気が重くなるのだった。




