表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の護衛兵(仮)  作者: 辰帖コケトリス
3/11

村を襲う蛇の王と少年アルフレッドの夢


 僕の住んでいる村は森で囲まれている。

 村の周辺は魔物が近づいて来ても対策をとりやすいように木が伐採されていて、見晴らしはいいが村からすこし離れるだけでそこは未開拓の地であり、沢山の危険が隠れている。


 その為、ダグラスの両親のような元冒険者や、村の猟師が毎日森の中の様子を何か変わった事はないか、何か危険な魔物の巣が出来ていないかなど、目を光らせ調査をしている。


 もしも魔物の巣や危険な魔物がいた場合には、村で冒険者組合に依頼をしたり、冒険者じゃ間に合わない、もしくは無理だと判断された場合は、王国の騎士団に依頼が行くようになっている。


――それは突然だった。

 二つ隣の村が、バジリスクという巨大な蛇の魔物により壊滅させられた。と言う情報が入って来たのだ。

 バジリスクという魔物は、Aランクの冒険者パーティがなんとか討伐できる魔物で、もちろん僕達の村も襲われた場合、壊滅は免れない。


 その凶報により村はパニック状態に陥っていた。

 こっちにくるのか、今はどこにいるのか、もし来たらどうするのか、村は放棄するのか、何を持っていくのか、村を放棄するとして私達は生きていけるのか。

 そのパニックを収めるために村長が声を張り上げる。


「よく聞けッ皆の者ッまだこの村にバジリスクが来ると決まった訳ではないッ!

しかし来ないとも決まった訳でもないッ!

騎士団と冒険者組合も既に動き出しておるそうだ!!

今は落ち着き逃げる際に必要な物、その他諸々の準備を進めよ。

それと今夜、集会を行う!家長は本日午後9時に我が家に集合せよッ

アドルフ・ガープ!森の巡回の事で話をしたい。この後、我が家に来い!」


 こうしてバジリスク対策が始まった。



――村長宅

 いつもの集会の話題と言えば、今年は豊作だ。だとか、次の祭りはいつやるのか、などの明るい話題が多いのだが、今回の話題は村の存続に関わる事、ということで重苦しい空気が漂っていた。

 そしてこの重苦しい空気の中、各家の代表が腰を掛けたのを確認し村長は話を始めた。


「みな、揃ったな。それでは集会を始める。

まずバジリスクの事だが、村人が誰一人と生き残っておらず、どこに去ったのかすらもわからん状況らしい。この件については我々ではどうすることもできん、故に今日から見張り番を付ける事にする。詳しい事はアドルフ・ガープに話をしてもらう」


 と告げると三十代後半ぐらいの黒髪の男、ダグラスの父、アドルフ・ガープ立ち上がり話を始める。


「はい、今回のバジリスクですが、恐らくまた村を襲うと思います。もちろんこの村に来るという訳ではないのかもしれませんが、少なくとも討伐されるまで、近くの人里を襲い続けるでしょう、人の味を覚えた魔物からすれば狩るのが簡単な餌が群れている、という認識でしょうから。ですので今日の夜から村の見張りを交代制で立てたいと思います。順番は――」


 見張りの順番を伝えようとしたそのとき、小太りの男が話を遮り質問をする。


「ちょ、ちょっとまってくれ。交代制なのはいいんだが、いつまでやるのだろうか。あまりにも長い期間となると農作業やその他の仕事にも支障がでてしまうぞ」


「はい。期間に関してはバジリスクが討伐され、さらに森の調査が終わるまでになると思います。いざ討伐されました。となった後、実はもう1匹いました。となると対応ができないからです。農作業については村全員で、幸い子供達も仕事を手伝うという遊びをして手伝いに慣れているそうですし、手伝ってもらいましょう。もしも遅れが出て損失が出たとしても、そこは村長や領主様から補填が出ると思います。午前中の森の探索及び周辺の調査は、私アドルフと妻のエステル、それと猟師のゲンさんで行かせて頂きます。ですので我々が村にいない時と夜は、皆様に見張りをお願いしたいのです。では順番を発表させて頂きます、まず――さん、次に――さんそして最後に――さんの順番でやってもらう事になります。最後までいったらまた頭からという風に、皆様。よろしくお願いします。私からの話は以上になります。」


 説明と順番の発表が終わり 村民が納得をしたのを確認後、村長は咳払いをし話を続ける。


「んんッ、という訳だ、皆よろしく頼む。それでは次の話に移る、議題はバジリスクが村の近くに出た場合どうするか、という事だ。もしもアドルフ達が森の中でバジリスクを発見した場合、私達は一度避難場所に集まり、村を脱出し隣村に向かう事になる。故に各家の者は必要な物をまとめて置くように。もちろん逆の場合もある、その時はもちろん受け入れをするので皆には協力を頼む。以上で集会を終了とする。それでは解散ッ!!」



§ § § § §




 バジリスクによる隣村壊滅から二週間が経った日

僕達は日課の農作業を手伝った後、いつもの広場に集まって話をしていた。


「しかしいつになったらバジリスクは討伐されるのだろうな」


 腕を組み、木に持たれながらティアが言葉を零す。


「もしかしたらお腹がいっぱいになって遠くにいっちゃったってことはないですかね~」


 それに対しリザリーはいつも通りニコニコとしながらマイペースな返事をする。


「それはないと思うよ。ダグラスのお父さんも言ってたけど、バジリスクにとって簡単な餌場が近くにあるのにわざわざ離れたりしないと思うんだ……」

『ダグラスはどう思う?』と僕が聞こうとした時、村の東側の森から


「オ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛……」


と何者かのとてつもない大きな咆哮が聞こえた後、数回ドゴォンと爆発音がした。


「何事かッ!!!」

と村長が血相を変え慌てて家から飛び出し、東門に向かっていくのを見て、僕達は静かに顔を見合わせ付いていく事にした。


僕達が着いた頃には、既に東門には大勢の大人が集まっており様子を伺っている。


「いったい何があったのだ!」


と村長が叫ぶ。それに対して見張りをしていた村人が答える


「いえ、私達にも何が何だかわからない状態でして……森から凄まじい音がしたと思ったら黒煙があがったという事はわかるのですが……」


そう言いながら見張りの村人が森のほうを見て顔色を変える


「ッッ!!向こうから人が……3人!3人がこちらに……あれは……アドルフ夫婦とゲンです!!アドルフさんは怪我を負って気絶しているようで、ゲンに背負われていますッ!!」


 という言葉により一気に場が張り詰める。


 森を探索していた3人が村につき猟師のゲンが口を開く


「す、すまねぇ。俺がヘマをしたばかりにアドルフさんが怪我をッ」


「アドルフッ大丈夫か、何があった!ゲンッ説明をせい!」


「俺達はいつも通り森を探索していたんだ。そしたら何か知らないデカい穴があったもんで近くにいたアドルフさんを呼びにいこうとしたら中からバジリスクが物凄い勢いで……それでッアドルフさんが俺を守るために怪我を!!」


「ッッ皆の者村から出る準備をせよッ!門を閉めろ!少しでも時間を稼げるようにだ!! 手の空いてる者……そこのお前!すぐに馬に乗り隣村に伝えよッバジリスクが出たと!!」


あまりにもの騒々しさに気を失っていたアドルフが起き自分達に起きた事を説明する


「ウッ……すいません村長……もしかしたらバジリスクを刺激しちまったかもしれません。妻に魔法を打ってもらった後、目になんとか剣を刺して悶えてる間に逃げてきたんですが……」


「良いッよく生きて帰って来た!エステルさんも旦那の事は私に任せて逃げる準備をしなさい」


「ゲンよ!そこの荷車をもってきてアドルフを乗せ逃げい。他の者はどうしておる!もたもたするなッバジリスクが来るぞッ」


 その言葉が引き金となり村がハチの巣をつついたような騒ぎになった。


 あまりもの変化に立ち尽くしていた僕達にいち早く正気に戻り状況を把握したティアが声をかける。


「ダグラス!アル!リザリーッ私達も早く逃げるぞ!」


「あっはい~ってあれ?ダグラス君がいませんね~」


「ダグラス!?どこにいったんだあいつは!」


「僕はダグラスを見つけたら一緒に逃げるよ!だから先に避難所に行ってて!」


「ああ、わかった必ず合流するんだぞ!」


ティアにそう釘を刺され別れたあと、僕はダグラスを探しにいこうとした時に見張りの男が叫ぶ


「村長!森から何か来ますッ!」


その言葉の少し後に大地が揺れ始め、遠くに土煙が上がっているのが見えた。


 僕も早くこの場所を離れようとした、次の瞬間、僕達の目の前にあった門が木っ端微塵に破壊され、門に使われていた小さな鉄の破片や大きな木の破片が近隣の家や花壇、道に降り注ぐ、そして土煙がゆっくりと晴れた先にいたのは、左目に剣が突き刺さった巨大な蛇、バジリスクが首を上げ佇んでいた。


「シュルルル……」

とバジリスクが何かを探しているかのように首を動かし舌をチロチロとさせ、大きく息を吸い込み咆哮を上げる。


「ギ゛ュ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」


 まるで自分を傷つけた者に憤怒しこの世の全てを破壊し尽くさんとばかりの咆哮を聞き、僕は腰を抜かして地面にへたり込んでしまった。


「うっ……」


 後ろでうめき声が聞こえたので後ろを振り向いて見ると、門が壊された時に飛ばされたのか破片が当たったのか、頭から血を流した村長が倒れていた。


「そっ村長!大丈夫ですか!」


 村長の肩を揺すってみても村長は苦しそうにするだけで返事が返ってこない。


「アルッ!ッッおじい様!?」


 そこにリザリーと逃げた筈のティアが駆け寄ってきた。


「ティア!リザリーと一緒に逃げたんじゃないのか!」


 僕が声を荒げティアに問うと


「少し待ってても君たちがこないんでな!もしかしたら何かがあったのかも……と思ってリザリーを置いて見に来たんだ!……しかしこれは……まずい所に来てしまったようだね……」

と言いながら目線をバジリスクに向けた。


 それを見て僕も目線をティアと同じ方向に目を向けると、バジリスクと目が合った。

バジリスクはこちらをジッ……と観察したまま舌をチロチロと出し、こちらに標的を定めその巨大な4本の牙がついた口を開け僕達に襲い掛かって来た。


 これが死ぬ前に見る走馬灯か、と思った事を今でも覚えている。

 ダグラスやティア達と友達になった時の事や、一緒に大人に怒られた事、自分よりも年下の子たちにお兄ちゃんと頼られ嬉しかった思い出が駆け巡り、周りの動きがゆっくりに見え、目前に迫るバジリスクを見て全てを諦め目を瞑った瞬間


「ッウラァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


と声が聞こえ目を開くとそこにはバジリスクにロングソードを叩きつけるダグラスが見えた。


バジリスクの硬い鱗とロングソードがぶつかりギャリギャリと音を立て火花が散り、横からの衝撃にバジリスクの向かう方向が変えられズズゥンと音を立て家に突っ込む。


「おいアル!ティア!なんでお前ら逃げてねぇんだ!バカ!」


地面に着地しダグラスが僕達に叫ぶ、あまりにも酷い物言いに僕も言い返す。


「ッなんでって君が突然いなくなるから君を探しにいこうとしてたんだ!君こそどこにいってたんだよ!」


「……鍛冶屋のおっさんの店に武器を取りに行ってたんだ。実質こいつを村につれて来たのは俺の親父みたいなもんだからな……息子の俺が尻拭いで時間を稼がねぇと皆が逃げれねぇだろ!」


と言った所でバジリスクが体を起こしダグラスに襲いかかる。


「ダグラス!だめだ!僕達じゃ勝てる相手じゃない!逃げるんだ!」


「俺なら大丈夫だ!大丈夫……時間を稼いだら俺も逃げる!お前はさっさとティアと村長をつれて逃げろ!」


とダグラスはバジリスクの突進を避けながら僕達に指示を出す。


「ダグラスッ!!」


「アルッ!大丈夫だ。ダグラスもああ言っている、私達がここにいても邪魔になるだけだ。おじい様の避難を手伝ってくれ……。」


 ティアが苦悶の表情をして僕に言う。


「でもッ」


 僕が躊躇しているとティアは声を荒げて僕を説き伏せる。


「ダグラスの時間稼ぎを無駄にするな!私達が残っていて何ができるって言うんだ!ダグラスは今、私達のためにがんばってくれているんだ!今ここであの化け物から遠くに離れないとダグラスも逃げるに逃げれないッ」


「ッッッ……わかった。村長を連れて早く避難しよう……」


僕とティアで村長の肩と体を掴み、引きずるようにして運んでいると、バジリスクが咆哮を上げダグラスに頭から突っ込んでいくのが見えた。


 ダグラスはバジリスクの突進をギリギリで避け、そのすれ違いざまにロングソードを振り、そのひと振りがバジリスクの右目に当たって、血があたりに散らばる。

 するとバジリスクは苦しそうに絶叫を上げのたうち回った。


「これで両目が潰れて何も見えなくなったろ!」


ダグラスがこれはチャンスとばかりにバシリスクにもう一撃与えようと駆け、切りかかる。


 その様子を見て僕はとある図鑑を思い出し、一つの可能性が頭をよぎった。

 夜行性のヘビは暗闇の中でも獲物を見つけれるようにピット器官というものがあるらしい、バジリスクは別名、蛇の王だ。もしもバジリスクがその名前の通り“蛇の王”であったのならば、バジリスクにもピット器官というものが備わっているはずで、例え両目が潰れて視界がなかろうと相手の場所は把握できているだろうということを。


「ッ駄目だ!ダグラスッバジリスクは君がどこにいるのかをわかっているかもしれない!」

そう言った瞬間だった。

バジリスクがさっきの仕返しだと言わんばかりに尻尾でダグラスを突き飛ばしたのだ。

まるでバッドに打たれたボールのようにダグラスが弾き飛ばされ僕達の横の家に激突する。


「ダグラスッ!」


 ダグラスが突っ込んだ家に向かって叫ぶと彼が中から血だらけでフラフラと出てきた。

 その姿は頭から血を流し、右腕はあらぬ方向に折れ曲り、とても痛々しい姿になりながら、ロングソードを杖の代わりに僕達の前に立つ、その満身創痍の体で。

 しかし未だに彼の闘志は燃え尽きておらず、普段の優し気な彼からは想像もつかないような威圧感を放ったまま、目は爬虫類のように瞳孔が縦に細長くなり、いまにも敵を切り裂かんとバジリスクを睨んでいた。

「大丈夫……大丈夫……俺はまだいける……負けを認めるな……守るんだ……」

と自分に言い聞かせるように呟いていた。


 バジリスクは、そのダグラスの威圧感を警戒しているのかこちらにつっこんでくる気配はない。

 するとある事に気付いた、バジリスクの右目から煙が上がっているのだ。

 その煙を観察していると段々と煙が少なくなり煙が上がらなくなったその箇所には……目が再生し、さらによく見るとバジリスクの口からチョロチョロと緑の煙が漏れている。まるで図鑑に載っているドラゴンなどのブレスの前兆と同じだった。


 バジリスクは自分がさも苦しんでいます、さっきの攻撃が効いていますと、相手に隙を見せ、それを囮に反撃し、その後は自分の目が回復するまで相手の攻撃の届かない高さを維持して回復、近づけば手痛いしっぺ返しが返ってくるのかもしれない、それじゃあ遠距離のブレスで殺そうとでも考えていそうな行動を見て、僕は急に冷静になり案外魔物も賢いもんだな。と思ってしまった。


 僕は覚悟を決め、ダグラスの前に立ち手を広げる。

「僕の友達はやらせないッ……ダグラスは僕達を守ってくれたんだッ意味はないかもしれないけど、僕が盾になるッ……!!」

 後ろにいるティアとダグラスが僕の名前を呼んだ気がするが耳には入ってこなかった。

 足は恐怖に震え、歯はガチガチと鳴り、頬には涙が伝う。

 バジリスクが更に息を大きく吸い込みこちらにブレスを吐いた瞬間、僕達の後ろから重厚な鎧を着た男が僕達の前に立ちふさがり、巨大な盾を構え


「聖天守護障壁!」と叫んだ。


すると目の前に巨大な神々しい盾と薄い膜のような物が出現しバジリスクのブレスを防ぐ。

 ブレスを防いだ男は僕達に笑顔を向け一言伝えた後さらに付いてきた兵士に指示を出す。


「何やら近くで大きな音がすると思えば……間に合ってよかった!少年達よ、よく耐え、よく時間を稼いだッ!ルーカス!いけるであろうな?我ら王国騎士団の役目を果たせッ!我らが国民に手を出した事を後悔させてやれい!他の者はルーカスの援護!支援魔法を展開せよッ」


神々しい盾が光とともに消えると真っ赤な髪の男がバジリスクに肉迫しており、ロングソードをヒュッと一振りした瞬間、バジリスクの首と胴体が離れ、ズズンと地面に崩れ落ち獅子のよう男が剣を掲げて勝利を叫んだ。


 その姿を見て僕は憧れを抱き、僕もそうなりたいと思った。

 

 僕達を守った壮年の騎士は満足気に頷き、周りの騎士に指示を出す。

「お見事!流石王国最強の名は伊達ではない!隊長を譲れる日も近いな。ワハハハハ!それでは近接部隊はそのまま周りの索敵に移れ、他の者は怪我人がいないかの捜索をせよッ」


騎士達がバタバタと動き始めた瞬間ダグラスはバシャッと音を立て血だまりの上に倒れてしまった。

 その音を聞いてハッとした僕はおそらく騎士長である男にパニックになりながらも懇願する。


「あのッダグラスの命を助けてくださいッお願いします……彼は僕達を守って……僕の大事な友人で……」


「うむ、わかっておる!至急回復術士を呼べ!我らが来るまでバジリスクと戦い我らの代わりに民を守った若き英雄を死なせるなッ 少年ッ!遠目から見えたが少年もよくこの少年の前に立ち、守る気概を見せた。後は安心して我々に任せよ」


その言葉に安堵し体から力が抜け僕はその場に倒れ込み疲れからかそのまま気を失ってしまった。



「――ッ!――ルッ!アルッ!」


 誰かが僕を呼んでいる、その声で目が覚めると目に涙を浮かべた母さんと心配そうな顔をした父の顔が見えた。


「アルッ!よかった。避難場所にあなたが来ていない事を知って私達がどんなに心配した事か」


「ティアちゃんから話は聞いたが……本当に無茶をして。本当に生きててよかった……」


 母さんと父さんが僕の無事を喜び、僕を抱きしめる


「ッそういえばダグラスは!?ダグラスは助かったの!?」


「ダグラス君は今騎士団の回復術士の方が治療中だ。相当傷がひどいらしいが命に別条はないらしい、騎士長さんがそう言っていたよ」


 騎士長さん……僕達をバジリスクのブレスから守ってくれた人


「そっか。よかった……お父さん、実は僕、騎士になりたいって思ったんだ。僕は今回、ダグラスや騎士の人に守られてるだけだったんだ。だけど、今日の出来事で僕も守られるだけじゃなくて、僕の大事な人達を守りたいって思ったんだ。だからちょっと騎士長さんに会って聞きたい事があるんだ、だから出かけてくるね!」


と言い僕はベッドから飛び起き、家を飛び出し騎士団の人達が集まってるであろう広場へと走った。


「あっおい!アル!……行ってしまった。昔より元気になってくれたのは嬉しい事だが……ちょっと元気になりすぎたんじゃないか……?」

という父に対して母は

「フフ、いいじゃないですか。私はあの子が元気にやりたい事を出来ている事が嬉しいわ」

と微笑み息子の後ろ姿を見送った。



 広場には色々な人が集まっていた、騎士団の人、おそらくこれから森を探索するであろう冒険者の人達、そして無事に避難をできていた人達が今後の話をするために集まっていた。

 僕はその中からひと際大きな盾を持ち周りの騎士に指示を出している騎士長を見つけ話かける。


「失礼します……あのッあの時は助けてくれてありがとうございましたっ」


「ムッ?あの時の血だらけの少年を守ろうとしていた少年か!気を失い倒れた時にはどうなるものかと心配したが、元気そうでなによりだ。もう一人の少年は現在治療中だ、命には別条ないが……目が覚めるのはまだ先になるであろうな……」


騎士長はそう言い目を伏せる、そして僕は本来の目的を果す為、口を開こうとすると騎士長が眉を上げ先に話かけてくれた。


「ふむ、少年、まだなにか言いたい事がありそうだな。言ってみよ!」


「ッはい!皆さんのように大事な人を守れる騎士になりたいんです!ですので……稽古をつけてはもらえないでしょうか!」


騎士長は腕を組み考える。


「……今回の件で守られているだけの、己の無力さに嫌気でも差したか少年」


「はい。守られているだけの存在ではなく僕も守る側に、友人の後ろではなく隣に立ち続けたいのです」


「青い、青いな……フハハハハハハハ!だがしかしッそれでいい!人間誰しも若い頃は青いのだ。そこから経験に経験を重ね立派になって行く。いいぞッ気に入った!稽古をつけてやる。しかし調査が終わりここら一帯の安全が確立されるまでの間だ。短時間で吸収し強くなれ、そして少年が大人になった時、その大切な人達を守りたいという思いが褪せていなければ我ら王国騎士団の門を叩き無事試験に合格してみせよ、我々王国騎士団は優秀な者を歓迎するッ」


「はいッ!!」


こうして僕の騎士になるという道は始まった。

 それからダグラスが目を覚ましたのはこれから3日後の昼頃だった。

 ダグラスが目を覚ましたという吉報を受け、僕達子供軍団は急いでダグラスの家に向かった。彼の部屋の扉を開けると包帯をグルグルに巻かれ僕達に手をふり笑っている彼の姿が見えた。


 「ダグラスッ!貴様!どんだけ私達が心配したと思っているんだ!しかし、ダグラスのおかげで私もおじい様も助かったよ。本当にありがとう」


 「本当ですよ~引き返していったティアちゃんや避難してこなかったアル君にも私は文句を言いたいですが。ダグラス君が無事で本当によかったです~」


とダグラスが皆から色々と言われダグラスが笑いながら謝る。


「いやーその、すまねぇとは思ってるよ。こんな姿にもなってる事だしな。親父や母さんにも散々怒られたよ。しかしアル、まさかあの状況でお前が俺の前に立つとは思わなかったぜ。あの弱虫アルがなぁ……」


とわざとらしくウンウンと親父臭い芝居をするので僕は笑いながら答えた。


「あのときは本当、必死だったんだ。初めての友人をやらせてたまるかってね……それとダグラス、僕も夢を見つけたんだ。僕は騎士を目指す事にしたよ。僕もあの人達みたいに人を守りたいんだ。今も調査が終わるまでって条件で騎士の人達に稽古をつけてもらってるんだ」


「いいじゃねーかアル!騎士かぁ、似合ってると思うぜ。俺も今回の件で自分が弱いってわかったからな、この怪我が治ったらよ一緒に修行して強くなろうぜ!アル!」


と彼は笑った。


 それからは騎士長に剣の基礎を教えてもらい、他の騎士の人達と稽古をつけてもらい、村の復興を手伝いその後は稽古、騎士団が王都に帰った後は稽古を一つ一つ丁寧に繰り返し、ダグラスが完治してからは徒手組手に剣をつかっての模擬戦。そこに将来冒険者になりたいティアも参加し時は過ぎて行った。


そして僕達は16歳になり、リザリーは村に残り宿屋の仕事を、僕とダグラスとティアは王国に行き僕は騎士へ、ダグラスとティアは冒険者になった。


騎士になり数年たったある日、ティアが世界を見て回る為に国を出るという話をしていたので、僕達は王国のとある酒場に集まりティアのお別れ会を開いていた。


「やぁ待たせたかな。今回は私の為に集まってもらって悪いね」


と主役のティアが少し遅れやってくる


「いやいや僕達も今来たところだから、大丈夫だよ。それに友達の祝いの門出だしね」


「おうおうそうだぞ、皆の夢が叶った祝いでもあるからな。それじゃ揃った所でカンパーイ」

とダグラスが音頭をとり宴が始まった。


その宴の中で僕はダグラスに冒険者を辞めて騎士にならないか。君と一緒ならどんな事が起きても大丈夫な気がするんだ。と騎士団に誘った。

 すると彼は「騎士団ってなんか礼儀とか大変そうだし」と凄く嫌そうな顔をした後、断られた。



§ § § § §



 私はそんな昔の事を思い出しフフっと笑った。


 するとルーカス騎士長が


「なんだ急に笑い出して、今日の討伐の時に頭でも打ったか?」


と私をからかう、それに対し私は微笑みながら


「いえ、久しぶりに友人の事を話しましたので、昔の事を思い出し笑ってしまっただけです。ルーカス騎士長」


『恐らく公爵様はダグラスを雇うだろう。帰ったら彼に手紙を出してあげなくちゃ。君に素晴らしいプレゼントを用意したと。彼はそれを知った瞬間あの頃とは変わらない嫌な顔をするのだろうな。』


と思い私は笑いながら王国への帰路についた。



騎士団が帰った執務室で当主オズウィンと執事セバスがアルフレッドの話を思い出し話をしていた。


「ふむ……話を聞いている限りでは素晴らしい御仁だな。幼い頃から大人のような価値観を持ち

リーダーシップもあり、そして強い」


「えぇ、魔法無しの模擬戦であれば、あのアルフレッド殿ですら、勝った事がないと。そうなりますと護衛としては頼もしく思えますな。しかし今のダグラス殿がどういう方か、というのはわかりません。旦那様、どうなさいましょうか」


「セバス、暗部の者を集めてくれ。二週間、二週間だ、二週間で現在のダグラス殿の評判、情報、人柄そして周辺人物を洗え。帝国や他所の国の者との接点がないか等もな。その後ダグラス殿にコンタクトを取り直接会って見極め娘の護衛の交渉をしてみよう」


「はっ、畏まりました」


こうして夜は更けていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ