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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
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王女と誕生日

本日4話目の更新です

塔で暮らし始めてから、およそ半年弱が経った。


「ルクセリア様の誕生日まで、あと三日ですね」


アリシアが、私のお茶を準備しながら声を弾ませた。


「あら……そういえばそうね。私ももう九歳か……」


思えばあっという間のことだった。

塔でアリシアと暮らし始めて、楽しくて……日々が慌ただしく過ぎていく。


「お誕生日には、王宮に戻るんですか?」


「まさか。誕生日当日も、私はここにいるわよ」


「あれ?……でも、お城ではパーティーが開かれるって聞きましまよ? ルクセリア様のパーティーなのに」


「私は病弱で、皆の前に出られないということになっているの。もう既に、皆には私がパーティに出ないことを知らせているわ」


人の多いところに行けば、それだけたくさんの心の声が聞こえてしまう。

そんな環境に身を置けば、本当に具合が悪くなるだろうから……その言い訳も、強ち間違いではない。


「良いのよ。きっと、後でお父様とお母様がお祝いしてくださるでしょうから」


パーティーで忙しいと、公務で忙しいと、お父様とお母様が私を捨て置くことは簡単だろう。

それでも、二人とも誕生日の当日に必ず私のところに来てくれる。

大勢の会ったことのない人に囲まれて堅っ苦しいパーティーで祝ってもらうより、大切な人たちだけで祝って貰える方が私は嬉しい。


「王様と、お妃様が。……楽しみですね、ルクセリア様」


「ええ、そうね。二人に会うのは、三ヶ月ぶり……かしら。二人がいらっしゃる時には、特に魔力の制御に気をつけないと」


「大丈夫ですよ」


アリシアは、にこやかに笑う。


「ルクセリア様が願わなければ魔法はかかりません。その証拠に、ホラ、私はルクセリア様の魔法にかかってないですよね?」


「ふふふ……私が魔法を制御できているのは、アリシアのおかげよ」


未だに、アリシアは私の魔法はかからない。

おかげで、かつて『いつか誰かに再び危害を加えてしまうかもしれない』といつも怯えていたのが嘘のように、心穏やかに過ごせている。


そんな余裕ができたおかげか、お父様やお母様がいらっしゃった時も、たまに心の声を聞こえなくさせることができていた。


「お役に立てて、何よりです」


「まあ、まだ訓練は必要だけどね。……このままじゃ、お父様の後を継げないもの」


仮に弟が生まれようとも、私が王位継承権一位であることは変わらない。

何故なら王の証である宝剣は、第一子しか継承することができないからだ。


宝剣……それは、五本の剣。

それぞれ、愛・叡智・栄光・誠実・永遠の五つの意味を持ち、莫大な魔力を秘めている。


宝剣が受け継がれるのは、王が崩御した時、もしくは存命の場合は次代が戴冠式によって王位を正式に継いだ時。


私もいずれはその宝剣を継ぐのだけど……このままじゃ、王位を継ぐどころか王宮に住むことすら難しい。


「……そうだ!せっかくのお誕生日ですし、私たちでお誕生日会をしましょう!」


「お誕生日会?」


「そうです!ルクセリア様のお誕生日当日に。ちなみに、誰か他に招待しますか?」


「悲しいことに、貴女以外に友達はいないから。あ、でも……あの時の男の子……」


瞬間、塔に幽閉される直前の短い逢瀬を重ねた彼のことを、一瞬思い出す。


「……ううん、やっぱり良いわ。貴女がいれば、それで十分」


「ルクセリア様。折角ですから、その方もお誘いしましょう。私が連絡致しますよ!」


「うーん……遠いところに住んでいるからね。誘って『じゃあすぐに行きます』って言うのは、難しいと思うわ」


「……そうですか。あれ、でもじゃあ……ルクセリア様はその方とどのようにお知り合いに?」


「父親の仕事に付いて、王宮に来ていたの。その時はまだ私も塔に暮らす前で、王宮内をよく彷徨いていて。それで、偶々知り合ったのよ」


「へえ……その方の名前は?」


「ヴィルヘルムよ」


……ふと思い出したのは、彼と会った時のこと。

目を瞑れば、いつだって鮮明に思い出すことができる。


『月のように綺麗だなって思ったんだ』


今思えば、小さな子どもらしからぬ言葉だ。

否、逆か。

きっと、子どもの無邪気さ故の言葉だろう。


「もしかしたら、ルクセリア様のお誕生日パーティーで来ているかもしれませんよ。ちょっと確認しておきます!」


「尚更ダメよ、ダメ。パーティーの為に来ていたとしら、塔に呼べないわ。私がパーティーをサボっていることが、バレてしまうじゃない」


「あ……それは、そうですね……」


「でしょう? だから、私とアリシアでお誕生日会をしましょう。そうだ、こっそり外に行かない?」


「いつもの森ですね。そしたら、お昼ご飯をお弁当にして行きましょう」


「ふふふ、楽しみ」

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