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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
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女王と建国記 2

……私の前で彼女がこうも表情を変えることは、珍しい。


「独り言だ。……それより、フリージア。其方は魔力を持って生まれ、そのことで何か不自由はなかったか?」


「魔力を持って生まれたことに、ですか?さあ……私は特に感じたことはありませんね。むしろ、便利な力を持てて幸運だなと」


「其方の周りには、同じく魔力持ちがいたのか?」


「え、ええ。父が、そうでした」


「なるほど……では、其方は? ハワード」


脇で控えていた、護衛騎士のハワードに話を振る。


「自分は田舎生まれで、魔力持ちも周りにいなかったので……何かと面倒な事はありました。けれども……まあ、この魔力のおかげで護衛騎士になるチャンスを与えられたので、総じて幸運だったと思います」


「そうか……」


「あの、ルクセリア様。何かございましたか?」


フリージアの問いに、私は首を左右に振った。


「この国の魔力持ちの扱いが気になって、調べさせていたんだ。その結果が……残念なことに、理想に程遠くて、な。それで、まずは手近の者たちに実体験を聞いてみようと思った」


「ああ、そういうことですか」


「……恐縮ですが、私はその調査結果に同意します。魔力持ちが集まり易い都市部ならともかく、魔力持ちが少ない田舎ですと、どうしてもその……周りの目は厳しくなる傾向にあるかと」


「……王が、魔力の塊である宝剣を使うのに……か?」


私の問いかけに、ハワードは首を横に振る。 


「感情と理性は、別物なのです。魔力を持たない者からすれば、魔力持ちは常に剣を持っているのと同じ。いつその刃が自らに降りかかってくるか分からないと、恐れても仕方のないことかと」


彼の言葉は、理解できた。

かつてアリシアも魔力が目覚めた時に周りの人間を傷つけたと言っていたし、何よりこの身でその経験をしている。


その可能性を前にして、魔力を持たない人たちに魔力持ちを怖がるなという方が、無理があるか。


「……そうか」


「ですが、この国は他国よりも魔力持ちに対して理解がある国ですよ。私の祖母は他国で生まれましたが、魔力を持っていた為に自国では居場所がなくなり、逃げるようにこの国に来たと申しておりました」


「ほう……其方の身内に、そのような話があったのか」


「はい。……祖母は、繰り返し申しておりました。魔力を持っていても、人として生きていけるこの国はとても素晴らしいと」


「人として、か……」


フリージアの言葉をつい、復唱しまった。

実体験からくるそれでも、まさかそんな言葉を聞くとは。


「其方のお祖母様は、さぞ苦労をされたのであろう」


魔力の塊である宝剣を持つ者を王に戴くこの国は、昔から『魔法師の最後の砦』と言われてきた。

それ故に、セルデン共和国のような国から魔力持ちが安住の地を求めて駆け込んでくる。


……フリージアのお祖母様のように。


けれどもこの国は今、その誇りを忘れつつある。

それは、ハワードの言うように仕方のないことなのかもしれない。


現に、魔力持ちが正しくその力を扱う術を学ぶ場がないせいで、魔力暴発の事件が度々起きている。

その上、魔力に対する正しい知識が国民に浸透していないせいで、そういった魔法に関する事件が起きる度に魔力持ち全体が恐れられるようになってしまった。


それらが積み重なって、結果、徐々に魔力持ちが疎まれるようになりつつあるのだ。

けれどもそれに反して、他国では更に魔力持ちにとって生きづらい世の中になりつつある。


他国は近年、密かに魔力持ちを集め始めた。

生活向上……何より軍事目的に魔力持ちを利用しようと。

だからこそセルデン共和国も含め他国は魔法の研究所を建立し、魔力持ちを研究しているのだ。


けれども、表向き他国は引き続き魔力持ちを迫害し続けている。

人々の価値観を変えることは容易じゃないし、むしろ変えない方が、自由に研究することができるから。


つまり、だ。

研究所では、おおよそ『人として』生きているとは到底言えないような……尊厳も権利も何もかも踏みにじるような形で研究をしているということ。


……本当に、気分が悪くなる話だ。


「理解できない、な」


思わず、ポツリと呟く。

魔法の有用性を認めているのであれば、魔法使いを優遇すべきだ。


……表向き彼らを排除しながらも、彼らを縛りつけ、利用するだけ利用するからこそ、魔法使いたちは逃げ出す。

ならば、彼らの居場所を作り、彼らが自発的に協力するような体制を作るべきではないか、と。


「どうかされましたか? ルクセリア様」


私の呟きに反応して、フリージアが心配げに問いかけてきた。


「……否、何でもない」


否定しつつ、私は考え事に集中する。

今の私には、他国を否定する余裕も考えを変えさせる力もない。


だから、私が考えるべきは自国のこと。

少なくとも私は魔力持ちを否定するつもりはないし、この国にもそうなって欲しくない。


建国記が描いた理想を理想として、追いかけて欲しい。

そのために、まずは早急に魔力持ちのために教育機関の設立を進めるべきか。

広く門戸を広げ、幼い頃から魔力を制御する術を覚えさせるために。


「アーサー、ただ今戻りました」 


そこまで考えたところで、アーサーが戻って来た。


「ご苦労、アーサー。それで、アリシアは?」


「お茶の準備をしてから、こちらに来るとのことです」


「……それでは、ルクセリア様。私は、これで御前失礼致します」


「うむ、フリージア。貴重な話を有難う」


丁度そのタイミングで、アリシアがやって来た。


「失礼します! ルクセリア様、お茶をお持ちしました」


彼女の明るい声に、自然と笑みが浮かんだ。


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