01 父親の再婚相手の義妹は…小学生⁉
「え? 義妹が……できるって?」
学校帰りの平日の夕方。
幼馴染の春奈と途中で別れ、帰宅すると、すでに家にいたスーツ姿の父親から言われ、正直驚いていた。
今まで如月隼人には、兄妹がいなかったからだ。
どんな子が妹になるのか、嬉しい反面。本当に一緒に生活していけるのか、不安さも抱いていた。
「それでな、あと少ししたら、その再婚相手の女の人と、その連れ子が来るんだ」
「もう?」
「そうだが?」
「いきなり過ぎない?」
「でもな、父さんは仕事が忙しくてな。今日しか時間がなかったんだ」
「だからって、急すぎるって」
隼人はいきなり疲れた。
「まあ、再婚相手が来たら呼ぶから。それまでは自由にしておいてくれ」
「う、うん……」
父親から言われ、ただ、頷くしかできなかった。
一体、俺の人生はどうなってるんだと思う。
どんな妹なのだろうか?
不安もある。
緊張もするし、ソワソワもしてしまう。
心を落ち着かせた方がいい。
隼人は一度、自室へ向かい、勉強机前の椅子に腰を下ろした。
「どうしようかな。というか、義妹って何歳くらいなんだろ? 同世代? 年下? まあ、義妹ってくらいだし。確実に年下だよな」
隼人は今、高校二年生である。
――となると、憶測だが、義妹になる子は高校一年生以下である可能性が高い。
同じ屋根の下で、まさか付き合うとか……。まあ、そんなことはないか。
と、色々な妄想を膨らませながら、隼人はニヤニヤしていた。
だがしかし、隼人には一応、告白したいと思っている幼馴染がいる。
義妹と付き合ってしまったら、漫画のように修羅場になりそうだ。
第三者として見る分には楽しい気もするが、当事者になったら尋常じゃないくらいキツいだろう。
そういうところは気を付けないとな。
と、自分に言い聞かせていた。
「隼人。そろそろ、来るから、一階に降りてきてくれ」
一階の方から、父親の声が聞こえてくる。
隼人は椅子から立ち上がり、自室を後にした。
階段を降る。
その直後、玄関の扉が開いたのだ。
ヤバ、もう来たのか。
そうこう思ってると、最初に入ってきたのは、身だしなみを綺麗に整えた四十代くらいの女性。と、その後ろからは……。
ツインテールの髪型が特徴で、ピンクや白色が好きそうな感じの私服を身に纏う女の子。
小学生……?
父親の再婚相手と思しき連れ子は、まさかの小学生の女の子だった。
一個年下とか、そういう感じではなかった。
少しだけ、残念な気分になる。
「あなたが、あの忠司さんのお子さんですか?」
「え、あ、はい」
隼人は頷くように返答した。
忠司というのは、父親の名前である。
それにしても、綺麗な容姿の女性。
話し方も落ち着いていて、好感を持てる感じだった。
この人が、新しい母親などだと思うと、心がふわっと軽くなった気がする。
「おお、ようやく来たか。こっちが、息子の隼人だ。よろしくな。那遊ちゃんも、これからよろしくね」
父親はリビングから姿を現すなり、気さくな感じに話し始めていた。
「はい」
再婚相手の女性の連れ子は軽く反応を見せる。なんかおとなしい感じだ。
そこまでテンションが高くはなく、平凡そうである。
「では、こっちで話そうか。亜弥さん。那遊ちゃんも一先ず、上がってくれるかな」
父親は先手を切って、家にやってきた二人をリビングへと案内する。
隼人は最後にリビングに入るのだった。
再婚相手と連れ子は、並ぶようにソファに腰かけている。
テーブルを挟み、対面上に父親と隼人がソファに座っている感じだった。
「それで、早速なんだが……」
刹那、スマホが鳴る。
その音は父親のモノから響き渡っていた。
「あ、すまん。少し会社からだ。ちょっと、待ってほしい」
そういうと、父親はリビングから姿を消した。
「忙しいのね」
「あ、はい、そうみたいですね」
隼人は再婚相手にそう返答した。
父親は、とある会社の社長であり、忙しい。
基本的に家には帰ってこないし、普段から隼人は一人で生活しているような感じなのだ。
「……」
「……」
「……」
無言が続く。
三人もいるのに、誰も話さないというのも気まずさをさらに加速させた。
「えっと、ごめんな。やっぱり、ちょっと時間がないみたいなんだ。隼人、少し会社に行ってくるから。亜弥さんも那遊ちゃんも今から普通に生活してていいから。引っ越し代とかは自分が払うから、日程が決まったら教えてくれれば、こっちでなんかとするよ」
父親は忙しなくリビングに姿を現すなり、サッと自宅から姿を消してしまったのだ。
何やってんだよ。
と、隼人は思う。
でも、それは父親の仕事の都合上しょうがない。
殆ど休みなどなく、他人のために働いているからだ。
「でも、そういうところもいいのよね」
「え?」
「いいえ、私の独り言よ」
「そ、そうなんですね……」
再婚相手の女性は、そういうところを見て、父親と結婚しようと思ったようだ。
確かに、真剣に何かと向き合っている人は輝いて見えるに違いない。
今まで父親と再婚相手になる人は皆、お金目的ばかりで長続きしなかった。
どれくらいだろうか。
父親が再婚した数は、片手では数えきれないほどだ。
一週間で離婚したケースもあったはずである。
まあ、今回は何とかなりそうで、ホッとするのだった。
「隼人さん、ちょっと、キッチン借りてもいいかしら?」
「え、はい、いいですよ」
「お腹とかすいてるでしょ? 何がいいかしら?」
「えっと、なんでもいいですよ」
「本当に?」
「はい」
隼人が再婚相手の女性と会話していると、なぜか、対面上のソファに座っている連れ子がジーっと見つめてきているのだ。
一体、どうしたんだろうか?
他人からじろじろと見られるのは気恥ずかしい。
「じゃあ、手始めにカレーでもいいかしら?」
「は、はい」
隼人は頷くのだった。