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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
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女王と隠密

「……報告に参りましたよ、と」


静かな室内に、トミーの声が響く。

瞬間、誰もいなかったそこに人影が現れた。


「エトワールの件か」


「ええ」


「ならば、余も其方に話があった。各地に放った部下達から、エトワールが滞在した街で失踪したという報告はなかったか?」


「……誰かから、既に聞いていましたか?」


「其方の部下ではないが、世間話の一環でそういった話を聞いた」


私の言葉に、トミーは笑った。


「随分と物騒な世間話があったもんだ」


「……否定はできぬな。それで、そういった報告はあったのか?」


「ええ、ありましたよ。未解決の行方不明事件が発生していました」


「……全部で何人だ?」


「三十人。けれども実際は事件化していないだけで、総数はもっといるかもしれません」


「行方不明者に何か共通することは?」


「五歳から十五歳の子ども。男女問わず、です」


「事件が起きた場所は?」


トミーは言葉で答える代わりに、どんどん国の地図に丸を書き込んでいった。

王都から見て東と南に、どんどんと赤丸が描かれていく。


「今判明しているのはベックフォード侯爵領とウェストン侯爵領。特にウェストン侯爵領で多発しています」


「オルコット侯爵領は?」


「出ていません。そもそもエトワールがオルコット侯爵領に、赴いていないということもありますが」


トミーの言葉に、溜息を吐いた。


……ああ、最悪だ。


どうやら本当に、赤信号を皆で渡っているようだ。

私は自身の内から沸き出る怒りを吐き出すように、笑った。

怒りも度が過ぎると、笑いになるらしい。


「何だか、過去最高の圧を感じるんですけど。……何か、分かったんですか?」


「ああ。五大侯爵家がどれだけ有害な存在かを、改めて理解したところだ」


トミーは、先を促すように私に視線を向けている。


「どうやら、ベックフォード侯爵家はエトワールを受け入れてくれるお友達を探していたようなんだ」


「へえ……楽しみをお仲間と分かち合うだなんて、結構なことじゃないですか。……ちなみに、お友達ってことは、勿論その間に上下関係はないですよね」


どうやらトミーは、私の真意に気がついてくれたようだ。


……ベックフォード侯爵家が、自身と同格の家である五大侯爵家にエトワールの受け入れを求めていたということを。

つまり、子どもたちを拐うために各領地の領主が共謀した可能性があるということを。


「友達とは、そういうものではないか?」


私の応えに確証を得たようで、トミーは楽しそうに笑った。


「……ありがとうございます。ほんっとうに、五大侯爵家の存在は害悪でしかないですね。ルクセリア様が溜息を吐いた気持ちが、よく分かりました」


「……だが、彼らは何故子供たちを拐うのか、子どもたちの何に対して価値を見出しているのかは未だ不明だな」


「ついでに、子どもたちをどこにやっているのかも……ですね」


「そうだな……」


暗雲とした気持ちで、地図と向き合う。

こんなになるまでこの一連の事件に気がつかなかったとは……私の力はまだまだだ。


こんなんじゃ、魔法学園の設立なんて夢のまた夢……とまで考えたところで、ふと、図書館の一幕が思い出された。


「……行方不明となった子どもたちは、魔力持ちではないか?」


「魔力持ち、ですか?」


「うむ。嫌な言い方だが……魔力持ちは、様々な使い道がある故、各国も秘密裏に集めていると聞く」


「……そうかもしれません。現地を調べさせている部下たちにも、その点確認するように伝えておきます」


「其方の魔法は、このような時に便利だな」


彼の魔法は、『振動』。とても汎用性が高く、電話のように声を飛ばすことや、逆に物音を消したり、物質を破壊することもできる。


「まあ、流石に遠くに離れていると『移動』魔法ができる奴と共同でないと、言葉を届けられないんですけどねー」


「『移動』魔法の使い手は、ダドリーという者だったか?」


「ええ、そうです」


「『移動』魔法は遠くまで移動させられる代わりに、小さな物しか移動させられないと聞く。ダドリーとトミー、二人の特性を活かした、良い技と思うぞ?」


「そんな褒めても何もでませんよ? 俺的には、ここ最近一番にこの力が役立つと思ったのは、アリシアが魔力暴走を起こした時ですよ。庭師として、彼女が割った地面を直すのに丁度良いんですよね。それ以外は、最近あまり使ってないですし」


彼は、二つの顔を持っている。

表向きは庭師としての顔。

そしてその裏にあるのが、隠密としてのそれだ。


アリシアと戯れあっている庭師の彼を見ていると微笑ましいが……同時に違和感を感じる程、雰囲気が違う。

軽口を叩くことだけは、どちらの顔も変わらないが。


「其方の力量があってこその言葉だな。……ところで、トミー。其方は引き続きベックフォード侯爵家を調べるのか?」


「はい。まだ、何か出て来るかもしれませんから」


「そうか。ならば、ウェストン侯爵家とスレイド侯爵家との繋がりも調べてくれ。先程のお友達云々の話には、証拠がない故……まだ、憶測の域を出ていない」


「承知致しました」


そしてトミーは、音もなく部屋を出て行った。

それが隠密として培ってきた技なのか、それとも魔法で消しているのか私には分からない。


ただ、彼が煙のように消えて行ったことだけは確かだった。


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