女王と茶会
そして迎えた、茶会当日。
前回の……即位前の茶会を思い出すと、どうしても憂鬱になる。
「ルクセリア様!素敵です!」
今日も気合を入れる為、念入りにアリシアとフリージアに仕度をして貰った。
白を基調としたドレスは幾重にも布が重なり、下にいけばいくほど濃い青色に染まっていた。
耳元や首元には濃い青色のサファイアが飾られている。
「ルクセリア様……私、今日こそは最後まで給仕を務めさせていただきますので!」
アリシアも、妙に気合が入っていた。
……前回途中退席したことが、余程堪えているのだろう。
「あら……それは頼もしいわね。この仕度も、ありがとう。本当に二人の腕は素晴らしいわ」
「いえ、ルクセリア様の美しさがあってこそです」
熱くなっているアリシアの横で、フリージアが淡々と答える。
二人から漂う雰囲気が対照的過ぎて、何だか面白い。
「……それでは、ルクセリア様。私共は会場にて、最終チェックがございますので、先に失礼致します」
「ええ、お願いね」
二人が退出してから暫くして、室外で待機していた護衛騎士から声がかかった。
溜息と共に胸の内にあるもやもやとした憂鬱な気持ちを吐き出すと、気合を入れ直して部屋を出る。
既に私以外の出席者は、全員席についているようだ。
……心なしか皆よそよそしいというか、緊張しているというか。
とにかく全員の様子がおかしくて、内心首を傾げる。
そしてそれは、会が始まってからも同様だった。
「そ、そういえば……ルクセリア様。戴冠式のドレス、素敵でしたわ」
その言葉に、やっと疑問の答えが分かる。
……そういえば、彼女たちは戴冠式に出ていたのだ。
つまり、私が宝剣を出した場面も、ヴィルヘルムを刺した場面も、その目で見ていたということ。
深層のご令嬢たちには、いささか刺激の強い風景だったかもしれない。
「ありがとう。其方たちの期待に応えられたようで、安心した」
話しかけてきたウェストン侯爵家のご令嬢は、引きつった笑みを返す。
……駄目よ、駄目。
そんなに簡単に、心の内を晒してしまっては。
恐ろしいとき程、笑って挑みなさい。
悲しいとき程、喜んでみせなさい。
そうして、自身の感情を人形のような仮面で覆い隠さなければ……あっという間に、他者に利用されてしまうから。
ウェストン侯爵家のご令嬢に対して、私は心の中でそう呟いた。
「そういえば、メラニアよ。今日はサプライズにゲストは呼んでおらぬのか?」
私の問いかけに、メラニアはビクリと肩を震わせる。
「さ、サプライズですか?」
「うむ。前回、面白い者を呼び込んでくれたではないか。今回も、同様の楽しみがあると期待していたのだが?」
「ご……ご、ご期待に沿えなくて大変恐縮ですが、今回は、サプライズはありませんの」
彼女の反応に、思わず目を丸くする。
……父親の侯爵本人と比べて、なんとまあ可愛いらしい人か。
スレイド侯爵だったら間違いなく、別の話題に誘導するだろうし、そもそも自分が前回バーバラを呼び込んだ張本人と聞き取れるような返答は絶対にしない筈だ。
「そうか……それは、残念だ。もし次の機会があったら、是非とも頼むぞ」
「は、はい……」
私はそれとなく、彼女を観察し続ける。
あの、スレイド侯爵が目に入れても痛くないと言う程、溺愛する娘。
誕生日は盛大な祝いをする事は勿論のこと、初めて歩いた日だとか、初めてパパという言葉を口にした日だとか、記念日を作り過ぎて、スレイド侯爵家は一年の殆どがお祝いなのだとか。
それだけ聞けば、随分と娘を溺愛する父親だな……と胸焼けする程度だが、スレイド侯爵家はこの国で最上の権力を持つ一角。
そんな家の当主が盛大に甘やかすということは、実質、彼女が望んで叶わないことはないということ。
だからこそ、なのだろう。
……彼女が、彼女の父親と違ってこうも可愛らしいほどに扱い易いのは。
それから何事もなく会は続き、陽が暮れる前に終わった。
皆が去っていく最中、私はメラニアを呼び止める。
「ど、どうされましたか……?」
『メラニアは、その場に留まれ』
いつものように、魔力を載せて言葉を紡ぐ。瞬間、メラニアの瞳が虚ろになった。
これで、彼女は私の意のままに動く。
『メラニア以外の者たちは、余がメラニアを呼び止めたことを忘れ、メラニアが忘れ物をした為に残ったと記憶せよ』
次いで、周りのご令嬢たちにも同じように魔法をかけた。
『メラニア以外の者たちは、去れ。メラニアは、余について参れ』
メラニアも含め、その場にいる全員が私の言葉に従う。
私は適当な部屋にメラニアを連れ込んだ。




