説得と仲間と酒と‥‥
私の飲みの誘いにジョゼは戸惑いながらも了承し、私たちは今、『ゴールダスト』と呼ばれる酒場で一緒にお酒を飲んでいる。テーブル席が多く、宴会するにはうってつけのいい店である。ちなみに今日初めて見つけた。
改めて自己紹介してくれた。ジョゼのフルネームはジョゼ・ディラショーというらしく、18歳の職業剣士らしい。故郷はここから少し離れた貧しい村出身で大金を稼ぎたくてこの町にやってきたというのだ。ジョゼは5人兄弟の長男らしく、父親がおらず、母親によって育てられたのだが、2年前に母親が難病にかかってしまったようで莫大な治療代がいるというのだ。
そして現在ジョゼには1500万の借金があるという。つまり彼も借金持ちで現在苦しんでいるというのだ。
「今、2番目の弟が違う会社で奴隷にされている。俺はそれを救いたい。だからこの街に来て一獲千金を狙いに行った。しかし、母親の治療代や生活費だけで何もしなくても借金が増えてしまう。だから俺はお金がとにかく必要なんだ。」
この人なんていい人。涙が出てきそうだわ。家族のために体を削りながら働く人は好きよ。
「さっきまで俺がいたグループは腕が経つ冒険者ではあるが都会からやってきたお坊ちゃん冒険者のパーティーだったんだよ。だから考え方が甘いし、全然仕事をしない。遊び感覚で来てお金を手に入れられたらいいなみたいな感覚で行くから全然合わなかったんだ。全然仕事しないくせにお金だけは持っていこうとするんだよ。それにムカついて喧嘩してしまい、さっき抜けたんだよ。」
「なるほど、だからさっきまだあんなに喧嘩していたんだ。」
「といった感じだ。っでだ、なんで俺に話しかけてきたんだ?」
「簡単な話よ、私、あなたをスカウトしに来たのよ。」
「スカウト?」
「そう、今日の昼さ、私一人であの採掘場の中に入ったんだよね。そしたらひどい目に合っちゃってさ。死にかけたんだよ。だから仲間を募集しているのよ。」
「えっ、ちょっ、お前、マジか。あそこに一人で入ったのか?よく死ななかったな。」
ジョゼが素っ頓狂な声を出して驚いた。やっぱりあそこに一人で入るのって危険な行為だったのね。でもどうして私受付嬢に止められなかったのだろう?
「お前、奴隷の首輪をつけているからさ、絶対自殺しに行くと思われたんだろな。」
「別に私死ぬ気なんてないわ。腕試しで入ってだけよ。そしたら死にかけたからさ、やっぱり仲間がいると思って今仲間集めに奔走しているの。」
「俺を仲間にするのか?俺としてはいく当てがないからいいが、……お前、奴隷ってことは借金持ちってことだな。いくらあるんだ?」
「6億。」
「……っはぁ?」
一瞬沈黙してから急に驚いた声をまた出した。だって私だってその金額は受け入れていないんだもん。ジョゼはグラスを持ったまま硬直していたが、やがてグラスをテーブルの上において財布を取り出して、笑顔でこう言ってきた。
「じゃ、俺がおごってやるからさ。今日の話はなかったことに。」
「ちょっと待って逃がさないわよ!」
私はそのまま立ち上がって逃げようとするジョゼを捕まえた。逃がすわけないじゃない。この街で恐らく最高金額の借金している私に失うものなんてない。同じ借金持ちで、家族思いで、成り上がりたいという意思を感じる人なんだから絶対に逃がさない。私は酒場で人がたくさんいるけど、そんなのお構いないし、抱き着いて泣いた。
「お願いよ。私を捨てないで。私、頑張るから。あなたのために頑張るから。」
「おい、人聞きの悪いこと言うんじゃねぇ。周りがみんな見ているぞ。おいくっ付くな、離れろ。」
周りが痴話喧嘩かと注目をしだして私たちの席を見始めた。このままいけば泣き落としができる。私はジョゼに泣きついて説得しにかかった。
「お願い。頑張るから私を捨てないで。」
「ちょっと、待て。お前。一回離れてくれ。」
「おい、あいつ。さっき喧嘩していたやつだな。」「女まで泣かすのか、あいつ。」「あいつ、最低じゃねーか。」「ここでも騒ぐのかあいつ。」
周りがざわつきだし、全員がジョゼを冷たい目で見ている。だんだんジョゼの覇気がなくなってきて抱き着かれている私にオロオロし始めた。
「私を捨てないでよ。ジョゼ!」
「分かった!分かったから、離れてくれ。」
説得に成功した。私ってやるね。
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「お前、結構苦労したんだな。」
あの後ジョゼは嫌々ながらも私と仲間になってくれることに了承してくれた。席に座ったときに私の首を切り落とすんじゃないかと思わせるくらいのさっきで私をにらんでは来たが、とりあえず説得はできた。
で、どうしてそんなバカみたいな借金ができたのかを説明してほしいということになり、私は自分の生い立ちから現在に至るまでの話をした。私がもともとは貴族だったということ、没落してからの日々、そして奴隷にされてしまったことを。お酒が進み私の話がクライマックスに近づくにつれ、私の声はどんどん大きくなっていたようだ。そして私が話し終えたときにジョゼは先ほどの一言を言ってくれた。すると周りから、
「お前、なんて人生を。」「すごい、お前の人生、すごい。」「感動した、頑張れよ。」「お前が成り上がるのを期待しているぜ。」「頑張ってくれ、応援しているぞ。」
お酒の入った周りの冒険者や労働者たちにも聞こえていたらしく、私の話が終わったとたん、全員が一斉に私に励ましの言葉を送ってくれたのだ。こんなあったかい言葉を送ってくれたら私はもう、泣くしかないでしょ!
「みんなありがと~~~~~う。私頑張るよ!!ジョゼと一緒に頑張るよ!!私は彼とともに未来を歩んでいきます!!」
「ちょっと、お前、何言って!」
「ジョゼ!頑張れよ!」「ハーニャちゃんを幸せにしてやれよ!」「男を見せる時だぞ。ジョゼ!」
「二人で頑張れよ。」
「なんで結婚したみたいになってんだよ。お前ら、落ち着け!」
なんでジョゼが起こっているのかはわからないけど、わたしはここにいる人々からエールをもらった。だから頑張れるような気がしていた。頑張ろう!私は成り上がれる気がしてきた。
「よっし!今日は飲むぞ!」
「「「おおおお~~~~!!!」」」
そういって私はここにいる全員と乾杯をして、急に宴会を始めた。私は平民時代に気付き上げた酒に対する耐性だけは群を抜いている。きつい酒を一気飲みしたりして、馬鹿騒ぎをして楽しんだ。ジョゼが何やら頭を抱えたりして楽しんでいないような気がするけど、気のせいだよね。この街に来て2日目だけどなんだか楽しい。頑張っていける気がする!
ちなみに会計はジョゼと私の財産を足しても足りなかったので借金がまた増えました。あたしって超馬鹿!
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