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悪役令嬢の護衛兵(仮)  作者: 辰帖コケトリス
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アルマ・バイゼル①


「アルマ、お前ももう今年で六つになる。そろそろ貴族として成長していかねばな」


 ある日、私はいきなりお父様にそう告げられた。

 

 そして、その翌日には、私が幼い頃からメイドとして働いていて、私の遊び相手になってくれたり、髪を結ってくれていた、私の姉のような存在のセシリアが専属メイドとして、私の傍に居てくれるように。


 そしてその翌週には、家庭教師としてドロテーア夫人という女性が私に色々と教えてくださる事になった。


 ドロテーア夫人と顔合わせした時に言われた事は、いままで夫人が教えてきた教え子は皆立派になって今もがんばっているという事。私に掛かれば、どんな子でも素晴らしく優秀になれるという事だ。


 その話を聞いた時、私はこの人はすごい人なんだと、私はこの人に色々教わってお母さまのように、素晴らしい人になろうと思った。


 それが地獄の始まりだった。朝はこの国の歴史や算術や文字の勉強、お昼を食べ終わって少したったらマナーの講習にダンスのレッスン、遊ぶ暇が無くなるぐらい朝から晩までお勉強をがんばった。


 最初の方はドロテーア夫人も私の事を素晴らしいと褒めていてくれていたのだが、時間が経つにつれて一回やった事を間違うと怒られるようになり、そして出来ても「以前教えていた子供はもっと早く出来ていた」とか「あなたは出来て当然なのです。公爵令嬢なのだから」等と言って褒めてくれる事も無くなってしまった。


 それが悔しくて、夜は枕を濡らす事もあった。その度にセシリアが私の事を慰めてくれる。

 でもこの厳しい中でも私は頑張った。お母さまのように素晴らしい女性になれるように、そしてお父様の誇れる娘になるために。


 そんな生活が一ヶ月続いたある日の夕食時にお父様が

「アルマ、今、お前の護衛を依頼しようと思っている人が明日の昼頃に屋敷に着く予定だ。もしもこの護衛の依頼を受けてくれた場合は、夕食の時にその方を招いて夕食を食べる事になる。失礼が無いようにするんだぞ」と

 

 そして次の日、お父様が言っていたお方がどうやら私の護衛の依頼を受けてくれたらしく、顔合わせついでに、夕食を一緒に食べる事になった。


 セシリアの話によるとその人は冒険者で、変わった人らしく、王国騎士団の副長さんと同じぐらい強いらしい。


 その夜。お父様とお母さまに付いて行き、遂に来た初対面の時、晩餐室の扉の前で私は自分に言い聞かせていた。


『私の事をこれから守ってくださる方になるのだから、失礼がないようにしっかりと挨拶をしなきゃ』と。


 そんな事を思っていると、晩餐室の扉が開かれ、お母さまに続き入室するとお父様の前にはとても大きな少し怖い顔をした男の人が立っていた。


 男の人とお母さまの挨拶が終わり、私はお母さまに挨拶しなさいと背中をポンと押されて前に出る。


 挨拶をしようとするが、お父様やセバス様、家の使用人以外で初めて会う男の人に緊張し、頭の中が真っ白になり、頭の中で何回も練習した言葉が出てこず、男の人の顔が少し怖いのもあって小さな声での挨拶になってしまう、すると男の人、ダグラス様が私の目線に合わせるためしゃがんで挨拶をしてきてくれたのだが、恥ずかしくなってしまいついお母さまの後ろに隠れてしまった。


 失礼な事しちゃった。早く謝らなきゃ。そう思いながらも夕食を食べながら時間は過ぎて行き、遂には謝るタイミングも失ってしまって、顔合わせは失敗になってしまった。


 自分の部屋に戻り明日の準備をした後、セシリアに今日の反省点を話し、ベッドに横になり目を瞑る。


 なんでもっとちゃんと出来なかったんだろうな。イメージだとちゃんと挨拶できてたはずなのにな、なんて考えながら挨拶をした時を思い出す。


 「背が高くて顔はちょっと怖かったけど……挨拶してくれた時は、春のお日様の日差しのような……暖かくて優しそうな人だったな。でもなんで少し顔が引きつっていたんだろ?」


 そんな事を思いながら眠りについた。


 次の日、ご飯を食べていると扉からコンコンと音がしてセバス様の声が聞こた後、セシリアが少し部屋の外に出ていく。


 私はもう一人の朝食を運んできてくれたメイドに見守られながら残りの朝食を食べ終わり、中々帰ってこないセシリアの様子を見る為に扉を開けると、そこにはセシリアと話をしているダグラス様がいて、目と目が合った瞬間、反射的に部屋の中に入り扉を閉めてしまった。


 またやっちゃった。と反省しているとセシリアが戻って来てドロテーア夫人が来るので着替えを済ませておく。


 そしてドロテーア夫人を待っていると、外からドロテーア夫人の声が聞こえてきて、その声を聞いたセシリアがまた扉の外に出て行き、少しした後、普段のセシリアとプリプリ怒っているドロテーア夫人、少し疲れたような顔をしたダグラス様が部屋の中に入って来て授業の準備が始まる。


 私の後ろにはセシリアがそこから少し後ろにダグラス様、そして前にはドロテーア夫人が授業の準備をしている。


 私は、先日の無礼を謝ろうとダグラス様の様子をチラチラと見て謝るタイミングを測っていたのだが、授業の準備が終わったのかその様子をドロテーア夫人に見られて叱られてしまい、また謝る機会を逃してしまった。


 それから一ヶ月ぐらい謝る事もできず、かといって話しかける事も気まずくなった頃、いつものドロテーア夫人の厳しい授業を受けていた時に先日教わった事を間違ってしまった。


 いつもの如く、激しい叱咤が始まるが今日はそれだけでは終わらない、かつての教え子と私を比べ、あなたはどれどれができていない、あなたは集中力がたりない、かつての教え子は一発でできていたのに。と私を責める。


 しょうがないんだ。私が間違えたのが悪いんだと思いながら耐えていたのだが、夫人が不意に

「はぁ……この子はなぜこんな事もできないのかしら。才能が無いのかしら……いえ、諦めちゃだめよドロテーア。私の栄光に傷をつけては駄目。この子を一流に育ててこそ私の栄光への道は始まるのよ」


 なんて言葉をボソッと呟いた言葉が私の耳に入って来てしまった。


 その瞬間、私は幼いながらにも『あぁ……この人は私を便利な道具としてしか考えていないんだ。私を思って厳しくしてたんじゃなくて自分の為に私を利用していたんだ……』と理解してしまい、私の中の何かが壊れ崩れたような気がした。


 正直に言ってしまえば私はその場で授業も何もかも放り出してしまいたかった。

 だけどもできなかった。なぜなら私はバイゼル公爵の娘だから、お母さまのように立派になりたかったから、なんとかその日の夜まで耐え、授業を受けきった。


 夕食も食べ終わり私は部屋に戻りドロテーア夫人の言葉を思い出していた。

 『あなたは一流になるのです。あなたは公爵令嬢、人の上に立つ存在なのですから全てできるようにしないと。遊ぶ時間など要りません全ては一流になる為に。この子には才能がないのかしら。こんな事、以前教えていた子は全て一回で覚えていたのに。なんですかその表情は、私が若い時なんかは――』


「はぁ……明日も怒られるのかな……嫌だな」そう呟きながら眠りについた。


 次の日の朝、いつも通りセシリアに起こされ目が覚め、顔を洗い、朝食を摂り、お洋服を着替えさせられながら、セシリアと話をする。


「ねぇ、セシリア……今日も……お勉強しないといけない?」


「お嬢様どうしたんですか?体調が優れないのですか?」


「ううん、そういう訳じゃないけど……」


 と私が口籠っているとセシリアは私の思っている事を察してくれたのか


「そうですか……では、ドロテーア夫人には今日の授業は休むと伝えましょうか」


 と提案してくれ、私が何も言わずに首を縦に振ると、セシリアはいつものように微笑んでくれた。


 すると扉からコンコンと音が鳴り、それと同時に私の体がキュっと強張るが聞こえて来た声はセバス様の声だったので安心して体から力が抜ける。


「セシリア、少し報告がございますので出てきてもらえますかな?」 


「かしこまりました。お嬢様、セバス様とお話をした後、ドロテーア夫人に本日の授業の件をお話致しますので、暫く離れますね」


 そう言ってセシリアが部屋からパタパタと足音を立て出て離れていき、今日の授業が無くなるんだ。と心が軽くなった。


 ……あれから少し時間が経ったのだが、セシリアが全然帰ってこないので気になり、探しに行こうと扉に手を掛けた瞬間、廊下から声が聞こえてきた。


「お待ちください、ドロテーア夫人。先程も言った通りお嬢様は本日体調が優れないので……」


「えぇ、えぇ、わかってますわ。でもよくいますのよ、私の授業が厳しいからとズル休みする子が。なので私は自分の目で見て判断する事にしてますの。ズル休みされると勉強に遅れがでるので困るんですの」


「いや、でも……」


 そんな声が聞こえ、だんだんと私の部屋の近くに足音が近づいてくる、それと同時に私の呼吸が早くなり反射的に部屋の鍵を閉めてしまった。


「ミス・アルマ、部屋に入りますわよ。……?ミス・セシリア、ここの扉はいつも鍵をかけてますの?」


「本日はお嬢様の体調が優れないので……」


「……ふーん……なるほど。ミス・アルマッ!あなた体調不良というのは嘘ですわね?早く開けなさい!時間がもったいないですわ」


 私が黙り込み、固まっているとドロテーア夫人はさらに言葉を続ける。


「何が嫌なのかはわかりませんが、勉強は毎日やってこそ身に付く物ですわ。ですから早く鍵を開けなさいッ!」


 私は心がキュっと縮むような感覚を覚えながら扉の前で思いを口に出す。


「嫌です……」


 その言葉を聞いたドロテーア夫人はヒートアップする。


「この私があなたの教育係を受け持っておりますの、失敗なんて絶対許せませんわッ!ミス・アルマッわがままを言わずに早く扉をあけなさいッ!そんな事では一流の貴族には慣れませんわよ!」


 まただ。夫人が受け持っているから、失敗をしたら自分の経歴に傷がつくから、私の事なんて何一つとして考えてくれない。その言葉を聞いていままで心の奥底に閉まっていた物が溢れだしてくる。


「嫌よッ!毎日、勉強ッ勉強ッ勉強ッ午後はマナーにダンスの稽古ッ!もう疲れたの!どんだけがんばっても誰も褒めてくれないッ間違えたら怒られるだけなのはもう嫌ッ!嫌なの!」


 この言葉すら相手には届かずドロテーア夫人の言葉が返ってくる。


「当然ですわッ!あなたは公爵様の令嬢。何もかもできて当たり前ですの!一流のマナー、一流の頭脳、一流のダンス。あなたは私の手によって一流の貴族になるのですッそんな弱音を吐いて恥ずかしくはないのかしら!」


 一流……一流が当たり前なの……?公爵家に生まれたら何もかもできて当たり前なの?弱音を吐いちゃいけないの……?


 「さっきから一流、一流ってその話ばっか!私は一流の貴族になりたい訳じゃないのッ!」


 私は一流になりたいんじゃない。お母さまのように立派な女性に、お父様に誇りに思ってもらえるような娘になりたいの。


 「ふんっ、人の上に立つ者としての責任感が無いのかしら?そのまま貴方は落ちこぼれになりたいのかしら!」


 あぁ、この人にはそんなの関係ないんだ。でも言ってる事が全部間違ってるって事はないんだろうな……それが余計に私の神経を逆なでする。


 「うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!もうッ!早くどっかに行ってよッ!」


 もう何も聞きたくない。


 セシリアがドロテーア夫人に何かを言っているが、おそらく言い負かされたのだろう、静かになってしまう。


 すると男の人がやってきてドロテーア夫人と話をしている。セバス様かダグラス様かな。もしこれで誰かが鍵を開けて夫人が部屋の中に入ってきたりしたらもう何もできない。その時は何も考えず授業を受けるしかないな。そう思いながらベッドに倒れ込む。


「……?」

 

 ドロテーア夫人の喚き声がしたと思ったら、部屋の前から人が離れていく気配がする。


 ドロテーア夫人が怒って帰ったのだろうか。それからセシリアと男の人の話声がした後、さらに私の部屋の前から人が離れて行く。夫人の追撃が無くなった事で私はホッとして胸をなでおろす。


 これからどうしようかな。ベッドの上で考えながら時間を潰していると、人が戻ってくる気配がする。


 セシリアかな?と思っていたら、鍵がカチャっと開くと同時に扉が力強く開き、「ちょっダグラスさん!」とセシリアの声に被せるように大きな声で


「アルマお嬢様ッ街に遊びに行きますよ!」


 と言いながらニカっとしたダグラス様が少し変なポーズをしながら立っていた。

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