女王と診察
その日は、雨が降っていた。
窓から見る空模様は曇天で、まるで私の心の内のようだと思った。
「待っていたぞ、ゴドフリー」
部屋に入って来たのは、魔法師団長のゴドフリー。
最初に宝剣を出して倒れた時以来、定期的に私の体を診てもらっている。
「お待たせ致しました」
『さて、余の体を診察してくれ』
魔法で指示を出してからすぐに、ゴドフリーは私の手首を掴み魔力を流した。
「……どうか?」
「即刻、療養なさるべきです」
私の問いに、彼は間髪入れずに答えた。
静まり返った室内に、彼のその言葉が響く。
まるで睨んでいるかのように見つめる彼の真剣な視線に、私は逆に可笑しくなって笑った。
「無理だ」
「貴女様の御体は、限界に近い。魔力回路が壊れているせいで魔力が暴走し、体内の組織を悉く破壊しているのですよ」
傍に控えていたフリージアが、小さく『ヒッ』と悲鳴を上げて私に視線を向けていた。
それは彼の気迫を恐れてというよりも、私の体の状態を心配してのことだろう。
「そう騒ぐでない。……療養したところで、余の体調はよくなるのか?」
「それは……っ」
私の問いかけに、彼は俯いた。
僅かに見える彼の表情には、隠しきれない程の悔しさが滲んでいる。
「生憎と、余はやらねばならぬことがある。療養したところで命の刻限が変わらぬのであれば、残された時を惜しむべきであろう?」
「しかし陛下……療養し魔力の使用を抑えることができれば、治りはせずとも刻限は延ばすことができるかもしれません。どうか、ご再考を……」
「どれだけ考えたところで、変わらぬ。それで、治療薬は?」
「こちらに。何度も申し上げますが、この治療薬では根本的な治療にはなりません。魔力の暴走を抑え、陛下の急激な体調悪化を抑えるだけの薬です」
「分かっている。……ありがとう、ゴドフリー。『ゴドフリーとフリージアは余の体調のことを忘れよ。それから、ゴドフリー。其方は再び余がこの執務室に呼んだ際は、この薬を同じ量だけ持って来い』」
魔力を載せた言葉に、ゴドフリーとフリージアは虚ろな瞳をしていた。
けれども拍手をするように手を叩けば、すぐに二人はいつもの表情に戻る。
「ゴドフリー。其方の魔法師団の訓練に関する話は、非常に有意義であった。また、話を聞かせてくれ」
表面上のお礼に、けれどもゴドフリーは違和感なくそれを受け入れていた。