女王の外出
そうして迎えた、外出当日。
実は、城下に出たのはこれが初めて。
折角の機会だからと色々見て回ったら、あっという間に時間が過ぎていた。
「……ルクセリア様。そろそろ、開幕の時間です」
苦笑を浮かべるトミーの表情を見て、はしゃぎ過ぎたと反省しつつ、私は見世物小屋に向かった。
見世物小屋に近づくごとに、興奮が冷めていく。
それは、まるでサーカスのようなテントだった。
「……トミー。二名ずつ、この小屋の出入り口で見張らせろ。関係者を、一人も逃すな。残りは、余と共に中に入るよう指示を出せ」
小声で呟いた言葉をトミーは正確に聞き取り、そして動き出す。
十人かつ私服姿とはいえ、ぞろぞろと軍人を引き連れて歩く訳にはいかない。
それ故、彼らには少し離れたところで待機して貰っていた。
そんな彼らに向かって、トミーは『振動』で私の指示を伝えている。
国の端から端は無理でも、目に届く範囲であれば声を伝えることができるのだとか。
彼らが指示の通り動き始めたのを確認した後、私もまたテントの中に入っていく。
大きなテントの中には、中央に円柱形の舞台が設置されていて、その周りに幾つもの木製ベンチが並んでいた。
適当な場所に腰をかけると、静かに舞台の幕が開くのを待った。
やがて、開幕のベルと共に舞台が始まる。
……舞台は、評判通り素晴らしいものだった。
例えば、可愛らしい女の子の綱渡り。
途中から魔法で幻を見せたのか、星空を背景に女の子が軽やかに歩き回る様はとても幻想的だった。
他にも、コミカルなピエロの劇や美しい女性の剣舞、投擲等々そのどれもが見事に魔法を組み合わせており、十分な見ごたえだった。
閉幕後、多くの人が満足気にテントを去って行く。
共に中に入っていた軍人たちは、人込みに紛れて出ていくように見せかけ、テント内の死角に身を潜ませた。
「……あのー、お客様。恐れ入りますが、本日の舞台は終了していまして」
閉幕後も動かない私に対して、エトワールの関係者と思わしき男が遠慮がちに話かけてきた。
「まあ、すいません。あまりにも素晴らしい舞台だったので、つい、感動に浸ってしまったようですわ」
「それは光栄です」
「もし宜しければ、皆さんに会わせていただけませんか? この感動を是非とも直接お伝えしたくって」
「……大変申し訳ございませんが、団員たちは裏で片付けをしておりまして……」
「あら、それは残念。でも、諦めきれないわ。だから……ねえ? 『エトワールの関係者を、舞台に集めなさい』」
魔力を込めて囁いた瞬間、男の瞳が虚ろになった。
けれどもそれは本当に一瞬のことで、すぐに彼は人の良い笑みを浮かべる。
「分かりました。関係者を全員、ですね?」
「ええ。お願いしますね」
男が私の指示に従うべく去って行くその背を、笑顔で見送った。