俺の知らない所で・・・
「ふぅ・・・これで依頼は完了っと・・・」
大柄な男は大量の薬草の束を運び終わり
いい汗をかいたと言わんばかりに額の汗を拭った。
「おーいばあさんこれでいいか確認してくれ 大丈夫そうならこの依頼書にサイン頼むよ」
老婆は片目を開きながらすこしおどろいた顔で
「おやまぁ・・・もう終わったのかい、ひぃ・・ふぅ・・みぃ・・よしよし大丈夫さね、あんたの仕事は丁寧でありがたいよ」
とほがらかに笑った。
それに対して男はすこし照れながら
「カカカッ褒めたってなんもでねぇよ、ばあさんも元気でな。ほんじゃ俺は失礼するぜ」
と男はお婆さんに背を向け手をひらひらと振りながら上機嫌で村の外に歩いて行った。
男の名前はダグラス、冒険者であり転生者でもある。
彼の前世はサラリーマンであった、なんの不自由もなく小中高と過ごし、友人関係も良好・・・恋愛事情には縁がなかったが、就職先も順調よく決まり大学を卒業・・・
しかしそのあとがあまりにもよくなかった。
人生がある程度順調だったせいで何も考えずに就活をしてしまったばっかりに、素晴らしくやりがいのある仕事・・・ブラック企業に勤めてしまった。
激務に次ぐ激務、待遇がよくなるわけでもなくこれが普通なのだという思い込み、大人なのだから我慢して逃げてはいけないという思い込み、その結果による過労死 享年27歳、自宅で眠るように逝った、短い人生であった。
そして神のイタズラかはたまた慈愛によるかはわからないが彼は異世界に転生した。
転生といっても無限の魔力や空間魔法、創造魔法といった希少魔法を持っているなんて事は無く、ましてや科学の知識や政治経済の知識を豊富にもっているというわけでもない。
彼に許された物は前世での記憶そして他人より力が強いといった物だった。
『しっかしこの世界にきてからもう24年も経つのか……強烈な眠気に襲われて寝て起きたら知らない場所・・しかも赤子になってた時はどうなるかと思ったが、一番最初に思ったのは死んじまったのか……なんて事より、遂に俺も異世界転生キタ!!チート!これで勝つる!って思ったっけな。まぁチートも高貴な身分もなかったが。前世の記憶と力が強いってだけでも十分感謝しねぇとな』
そんな事を思いながら晴れた青空の下、依頼書を冒険者組合にもって行く為、草原を歩いていくのであった。
§ § § § §
とある執務室にて厳格な男が座っている。
男の名前はオズウィン・バイゼル レプギリス王国の公爵家当主である。
「ふむ・・・どうしたものか・・・」
と男が真剣な顔で呟き悩みこんでいるので
「旦那様、どうかなされましたでしょうか」
と傍にいた老齢の執事が心配し問いかける。
「うむ・・いやなにアルマのことだ、あれも今年で六つになる。数年もすれば王都の学園に通うことになろう、故に専属のメイドと護衛をつけねばならぬと思ってな、しかしいきなり大勢を側につけるというのもアルマが混乱しかねん。故にメイドを一人 護衛は二人・・・いや・・護衛も一人でよいだろう」
「なるほど、しかし護衛ができる私兵となりますと、大体をご子息のヴァーレン様とレオン様につけております。なのでお嬢様の護衛をつけるとしても新兵になってしまうかと、メイドであれば……セシリアがおります教育係も兼任できるでしょう」
と老齢の執事セバスはほかに相応しい物がいたかと思慮を巡らせる。
「ふむ、専属メイドの話はセシリアでよいか……すると問題は護衛だ、新兵となるといささか不安が残るな。しかしどこぞの馬の骨に任す訳にもいくまい、どうしたものか……」
とセバスとオズウィンは頭を悩ませる。
そうしているとコンコンと扉をノックした音が響く。
「入れ」
当主がそう答えると、扉がガチャッ..と開きメイドが要件を伝える。
「失礼いたします。旦那様 王国騎士長のルーカス・ギリグレン様と副長アルフレッド・オルバス様がいらっしゃっております。お待ち頂いたほうがよろしいでしょうか」
『ふむ・・・丁度よいか・・・?騎士長の伝手ならばよくわからない輩はでてくるまい・・一応だが、ダメ元で一度聞いてみるか・・・』
と当主は一瞬考えこんだ後
「いやいい、すぐにここに連れてきてくれたまえ」
「かしこまりました」
返事をした後メイドはオズウィンに一礼し扉をパタン、と閉め、騎士長達を呼ぶ為にパタパタと早歩きで去って行った。
「セバス、騎士長の伝手で探そうと思うのだがどう思う」
「お嬢様の護衛ですか・・・たしかに騎士長の繋がりで言えば、おかしな輩が混ざり込む事はなさそうですが・・・優秀な者は騎士団で囲っているのでは?と思われます。ですので、優秀な手隙の者がいる確率は低いかと」
「ふむ……やはり優秀な者はどこでも不足しているか……だからといって我が娘のためだ、探さない訳にもいくまい?動かなければ得れぬのだ聞けるだけ聞いてみよう……」
かしこまりました。とセバスが返事を返したと同時に、先程のメイドが騎士団長と副長をつれて戻ってきた。
「旦那さま王国騎士長ルーカス様と副長アルフレッド様をお連れいたしました」
「うむ 入って来てくれたまえ」
と当主が答えると、扉の向こうから燃え盛る炎を彷彿とさせる髪色をした獅子のような壮年ルーカスと穏やかな笑みを浮かべ、長い白髪で三つ編みが印象的な青年アルフレッドが入室してきた。
そしてガシャンと音を立て胸に拳を当て報告を始めた。
「失礼致します!!王国騎士長ルーカス・キリグレン及び副長アルフレッド・オルバス、此度のバルク盗賊団討伐及び首領バルク・シュタイナーの捕縛が完了しました事をここに報告させていただきます」
「ご苦労であった。我々の私兵だけで解決できればよかったのだが、何分人手不足でな・・・此度の件感謝している」
当主が礼を言うと騎士長の横にいた副長が微笑を浮かべ礼をしながら
「いえ、王国の民を守るが我らが使命 民の笑顔と平和がなによりの報酬でございます」
と、これぞ騎士という100点満点の答えを間髪入れずに返してきたので、当主オズウィンも思わずほう・・と声が出てしまった。
「それでは公爵これにて我々は引き上げさせて頂きます」
と言ってルーカス達が帰ろうとすると公爵が呼び止める
「あぁ、少しまってくれんかルーカス殿、相談事になるのだが、私の娘がもうすぐ6歳になるのでな護衛をつけようと思っている。しかしつけようにも人がいない状態でな、これ以上衛兵などから引き抜くとなると、治安維持その他業務にも支障がでるやもしれん……故に団長殿の伝手で腕の立つ者はいないだろうか?よければ紹介してほしいのだが」
「ふむ・・・腕の立つ者ですか・・何分このご時世有望なものはどこもかしこも喉から手が出る程ほしい。我々も随時探しているのですが中々見つからないといった具合でして……申し訳ございません」
『ふむ・・やはりそう簡単にはいくまいか』と領主は思い
「ルーカス殿呼び止めて悪かった、感謝する」と言いかけた所でルーカスが何かを思い出したのか
隣にいたアルフレッドに声を掛ける
「アルフレッドよ たしか貴様の知り合いに腕の立つ者がいると言っておらんかったか、幼き頃からの友だと言う。名はダグラスだったか」
「えぇ、しかし彼はその……なんというか……変わり者というか何というか、もちろんいい奴ではあるのですが、私が騎士団の試験を受ける時に彼を誘ったのですが、俺は自由に生きると言って冒険者になってしまいましたので……礼儀や作法といった面で不安があるかと……」
とアルフレッドはすこし困ったような顔をして言った。
その話を聞いた当主はすこし考え真剣な顔で
「ふむ・・・王国騎士団に最年少で入団し瞬く間に駆け上がり、副長となったアルフレッド殿が一目置く存在というのならば素晴らしい御仁なのだろう、しかし我々はその者を知らない。故に友人という立場を抜きにしてその物の腕前と人となりを教えてほしい」
「えぇ、かしこまりました」とアルフレッドは微笑みながら、昔の事を思い出しながらダグラスの事を話すのであった。