ある隠密の部下
朝……俺は、ベンチに座って一服をしていた。
店が開き始め、多くの人々が忙しなく道を歩いていく……そんな、日常の風景。
そんな光景に溶け込むようにして待機している俺は、トミーさんの部下であり、連絡地点であるその場所でトミーさんが現れることを待っていたのだ。
けれども、待てど暮らせどトミーさんが来ない。
約束の時間を待っても現れないことに、眉を顰める。
……まさか、トミーさんが捕まったか?
けれども、迷いは一瞬だった。
仮にトミーさんが捕まっていた場合、この連絡地点に留まっていることは危険だ。
トミーさんから、情報が漏れた可能性がある。
もしそうでなかったとしても、時間通りにトミーさんが来ないということは、何らかのトラブルがあったと考えて然るべきだ。
つまり、この時間にこの場に来られない理由が何かしらあったということ。
今後の動き方を考える為にも、その原因を探るべきだろう。
そう結論付けて、道中で応援を拾いつつ第二の連絡地点に向かう。
応援の人員と二手に別れる。
俺は建物の内に入り、応援の人たちは建物内を観察すべく向いの屋上に登って行った。
応援の人たちから不審物や不審者がいないことを信号で知らされ、室内に入る。
「……って、トミーさん!?」
入った瞬間、別の扉からトミーさんが現れた。
けれども、その姿はとても無事とは言い難い。
全身は紅に染まり切り、いたるところに切り傷がつけられている。
「大きな声を、出すな……」
そう苦笑いを浮かべつつ窘めたトミーさんは、その場に倒れ込んだ。
崩れ行くトミーさんをすぐさま受け止める。
「大丈夫ですか……?」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと、相手がしつこくてなあ」
「お疲れ様です。……応急処置をしますので、少々お待ちください」
「助かった……。悪いな」
「いえ。ご無事で何よりです」
「ほんと、よくあそこから無事脱出できたよなあ……もう、超過労働も良いところ。あんなセキュリティが厳しいところ、二度と入るものか」
ぶつくさ文句を言いつつも、トミーさんは大人しく治療を受けていた。
「さて、ご苦労さん。それじゃ、これにてこの仕事は終了!皆、撤収」
治療が終わってからすぐさま、トミーさんは応援の人たちも含めてその場にいた全員に指示を出して行く。
「……自分は、残りますよ。まだ、動けないでしょう?」
「悪いな。……少し、休む」
トミーさんは、そのまま眠りについたのだった。




