癇癪お嬢様
公爵令嬢の護衛が始まってから1ヶ月、講師との間以外には問題という問題が起こらず、休みの日はセウロナ冒険者組合で溜まっている依頼を軽く受け、街をぶらぶらと観光し、屋台の親父や雑貨屋のおばちゃん達と立ち話をして過ごす日々。
しかし未だにお嬢様と信頼を築けずにいた。
最近街ではスラムの子供が徒党を組んで盗みなどを行っているらしく、屋台の親父が時々被害に会っていると愚痴を吐いていた。
それに対して衛兵も色々と策を講じているらしいのだが、子供は以外にもすばしっこく中々捕まらないのだとか。
あくまでも噂なのだが、その子供達の裏には奴隷商や荒くれ者がいるらしく、子供達に物を盗ませ、その貢献度によって子供達の中に序列をつけ、低い子供から出荷していくのだとか。
そして今日も朝早く起床し、日課の素振りをしていると、初日と同じようにセバスさんが後ろから声を掛けられる。
「おはようございますダグラス殿。朝から精が出ますな」
「えぇ、セバス殿おはようございます。何かございましたか?」
「旦那様がお呼びですので執務室までお願いいたします。護衛の件は私がセシリアに少々遅れますと報告しておきますのでご安心くださいませ」
知らない内に何かやらかしてしまったのだろうか、もしくはこの間の講師と揉めた件についてか……と不安になりつつも、バイゼル公爵がいるであろう執務室に向かい扉を数回叩き入室の許可を求める。
「ダグラス・ガープただいま参りました!」
「うむ、入ってくれ」
と入室の許可が出たので襟を正し扉を開ける。
「失礼致します」
「うむ、仕事前に呼び出して悪いな。呼び出したの理由は給与の支払いと仕事の様子を聞きたくてね。まず、これが先月の給与だ。受け取ってくれたまえ。」
ありがとうございますと言って金貨が入った少し重い袋を受け取る。
「それで……護衛のほうはどうだね?順調かね、困った事や必要な事があれば言ってくれたまえ」
「護衛に関しては正直に言えば……暇、と言った所でしょうか。あまりにも平和すぎてこんなに給金を頂いていいのか、と考える程です。困った事……とまでは行かないのですが、未だにお嬢様に怖がられているようで……どうしたものかと」
そう伝えるとバイゼル公爵は大きな声で笑い始めてしまった。
「はっはっはっはっ、怖がられているか……そうか。給金の事に関しては気にしないでもらって構わない。それは私が決めた事なのだから。娘との関わり方については君に任せるよ、これは勘なのだが娘は怖がっているだけではないと思うのだ。だから気長に付き合ってあげてほしい」
「そう……ですかね、了解しました。」
「うむ、それでは今日もよろしく頼むよ」
「失礼致しました」
執務室から退出し、もらった給金の中から少しを腰の袋に入れ残りを部屋に保管しお嬢様の部屋に向かう。
するとお嬢様の部屋のほうが何やら騒がしくなっているので急いで向かうと、扉に向かってギャンギャンと叫んでいるドロテーア夫人、そして扉の外でセシリアさんが心配そうにしているのだ。
俺は近づきセシリアさんに何があったのかと聞くと
「あの、えーと。お嬢様が癇癪を起こされまして……」
と気まずそうに報告をしてくれると同時にドロテーア夫人のわめき声が響き渡る。
「この私があなたの教育係を受け持っておりますの、失敗なんて絶対許せませんわッ!ミス・アルマッわがままを言わずに早く扉をあけなさいッ!そんな事では一流の貴族には成れませんわよ!」
「嫌よッ!毎日、勉強ッ勉強ッ勉強ッ午後はマナーにダンスの稽古ッ!もう疲れたの!どんだけがんばっても誰も褒めてくれないッ間違えたら怒られるだけなのはもう嫌ッ!嫌なの!」
とお嬢様が泣きながら心の叫びを上げるが、ドロテーア夫人はそれを無視して説教を続ける。
「当然ですわッ!あなたは公爵様の令嬢。何もかもできて当たり前ですの!一流のマナー、一流の頭脳、一流のダンス。あなたは私の手によって一流の貴族になるのですッそんな弱音を吐いて恥ずかしくはないのかしら!」
「さっきから一流、一流ってその話ばっか!私は一流の貴族になりたい訳じゃないのッ!」
「ふんっ、人の上に立つ者としての責任感が無いのかしら?そのまま貴方は落ちこぼれになりたいのかしら!」
「うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!もうッ!早くどっかに行ってよッ!」
その言葉を聞いて流石に止めないといけないと思ったのか、セシリアさんが止めに入りドロテーア夫人に苦言を呈するが、ドロテーア夫人は鼻で笑い一蹴する。
「お嬢様ッ!……ドロテーア夫人、そのお言葉は流石に見て見ぬ振りをする事は出来ません。いくら講師の方と言えど……」
「ふんっ!教育に関しては公爵様から私が任されておりますの。ぼでぃちぇっくに関してはお嬢様の安全上従いましたが、今回に限っては教育の問題。その私に一介の使用人風情が苦言を申してくるなんて……ねぇ?」
セシリアさんは何も言い返す事ができなくなり黙り込んでしまう。それを横目に、ドロテーア夫人が言葉を発し続ける。
「そんな事より部屋の鍵でも持ってきなさいな。こうなっては仕方ないので中に入って無理やりにでも授業を始める事に致しますわ。私はこんな事で時間を取られていていいほど暇じゃないんですの」
……まぁこれ以上は見過ごせないか。そう思い行動を起こす。
「失礼、ドロテーア夫人、本日はお嬢様の体調が優れない様子。今日の所はお帰りくださいませ」
「あら、次は護衛の方かしら。先程も言った通りこれは教育、私の領分の話ですの。あなたが出て来る場所ではなくてよ」
勝ち誇った顔でドロテーア夫人が宣う。
「えぇ、それは承知しておりますが。こちらもお嬢様を守るのが仕事でして、今のあなたのやろうとしている事はお嬢様のお心を傷つける行為にしか私は見えないのですよ。ですので先程のお言葉を聞いて頂けないとなると、こちらもそれ相応の対応をせねばならんのです」
と腰にぶら下げた、護衛の為に借りたロングソードをポンポンと叩き、警告する。
するとその意味を理解したのかドロテーア夫人の顔を真っ青になり
「なっ……こっこの事は公爵様に報告させて頂きますからね!覚えてなさいよッ!」
と捨て台詞を吐いた後、そそくさと去って行った。
まるで小物の教本にでも乗っていそうな素晴らしい負け惜しみに関心しながらも、お嬢様のケアの為に脳をフル回転させる。
「ふむ……セシリアさん、お嬢様の部屋の鍵と出掛ける準備をお願いします。お嬢様を連れて街に遊びに行きましょう」
「あ、遊びにですか……?今のお嬢様だと逆効果なのでは……」
「勉強をした後は、しっかりと遊ぶ!楽しさの中にやりたい事が見つかるのです!まぁ要するに気分転換ですよ」
そう言ってアルマお嬢様ご機嫌計画が始動した。




