女王の夢
嫌な、夢を見た。
……塔の中、私は一人で窓枠にもたれかかりながら空を眺めていた。
多分……アリシアと出会っていなかったら、あんな風にぼんやりと一日中空を眺めていただろう。
ここではない、どこかに行きたいと願って。
『……不気味な子』
『陛下もお可哀想』
『嫌だ、こっちを見たわ。早く逃げなきゃ』
『なんでこんな危険な子が王宮にいるの?』
『なんでこんな子が、生まれてきたの?』
『『『消えてくれれば良いのに』』』
私に向けられた、心の声。
口から出ない秘められた声だからこそ、容赦のない言葉だった。
だから、言われ慣れたつもりだった。
仕方ない、と思おうと思ってた。
お父様とお母様からそんな心の声が出ないだけで、十分幸せだと思い込もうとした。
でも、ダメだった。
慣れたとしても、傷つかない訳じゃない。
こんな力、欲しくなかった。
これ以上、傷つきたくなかった。
空を見上げながら、私は涙を流していた。
そして急に、視点が変わる。
見たことがない筈の、光景。
幼いアリシアが、血溜まりの中央で呆然としていた。
その紅の上に横たわる人々は、動かない。
彼女は魔力暴走で、一緒にいた人たちを傷つけた。
きっと、苦しかっただろう。
痛かっただろう。
人を、思いもよらず傷つけたという事実が。
こんな力、なくなって欲しいと願ったことだろう。
これ以上、傷つけたくないと祈ったことだろう。
空を見上げながら、彼女は涙を流していた。
また、視点が変わる。
見たことがない筈の、光景。
幼い女の子が、家族ともども魔力のせいで迫害されている光景。
幼い男の子が、家族に魔力のせいで虐げられる光景。
皆が、空を見た。泣いた。
皆が、呪った。祈った。
魔力がない、世界を。
自分が苦しまない、世界を。
他者を傷つけない、世界を。
ああ、本当に嫌な夢だ。
多分、魔力持ちの境遇に関する報告を読んだせい。
あれで、過去の自分に重なった。
どこまでいっても変わらず冷たいこの世界と人に、心が傷んだ。




