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8.変わろうと思えば変われるもんだ

 教会で子供達から貰った野菜を鍋にぶち込んだスープを作る、貰った余り物のパンを取り出し、ようやく夕食にありつけた。

「何か味薄いな」

 クララが私の作った野菜スープに文句を言いながら勝手に食べている。

「せめて魚ぐらい入れろよ」

 ヨヒムが勝手に自分の分だけアレンジする。


 コイツら何で人の夕飯を勝手に食べてんだ?


 何か腑に落ちないが・・・まあ、大量に作ったからどっちにしても食べきれないから良いんだけどね。

「それで、その指輪はどうするんだよ」

 クララに聞かれる、確かにどうしたらいいんだ?

「うーん、まあ、危害がなければこのままでも良いけど・・」


(え!?いいの?)


 私の言葉が意外だったのか、指輪は驚きが隠せない様子だ。

「10年近く棚の奥に放置した負い目があるから、とりあえずは良いけど。やっぱり将来的は何とかしないとダメだよな」

 本来なら自分の体に戻してやりたいけど、もし指輪が本当にフランシソアなら、今の私はド平民だから王都なんて行けないし行きたくもない。


(うん・・・私も身の振りを考えとくよ)

 最初の頃に比べたら大分会話ができるようになった、存在自体非常識だけど、話すとマトモな人格だというのが分かってきた。

(ただ、さっき詐欺神がきっかけをくれてやるとか言ってたから、何かちょっかいをかけてきそうだよね)

 確かに去り際に何か言っていたな、正直言って騒動に巻き込まれるのは勘弁してほしい。


「あの時、やたらとその指輪に執着してたよな、借金してまで買った理由はそれなんかな?」

 ヨヒムが酒を持ってきてグラスに注いで飲み始める、ついでに私の分も持って来て注がれる。さっきの夕飯のお返しだろう。

「あの時は、絶対にこれを買わないといけないって思ってたんだよな・・・今思えば不思議だ」

(あの詐欺神が何かやったんじゃない?)

 それはあり得るな、だったらタダでくれれば良いのに。本当に性格が悪い奴だ!


 夕飯を食べて酒を飲んで良い感じで酔いが回ってきた。

「さてと、明日は加工場だからそろそろ寝るかな」

 明日のために休もうと立ち上がるとすでにボトル瓶を一本空けたのに平然としているヨヒムが何やら驚いた表情をしている。

「お前、あそこまだ続けているのか?」


 ああ、驚いたのはそこか。


「当たり前だ、1番最初に仕事をさせてくれた場所だぞ。向こうから来るなと言われるまで行くさ」

 右も左も分からない、何もできない私を雇ってくれた数少ない職場だ。

 バイトだけどすでに10年も働いている、家族経営の工場だから正規雇用は難しいけど暖かみのある職場だから気に入っている。

「明日は交易センターは仕事入ってないでしょ?」

 私と同様に良い感じに酔っ払っているクララに尋ねる、

「何かあったら連絡入れるよ、ネッサや婆ちゃんズによろしく言っておいてな」

 手をヒラヒラさせて了承を得る。


 クララは元家出娘だ。どこかの商家に丁稚奉公させられだが、酷い目にあわされて逃げ出して来たのを偶然私達が拾った。

 その頃のクララは何も手に職がなく、稼ぐツテが無いので一時期私と一緒に魚の加工場で働いていた過去がある。

 その頃のクララに私が勉強を教えたが、まさか交易センターに就職出来るとは思わなかった。

 交易センターに就職した時は置いてかれた感じで凹んだなぁ。でも頑張って勉強をしていたのを知っていたので、悔しいという感情は少なかったと思う。


(貴女、まだ別に働いていたの?)

 指輪が呆れた様子で聞いてくる、

「全部バイトだよ、食べる為には働かないといけないだろ、何をするのにもお金がいるんだから」


 貴族令嬢時代では考えたことがなかった。

 パンを食べるのにお金がいる、お茶を飲むのもお金がいる、本当に当たり前の事だ。


 ただ最近になって発見したことがある。

 今日のように野菜やパン、服をタダで貰ったように見えけど本当はタダじゃなかったりする。

 自覚してなかったが、私は子供達に勉強を教えるという対価を知らないうちに渡しており、知らないうちに感謝をされ、追加で報酬を受ける立場にいたという事だ。


 令嬢時代は本当に気にもしなかった。服は従者が用意してくれて、お茶も勝手に出てくる、それが普通であって礼や感謝などしてこなかった。まあ、対価として給料を支払っているから成り立っているんだけど。

 今思えば、感謝の気持ちは言うべきだったと後悔はしている。

 一緒に喜んで、笑って、私の癇癪にも黙って耐えてくれて、一緒に悲しんでくれていた、本当にかけがえのないものだった。

 もうお礼を言う機会は無いけど、彼らが幸せである事を祈ることしかできないよ。


「さあて、寝るかな」

 椅子から立ってひと伸びをする。2人と別れて洗い場に行ってお湯を沸かす。

 寝る前には体を洗っておく、これは間違いなく貴族令嬢時代の名残りだ。

 さすがに平民に浴室なんて無理だけど、最低限のエチケットで毎日は無理でも二日に一回は体を洗うようにしている。


 改めて鏡に映る自分の裸体を見る。


 無駄な贅肉はなく、逆に筋肉がついたと思う。

 胸は・・・昔から大きくなかったので気にしない。逆に痩せているので、どんな服でも着れるのはありがたいと思う。


 昔みたいに無理やりコルセットで腹部をより細く見せる必要も無くなった。少しでもグラマラスに見せるために、胸を寄せて上げてパットで盛るという見栄を張る必要もない、体型の劣等感を抱く事も無くなり気分的には楽になったな。

 顔は・・・正直言って老けたと思う。自慢だった白い肌も健康的に日焼けしているし、みんなが羨んだ長く美しいストレートの金髪も、今では短く肩ぐらいで揃えている。


 人間は変わろうと思えば変われるもんだと、今の変わり映えに何故か笑みがこぼれてきた。



読んで頂きありがとうございます。

今後は「精霊女王と呼ばれた私の異世界譚」と同時に進行する予定なので、次話の投稿は土曜日になると思います。

投稿時間だけ16時と19時にズラそうと思ってます。良かったら両方とも読んでもらえたら嬉しいです。


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