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正義の味方になったわけ

正義の味方になるのを受け入れた時点で誰かを守りたい人なんですよね。

 きっかけは中学を卒業してすぐだった。


「今から帰るけど。何か買ってきた方がいいものある?」

 卒業のお祝いにと友達数人で遊びに行く事になった帰り。いつ帰るかと心配かけないように携帯で連絡をしている途中だった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 さっき別れたばかりの友達の一人の悲鳴が聞こえて通話を切って走り出す。


「久美ちゃん!!」

 友達の名前を呼ぶとそこには………。


 ねばねばねば

「ひゃはは。新しい獲物が来たぞ」

 ねばねばとした物体が久美の身体を包んで捕らえている。


 そのねばねばの側にはねばねばとした蛙のような奇妙な生き物が地面から上半身だけ出している。


「……………」

「どうした。怖くて声も出ないか」

 ひゃはは

 そいつが久美を捕らえたまま脅かすように告げる。


「………ちゃんを」

「んっ? どうした?」

「久美ちゃんを離しなさいよ!! この変態蛙!!」

 想いっきり蹴飛ばした。


 そう蹴飛ばしたのだ。


 下半身を沈んでいたはずのそいつは蹴られた事ですっぽりと身体抜けて近くの看板にぶつかった。


「閃光戦隊プリズムファイブ!! 参上!!」

 と四人しかいないファイブと名乗っているコスプレ集団が来た時には変態ガエルは看板に叩きつけられて、どこからともなくとってきた消火栓の中にある薬品を掛けられて降参していた。


「えっと……」

 プリズムレッドが困惑しているがお構いなしで。


「久美ちゃん。大丈夫!!」

 と友達を助け出して友情を高め合っているという感動的なシーンを行っていたのであった。


「えっと、君。正義の味方興味ある?」

 呆然としているレッドを無視して一番最初に現実に帰ってきたイエローがスカウトした結果。こうなった。


(まあ、久美ちゃんにあんな記憶を残さないようにしてくれると言われたから後日話を聞きに行ったのだけど)

 給料もいい。福祉厚生もしっかりしている。保険もある。勤務時間も残業の場合手当も出るとの事で高校になったらバイトを探そうと思っていたからちょうどいい条件だしという事でバイトをする事になったのだけど。


「正義の味方ってどうしてここまで自分の事顧みないんだろうね」

 居間では咲良と亮太がテレビに釘付けだ。


「がんばれ~!!」

「負けるな~!!」

 応援しているところは微笑ましい。

 

 微笑ましいが、その後あんなに頑張って戦って平和を守ったヒーローが変身を解くとどこで何をやっていたのかと叱られる。


(理不尽だ)

 正体をばらしてはいけないというけど、大怪我をして、人を守ったのに正体を知らないからこそ責め立てられる。


 本当に理不尽だ。


「お兄ちゃんの事?」

 紅葉が薄い本を読みながら口を挟んでくる。

「確かにレッドって兄さんにそっくりだね」

 やる事なす事。


「私からすればお姉ちゃんもヒーローだけど」

「んっ?」

 どこが?

 というか確かにバイトはしているから間違っていないけど。


「だって、お姉ちゃんは地球のために戦ったヒーローを守る人がいないから怒っているんでしょう」

 分かりやすい守る方法って、なんだかんだお金だしね。


「ヒーローは滅私奉公。でもそのヒーローを誰が守るのか。そして、何よりも」

 そっと顔をあげる。


「いくら怪我をしないように守っていても心の傷を守っていない。でしょ」

 無理をして助けて、それで誰かの心を傷つけるのを許せない。


「まあ、確かにそうだよね。ヒーローが無茶をして大怪我をして、事情を知らない家族からしたらどうしてこんなに怪我をするのかと不安だし、心配だよね」

 それで家族を守ったと言えないよね。


「ボランティアで出来る事じゃないよね。実際に」

 危険すぎるし。


「まあ、お金がないと生活も出来ないしね。趣味も堪能できない。でも、お姉ちゃんは自分のためじゃないでしょう」

 じっと見つめられて。


「バイトに興味あったと言っていたけど、家族を守るにはお金が必要。それが決定打でしょう」

 バイトを始めたのは。


「兄さんは大学とバイトの両立は出来ないけど、お姉ちゃんは切り替えできるし。不安はないからいいけど、まあ、無理をしないでね」

「無理しないわよ」

 無理しても守れるものはない。


 確かに無理をしてては届くものがあるかもしれない。でも、その先は。

 無理して怪我をして、悲しませたら誰も守れない。



『おとうさぁぁぁぁぁぁん!!』

 泣いている友達がいた。


『溺れた子供を助けようとしたんだ』

『で、子供を助けたのに本人が』

『奥さん若いのに』

 ひそひそと話をするのをずっと傍で聞いていた。


『ここ遊泳禁止だっただろう』

『ああ。なんでも子供の宝物が海に落ちたとかで』

 子供の頭の上である事ない事話しがされる。


 友達は……いや、彼女からすれば友達などと言ってもらいたくないかもしれない。 


 彼女は虐められていた。

 その日も虐められていて、父の日にプレゼントをする作品を幼稚園で作ってそれを持って帰っている途中で男の子達に奪われたのだ。


 揶揄われて、泣いて取り戻そうとするのを嘲笑うように川に投げたのだ。


 それを取り戻そうとして飛び込んで溺れて、その子を助けようとして、その子のお父さんは亡くなった。


 飛び込むのを止めていれば。

 飛び込まないで取りに行く方法を考えてあげてれば。


 何よりもその虐める男の子達をさっさと止めていれば。


 その子がひっそりと転校したのはその数日後。

 私は何も出来なかった。


 あの子は命を救われたけど、自分が父親を殺してしまったと責め続けていた。 


「……………あの子は今どうしているかな」

 ぼそっ

「お姉ちゃん?」

「なんでもない」

 不思議そうに尋ねる紅葉に気にしなくていいと首を横に振る。


 滅私奉公とか誰かのために自分はどうなっても構わないとは言えない。正義の味方としては失格だけど。


 心を守れる人になりたい。

 それは譲れない一線だ。


 そんな自分でもいいのなら。


 正義の味方をしてみようと思ったのだ。




心を守ってほしい。うん。

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