女王の仕事
街歩きをした翌日。
……前日業務が滞っていたこともあって、幾つもの報告書類と決裁書類が私のもとに舞い込んでいた。
「余の権限を各省長に委譲していく件、どうなった?」
「その件については、昨日法務省より整理が纏まったとの報告がございました。内容を確認したところ、今の陛下の決定権限を各省長に振り分ける一方、陛下はその決定を否認することができるというのが大まかな仕組みです。細かい点は明日、陛下に法務省長より奏上致します」
カリカリと書類にサインをしながら、同時に口を動かす。
……これで、サイン関係の書類は全て終わった。
「……そう言えば、スレイド侯爵家の者たちが領地に帰ったな。今回は、いつもより随分と早い」
ふと、先日改めて設けられた会談の場を思い出して呟く。
五大侯爵家が領地に帰る際には、大抵王族に挨拶をしてから帰るのが習わしだ。
「確かにそうですね」
「領地を思ってのことと捉えるべきか、本拠地を長く空けられない程に後ろ暗いことに手を染めていると解釈すべきか……まあ、後者だな」
私は報告書類の山から、一枚取り出す。
「……ラダフォード侯爵領の穀物の出来高は昨年比上がっているが、ベックフォード侯爵家の出来高は下がっているのか。この出来高報告は、監査をさせたものなのか?」
そして、その書類に関しての質問をギルバートに投げかけた。
「はい。それは間違いありません。……その問題の根本的な原因は、ベックフォード侯爵領の税率かと。あの税率では、生産者が税を払えないと土地を捨てることも仕方ないですから」
「うむ……税率は、各領主が定められることとなっているからなあ……」
「はい。現時点で領政に関しては、領主が絶対。陛下を含めこの王宮から、領主が決定したことを覆す権限はございません」
「まあ、それはいずれ変えていく必要があるな」
「と言うより、ラダフォード侯爵領のように王宮の直轄地になれば、その手の悩みは全て解決しますが」
「それも、そうだな。……ならば、近い内に解決するな」
「そういえば、その件で一つ報告が。……農作地を捨てた者たちはどうやら、ベックフォード侯爵領を出て、旧ラダフォード侯爵領に移住しているようです。陛下の直轄地となってから、随分税率を見直しましたお陰と言うべきでしょうか」
「と言うよりも、奴らの怠慢のお陰ではないか?……しかし、このまま移住する者が増えたら、税収を維持する為に更にベックフォード侯爵は税率を上げるのではないか?」
「ですがそうしてしまうと、更に移住する者が増え、それに対抗するように税率を上げて……という負のスパイラルに陥ります」
「トミーの報告によると、ベックフォード侯爵は今の収入さえ保てれば領民がどうなろうとも良いと考えそうな男なのだと」
「カールとか言う有能な側近もいるらしいのですが……」
カールという言葉に、傍で控えていたアニータがピクリと反応していた。
「……まあ、いざとなれば彼はその泥船から逃げ出せば良いだけの話ですからね。そこまで有能であれば、逃げた後暫く金には困らないよう算段はしているでしょうし。陛下の懸念は尤もかと」
「逃げられたら、ダメじゃないか!すぐに、カールを捕まえよう!」
ついに我慢ができなくなったのか、アニータが口を挟む。
「……アニータ。其方の懸念は尤もだ。だが、少し落ち着け」
けれども、アニータは不満げな様子を隠さない。
「良いか?其方にとって最も重要なのは?」
「子どもたちの救出」
「そうだ。それと共に、新たな被害者を出さぬよう攫った元凶を叩き潰すこと」
「だから、カールを……」
「だが、カールも所詮は駒の一つでしかない。その背後にはベックフォード侯爵家だけでなくスレイド侯爵家とウェストン侯爵家もいる。……カールを捕縛している間に、この三家が同時に動いてしまえば、余も危うい」
「でも、じゃあ……」
「勿論、カールを逃す気はない。その為に奴には見張りを付けている」
「そ……そっか」
「余としても、早く子ども達を助け出したいし、そいつらを叩き潰したい。だが、その方法が重要なのだ。奴らを取り逃さぬよう、そして子ども達も含めなるべく被害を小さくするために……皆が全力で情報や証拠を集めている」
「……わ、分かりました」




