不真面目な正義の味方
実は別の作品と繋がっている
いつも思う。
「プリズムチャージ!!」
手を空に高々に伸ばして叫ぶ。
「プリズムピンクチェンジ!!」
左手に嵌めた腕輪が音声に反応して、光り輝く。
『プリズムピンク確認しました』
腕輪から機械音声がしたと思ったら身体のシルエットがバレバレなコスチュームに身を包んで。
「地球の悲鳴が聞こえている。愛する地球を守る者!! 閃光戦隊プリズムピンク。悪い宇宙人を片付けちゃうわよっ♡」
ウィンク
決めポーズをしながら冷静な自分は考える。
なんでこんな事をしているのだろうと。
無事今日も異星人を退治できた。
「ふぅ」
「お疲れだな。ピンク!! お前の熱いハートを感じたぞ!! どうだ俺と一緒に!!」
「お疲れさまでした。では、失礼しま~す」
先輩の赤坂が誘いをかけてくるがスルーしてタイムカードを押す。
「ピンク。付き合い悪いぞ!! 同じ戦隊なんだからもっと交流をな……」
「赤坂先輩の話は”正義のヒーローは滅私奉公だろう。お給料とか気にするのはどういうことだ”というお言葉ばかりですよね」
「当然だ!!」
何を言っていると自分の言葉が正しいとばかりのその態度に苛立ちが生まれる。
「滅私奉公で自分を蔑ろにしてどうするんですか。まず自分。次に家族でしょう。綺麗ごとでは守れるものも守れませんよ」
お先に失礼しま~す。
頭を下げて、某スポーツスタジアムの地下にある秘密基地から出る。
「さて」
時計を取り出して時間を確認する。
「次の電車には……走らないと間に合わないな」
余計な時間をロスしたと文句を言いながら駅に向かって走っていく。
何とか電車に無事に乗れたので空いている席に座ってぼんやりと流れる景色を見詰める。
明かりの灯されたたくさんの家。
そこには当たり前のように平和を謳歌している人がいて、家族と幸せな時間を過ごしている。
それが守れた事にいつも安堵する。それがいつもの日課。
(でも、あの変身と衣装がな……)
何とかならないのか。
きっかけこそ巻き込まれただけなのだが、破格の時給と保険。残業手当なのでこのバイトを引き受けたのだ。文句を言うのは間違っているが。
恥ずかしいものは恥ずかしい。
「………そのうち慣れるのかな」
動きを阻害しない意味では性能がいいのは理解しているのだが。
そんな事を思いつつ最寄り駅に着く。駅から自転車で15分の所に私――八千草桃香の家はある。
「ただいま」
からからから
「「「「「おかえり~!!」」」」」
迎えてくれるのは五人の弟と妹。
「兄さんは?」
「まだ大学~」
「卒論の資料を図書館で探すからってさ」
大変だよな~。
「そっか」
じゃあ、閉館ぎりぎりまで図書館で粘るな。
幼い子供がいる家で遅くまでレポートをまとめて起こしてしまわないようにといつも気にかけているからね。
八千草家は親、親戚みんな大家族になる。
代々そんな大家族になるのはもはや遺伝のレベルだろう。三人兄弟で終わるところもあるが、五人を軽く超える。我が家は七人兄弟だ。
動物とかでは子供をたくさん産むのは子供が大人に育ちにくいからだと教わったけど、八千草家ではみんな健康で病気で早死にという事もない。どっちかと言えば体力自慢な家柄だとか。
(戦時中は特殊な任務に駆り出されたとか聞いた事あるけど、それでも生き残って五体満足だったというのはもう化け物級よね)
まあ、そんな八千草家のDNAは見事に受け継がれているわけだけど。
普通に稼いでくれて慎ましい暮らしをしていても必要経費というものを考えると結構カツカツだ。兄さんは大学進学を諦めて高卒で働こうとしたのを止めた。
今時、高卒で出来る仕事は限られているし、給料も僅かなものだ。家業の印刷会社を継ぐという選択もあるけど、あれは次女の紅葉が継ぐと宣言している。
(兄さんにはあれは無理でしょう。和人もトラウマを与えられたし)
うちの印刷会社で一番多い仕事は夏の祭典と冬の祭典だ。あとは分かるな。
未だに和人は夜中に『触手が』とか『動物は勘弁してくれ!!』と魘されているのだから。
兄さんは変なところで常識人だからその手の仕事はやってけないのは妹である自分がよく知っている。
つまり高卒で働く利点はないのでそれくらいなら奨学金で大学に進んで、いい仕事をして家に入れてくれた方がいいと説明したのだ。だからこそ、兄さんは四年で卒業していい仕事を探しているのだ。
もちろん給料がいいだけでいい仕事とは言わないのできちんと吟味してもらうけど。
いい給料だというだけでブラックの職場に勤めて病気になったら損をするのはこっちだ。大事なのは自分だ。自分が無事でない限り家族を守れないし、家族を守れないものに世界を守れると思っているのだろうか。
『正義の味方は滅私奉公で……』
あの人は何を言っているのやら。
自分を殺してまで守れるものなどない。それで手に入るのは自己満足であって、家族を悲しませるだけだ。
「なんでこんな私が正義の味方をしているのだろう」
ただの偶然。
巻き込まれただけなのに。




