女王と侯爵
そして、次の日。
スレイド侯爵に会うせいか、会談の時間が近づくにつれて自分でも分かる程にピリピリとしていた。
「ルクセリア様……具合でも、悪いのでしょうか?」
アリシアも私のそれに気が付いて、心配げに問いかけてくる。
「大丈夫よ。今日はねえ……ちょっと大事なお客様に会うから、少し緊張してしまっているみたい」
「まあ……そうだったんですね」
「ねえ、アリシア。今日は、ドレスと化粧をしっかりとしたい気分。……貴女におめかしをして貰うと、その姿に負けないようにちゃんと背筋を伸ばさないと、って頑張れるから」
「畏まりました」
それからアリシアは、私の要望通りに支度をしてくれた。
時間が足りないと、フリージアにも手伝って貰いながら。
二人がかりで作り上げた私の姿は、化粧の力も相まっていつもよりも三割増しでキレイになれた気がする。
「ありがとう、アリシア。フリージア。これなら私、頑張れる気がするわ」
それからすぐに、時間がやってきた。
約束の時間きっかりに彼が来たことを知らされ、私は応接室に向かう。
部屋に入ると、スレイド侯爵とそのお付きの者が頭を下げて私の動きを待っていた。
「ご苦労。表を上げ、楽にせよ」
彼らの正面の席に腰掛けてから告げると、彼らは恭しく頭を上げて席に座る。
……白々しい。
そう内心思いつつも、にこやかに応対をする。
彼の用件は、領地の報告だった。
……五大侯爵家は年に一度、当主自らが領地に関して王に説明する義務がある。
とは言っても、実務レベルでは年に一度と言わず頻繁にやり取りが成されているので、要は時候の挨拶のようなものだ。
「そうか……今年も、スレイド侯爵家は恙なく領地を治めているようで安心した」
「これもひとえに、王家のご支援があってのこと。今後とも、よろしくお願い致します」
……そろそろ、頃合いか。
そう思って、魔法を発動する。
けれども、すぐに違和感を覚えた。
何故?どうして、彼らの『心の声』が聞こえない?
……魔法は、問題なく発動しているというのに。
『一つ、教えてくれないか?其方の横にいる者が、どのような魔法を使えるのかを』
試しに、魔力を載せて適当な指示を出す。
「魔法、ですか……?」
けれども、返ってきたのは答えではなく、質問。
……やはり、魔法がきいていない。
「ああ……そこの者は……」
「アルバンと申します」
「そうか。……アルバンは、スレイド侯爵家の一族の者ではないであろう? それにも拘らずこの場に連れているということは、余程有能な護衛なのかと」
とりあえず動揺を悟られないよう、取り繕う。
「いいえ、彼は護衛ではありません。ただ有能な側近なので、勉強のために私と行動を共にさせているのですよ」
「そうか……。どうやら、早とちりをしたようだな」
それから軽く世間話をした後、スレイド侯爵たちは去って行った。




