女王は潜入する2
「そこの女……答えろ。余の問いに答えねば、この男を切る」
「無視しろ、ユーミス!俺のことは、気にするな!」
捕らえられた男は、勇敢にも答えないことを選ばせようとしている。
ユーミスと呼ばれた少女は恐れや怒り、迷いを混ぜたような瞳で私と男を見ていた。
そんな彼女に決断を迫るように、剣を持つ手に力を込める。
「ヒッ!」
あちらこちらから、悲鳴が起こった。
……けれども彼らは、最後まで口を閉ざしたままだった。
決意は硬い……か。
私は内心溜息を吐きつつ、脅すことを諦めて剣を下ろす。
「……そんなに、金が必要だったのか?」
冷ややかな問いに、誰もが怒りの感情を顔に浮かべていた。
「そうであろう?このように見世物小屋で成功しておきながら、人攫いに手を染めるなど……そうとしか考えられぬ」
「……何も知らないクセに!」
激昂したアニータが、私に怒りをぶつける。
「知らぬから聞いている。……尤も、どのような理由があれ、攫われた子らが受けている痛みを考えれば、其方らをこの剣で何十回、何百回切りつけたとしても到底余の怒りは収まらぬ」
そう言いながら、彼らを睨みつけた。
その睨みに、彼らは一瞬怯んだ。
「……それでも、こうして聞いているのだ。何故魔力持ちの子らをセルデン共和国の魔法研究所に売り飛ばす片棒を担いでいるのかと。……同じ魔力持ちが、団員の中にいるというのに」
「……セルデン、共和国?」
男が、呆然と聞き返した。
彼の反応に、私の方こそ一瞬戸惑った。
可能性の一つとしては、考えていた。
けれども、ありえない、あって欲しくないと思ってたそれ。
まさか……まさか。
「まさか……知らなかったというのか?其方らが攫った子らが今、セルデン共和国の魔法研究所に捕らえられていることを。……人として扱われず、繰り返し実験を受けていることを」
「嘘だ!」
私の問いに男は、激昂した。
「嘘など、言わん」
けれども私は、敢えて努めて冷静に応える。
「嘘だ、嘘だ、嘘だ……っ!だって、カール様は魔力持ちの子を救う為にって……」
ベックフォード侯爵の側近か。
……トミーの報告では、実質ベックフォード侯爵家の全てを采配している人物。
出てきたその男の名に、思わず舌打ちをしそうになる。
……大方、彼らを騙して実行犯に仕立て上げたというところか。
本当に……最低な男だ。
「カールが何処まで知っているかは、分からぬ。けれども法外な金額を受け取っていることから、まともな取引ではないことぐらい、あの男なら察しているであろう」
「ベン……!騙されないで!この女が、嘘を言っているかもしれないじゃない!」
「嘘など言わん、と言った筈だ」
そう呟きつつ、今度は全ての宝剣を私の周りに展開する。
……瞬間、時が止まった。
目の前にいた彼らは、誰もが目一杯目を見開いている。
まるで、その状況を見逃さんと言わんばかりに。
彼らの過剰とも言える動揺した様子に、今度は私の方こそが動きが止まってしまう。
……う、嘘だ。
何だよ、あの魔力の塊……。
……あの五本の剣、あれが……御伽噺に出てくる宝剣?
そんな囁きのような声が、私の耳に入ってくる。
その言葉に、私は笑った。
彼らの恐怖や衝撃を思い起こさせ、更に彼らを追い詰めるために。




