女王は潜入する3
「……余の名は、ルクセリア・フォン・アスカリード。この国、アスカリード連邦国の当代王。……この宝剣は、その証」
誰もが驚愕に目を見開き、体を震わせていた。
「余の魔法を使えば……この宝剣を使えば、余は其方たちの意思など関係なく聞き出すことができた。けれどもそうしなかったのは、其方たち自身の言葉を、確りとこの耳で聞きたかった故。余はこの場で嘘を言っていないことを、この宝剣に誓おう」
そう言いつつ、誠実の宝剣を手に取り柄に口付けた。
「……さて、教えて貰おうか。何故、余の大切な民を苦しめることに加担していたのかを」
私の問いかけに、けれども誰も答えない。
突然投げかけられた真実を前に絶望し、現実から目を背けているようだった。
「そんな……わ、私たちは一体、何の為に……っ」
重苦しい空気の中、ユーミスの呟きがやけに響く。
彼女のその頬には、両目から溢れる涙が伝っていた。
「……もう一度だけ、聞こうか。其方たちは、何故このようなことをした?」
「……す、救ってくれるって言ったんです……!魔力持ちの子達を」
嗚咽を漏らしながらも、ユーミスは答える。
「救う?」
「ル……ルクセリア様はお気づきかもしれねぇ……しれないですが、俺たちは全員魔力持ちです。でも、全員がここに来たくて来た訳じゃない。俺は……魔力持ちだって、親に捨てられた。そこにいるユーミスは、家族に暴力を受けていた。……アニータは」
泣いて言葉が繋がらないユーミスの代わりに、ベンと呼ばれた青年が言葉を引き継ぐ。
「……私は魔力を暴走させてしまって、私だけでなく家族すら村八分にされた。最終的に、お父さんとお母さんは村の人たちに殺されたようなものです」
「……他の団員たちも、皆、似たり寄ったりです。それで、俺たちは……魔力持ちでも、いや、魔力持ちだからこその特技を活かして生きていけるようにこのエトワールを作ったんです」
彼の言葉に、嘘はない。
「やっと商売が軌道に乗って。それで、色んな町や村を回ったんです。なるべく、娯楽の少ないところで、皆に楽しんで貰いたいって……田舎の出が多いんで」
彼の言葉に反応するかのように、聞いていた団員たちの誰もが、今尚まるで苦しみに耐えているように心の中で泣き叫んでいた。
「……でも、そこで俺たちが見たのは、俺たちと似たような子ども達だったんだ。始めは、この団で引き取っていた。でも、やっぱりそれには限界があって……それでも、見捨てることなんてできなくて……」
「それで、カールの甘言に乗ってしまったと」
「……カールは、助けてくれるって言ったんだ!子ども達に魔力のコントロールを教えて、自分たちで生活できるようにしてくれるって……」
……ある意味、子ども達に魔力のコントロールを教えてくれはするだろう。
手段を選ばずに、だが。
「それで、カールに子ども達を預けたと?何故、カールのことを信頼した?」
「だって……ベックフォード侯爵様のお使いだって……」
これは一概に彼らを責められない。
侯爵というご立派な看板を与えているのは、この国の王なのだから。
……とは言え、だ。
よく調べもせずに、大切な仲間ともいえる存在を預けることは愚かとしか言いようがない。
「其方たちは、何も知らなかった。ただ純粋に、子ども達を助けたかっただけ。……そうだな?」
私の問いに、彼らは戸惑いながら頷く。
「……良い迷惑だ」
私は溜息を吐きつつ、言い捨てた。
「なっ……!」
「そうであろう?子ども達を絶望の淵に叩き落としたのは、他ならぬ其方達なのだから」
「それは……」
「知らなかった?知らなかったでは、済まされぬであろう。子ども達を助けると決めたのであれば、最後まで面倒を見るべきだった。中途半端な手助けなど、子ども達にとっても良い迷惑だ」
「見捨てれば良かったというのか?!」
私の勢いに負けじと、叫ぶ。
「結果的には、そうなったな」
「そんな……っ」
「最後まで、面倒を見れば良かったと言ったであろう?何故、流された?何故、考え抜かなかった?其方達の決意は尊い……ああ、認めよう。だが、その結果がこれでは、誰も報われぬではないか」
私の叫びに、アニータが立ち上がった。




