女王の依頼
アーロン国軍団長との会談はすぐに叶った。
「……公式の場以外で会うのは久しいな。アーロン」
昨日とはうって変わって、空は快晴。
私はテラス席に座り、アーロンは私の護衛を務めているかのように背後に立ったままの状態だ。
アリシアの淹れたお茶とお菓子を味わいつつ、私は背後の彼に声をかける。
アリシアといえば、昨日隠し部屋で倒れていたから休むように言ったのに……大丈夫の一点張りで、結局いつも通り働いている。
「ええ。……このアーロン、陛下に忘れられていないようで安堵致しました」
アーロンの顔は見えないが……笑っていると分かるその声色に、私も笑みを漏らした。
「冗談を。其方の働きぶりを知って尚、其方を忘れることなど出来はせぬ。……さて、余はそんな有能な其方に頼みがある」
私の一言に、彼の纏う雰囲気が一瞬にして変わる。
チリチリと突き刺さる刃のようなそれに、私は思わず笑みを深めた。
「陛下の命とあれば」
「では、其方の目から見て有能な者たちを十名選抜せよ。その者たちには、余の護衛として一週間後の外出に付き合って貰うぞ」
「外出とは……一体、どちらに?」
「人攫いたちによる舞台の鑑賞に、だ」
「は……はあ?」
困惑しきった返事に、思わず声を出して笑った。
「もう少し言うと、お忍びでその舞台を鑑賞した後、奴らを捕まえる愉快な街歩きだ。お忍び故、目立たぬようにしたい。けれどもその一方で、相手が少しばかり物騒な連中でな……それで、其方の有能な部下たちに護衛兼捕縛の手伝いをして貰おうかと」
「は……否、私が気になるのは、何故危険を犯してまで陛下が自ら動こうとしていらっしゃるかです」
「まあ、彼らの舞台が見たいというのはある……前々から、随分と評判が良くてな」
「……陛下?」
ギロリと睨まれたような気がして、私は肩を竦めつつ再び口を開く。
「半分は冗談。けれども、半分は本気だ。……純粋に、興味が沸いたのだ。彼らが何故人攫いをしているのか、侯爵家の駒となったのか……。それ故、直接この目で見て言葉を交わし……可能であれば、余の駒として迎え入れたい。それでは、ダメか?」
「ならば、捕まえた後にでも……」
「それに今回の件は、秘密裡に、なるべく早く済ませたい。……であれば、余が直接現地に赴き、指揮を執ることが最適であろう」
「……承知いたしました。選りすぐりの十名を、陛下のもとに」
「うむ、頼んだ。……可能であれば、ラダフォード侯爵家遠征に行った者の中から選んでくれ」
「ええ、私もそうしようと思っていました。機密性の高い案件であれば、やはりあの百名が最も信頼できますので」
「ならば、良い」
私は自然と上がる口角を抑えつつ、お茶で咽を潤す。
「……貴重な時間を頂戴したこと、感謝する。また、余の訓練に付き合ってくれ」
「ええ、勿論です。……一つ、宜しいでしょうか?」
続きを促すように、首を縦に振った。
「我ら国軍は、陛下の盾であり鉾。陛下の御身をお守りするとあれば……否、陛下のお望みとあれば、他の何を置いても馳せ参じることこそが役目。故に……」
唐突に、彼の言葉が止まった。どうしたのだろうと、立ち上がりざま後ろを振り返る。
「『頼み』などと仰らないで下さい。ただ一言、『命じる』と仰っていただければ、我らはどこまでも付いて行きます。これから先も、ずっと……それを忘れないで下さい」
そう言って、彼は微笑んだ。その笑顔が、無性に眩しく感じられた。
「……言葉が過ぎたかもしれません。ですが、陛下は独り先に行ってしまいそうでしたので」
「……そんなこと、ない。其方たちの存在を、余は心強く思っている。だがそれを表に出せていないのだとしたら、それは余の落ち度。其方の言葉は、余の胸にしかと刻み込んでおこう」
正直、嬉しかった。
……打算ではなく、素直に私を案じるアーロンの言葉が。
だからこそ、私は彼に言葉を返す。
そして、そのままその場を去ったのだった。




