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3.元々は世間知らずの箱入り娘なんです。

『ふふふ、麗しい通訳さん。以前どこかでお会いした事がありませんか?よろしかったら、今晩お食事でもしながら一緒に思い出しましょう』

 以前に出会っていたか・・ナンパの誘い文句の定番だな・・・

 贈り物+ディナーか、悪くない取引だ。


 ボグッ!

「ぐふぅっ!!」


 何者かに後ろから脇腹を殴られた!?

 後ろを見ると物凄く怖い顔をしたクララが私の脇腹に拳をめり込ませている。

「おい、前みたいに変な宝石買わされて借金作るつもりか?」


・・・痛いところを突かれる、そして実際に脇腹も痛い!


「交易センター職員のナンパは禁止だと言え。何か言われたらお前らとの取引きを停止すると言え!」

 私は職員ではない・・・と反論をしたら脇腹だけでは済まないかもしれない。

『申し訳ない・・・ってあれ?」

 振り返ってナンパで陽気なウォルテア商団の代表者の方を向く、だがこの尋常ではない空気を察したのか、すでに姿はなく逃げ去った跡だった。

「ふん、根性なしが」

 クララが鼻を鳴らして腕組みする、何か私だけ殴られ損な気がする。


 何か納得できないが、本当の事なので言い返せない。クララに言われた通り、私はかなりの借金を抱えている。

 随分と前になるが、さっきみたいに外国の男性に言い寄られた。その時に高価な装飾品を借金までして買わされた苦い過去がある。

 ただ言い訳をさせてもらうと、その頃は貴族だった頃の名残が残っていて、騙された事もお金の価値も分かっていなかった。

 本当にあの頃に戻って一言だけ言いたい。


 金を借りる場所は考えようって。


 まあ、問題はそこじゃないとヨヒムとクララに怒られたけど未だにその理由は分かっていない。


 結局、借金はヨヒムに肩代わりしてもらった。ヤツは私の全財産を海の藻屑にしてしまった罪があるので快く肩代わりしてくれたよ。

 だけど金は貸してやるから返せと言われた。なので現在も絶賛返却中だ。

 まあ、それが正しいかどうか分からないが、寝る場所を提供してくれるから文句は言えない。


「つーか、早く帰れよ!もうすぐ開店するぞ!」

 クララは本当に口が悪い。足蹴にされてトボトボと帰路につくことにする。

 お店はすでに開店しており、店の中はかなり賑わっていた。ヨヒムが私を見つけると無言で私に目くばせする、これは早くしろという合図だ・・・急いでエプロンを着けてホールに出る、途端に容赦なく酔っ払い共が私を呼び立てる。


・・・今日の混雑はヤバいかもしれない。




「ねえ、明日は朝から教会学校だからさ、もう上がらせてよ」

 すでに5時間は立ちっぱなしで注文を取り、酒と料理を運んでいる。

 いつも一人で切り盛りするヨヒムの超人ぷりに驚いていたが、さすがにこれだけの客は捌ききれなかったようだ。連日私に手伝えと頼むのも納得がいく。

 だけど明日は朝イチでの仕事だ、深夜まで働くのは体力的にキツい。

「ああ、いいぞ上がってくれ。私も疲れたからもう店閉める」

 ようやく客がまばらになり、ヨヒムは常連の酔っ払いだけになったのを見計らって看板を下ろした。

 そして自分も酒をグラスに注いで飲み始めた。さすがの超人ヨヒムも疲れてしまったようだ。


「これ、クララから」

「おっ、サンキュ!」

 交易センターでクララから渡されたメモをようやく渡せれた。ヨヒムは酒を飲みながらメモに目を通している、

「んじゃ、私は寝るからな」

「ん、お疲れ」

 せめてこっちを向いて言えよ!と心の中で思いつつ、言い返すと反撃が怖いのでさっさと自分の部屋に戻る。

 自分で作った遅めの晩御飯を食べる。ここに来た当初は何も出来なかった、その時と比べたら料理の腕も随分と成長したものだと実感する。10年も経てば色々と出来るようになるもんだ。


 遅めの晩ご飯を食べ終え、ベッドで横になっていると、ふと昼間のクララとのやりとりを思い出す。

 私が騙されて買わされた指輪。金に変えずにまだ持っていたはず。

 自室の棚を漁ると豪勢な指輪のケースを見つけた。久しぶりにケースを開けてみる、偽物と鑑定された美しい緑色のパールの指輪が鎮座している。偽物と鑑定され、見るのも嫌になって見ないように蓋を閉じていたけど・・・

「うーん、やっぱり偽物とは思えないんだよなぁ」

 思い立って指にはめてみる・・・あれ?普通にスッポリと入るんだけど?

 買ったものの一回もはめずにいた、それがまるでサイズを合わせたようにジャストフィットする。




(ねえ!そこの貴女、もしかして私の声が聞こえる?お願い聞こえるなら答えて!!)


 うん?妖精さんが囁いているのかな?


 今日は疲れすぎたようだ、女の声の幻聴が聞こえる。

(ちょっと、明らかに聞こえているでしょ!反応してるのこっちから丸見えよ!!)

 は?見られている?キョロキョロと周りを見渡す、どうやらヨヒムの悪戯ではないようだ。

(ここよ、ここ!指輪の中!!)

・・・指輪の中?鮮やかな緑色の真珠にしか見えないぞ?


 もしかして呪いの指輪なのか!?


 やっぱ騙された!こんな物すぐに売って金に変えてやる!!

 とにかく外そうと指輪に手をかける、


(くそ!外させるもんか!!)

「くそ!指輪が抵抗するな!!」


 すごい力で指にジャストフィットする。どんどん締め付けがキツくなっていく。

(話を聞いてくれるまで離さない!!)

 な、なんて地雷女なんだ!私は粘着より淡白な方が好きなのに!!というか締め付けがキツくて薬指が紫色に変色してきた。


「わ、分かったから、話だけは聞いてあげるから、締め付けるのを止めて?ね?」


・・・もう・・・私の人生は負けてばっかりだ。

 

 そして私は今日、とうとう謎の喋る指輪に負けてしまった。

(な、なんでそんなに凹んでいるの?)

 ついに指輪にまで慰められてしまった、ここまで堕ちてしまえばもう笑うしかない。


(ちょ、泣きながら笑わないでよ)





明日も同時刻に投稿します。

良かったら読んでみて下さい。

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