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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
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女王と報告書

「……ルクセリア様。魔力持ちに関する報告を纏めましたので、お読みください」


私以外誰もいない部屋に、トミーが突然姿を現す。

最初こそ驚いたけれども、最早慣れた光景だ。


「ああ、ありがとう」


ペンを置き、資料を受け取る。


「……そういえば、ウェストン侯爵家に何か動きはあったか?」


五大侯爵家は、ラダフォード、スライド、ベックフォード、ウェストン、オルコット。

ラダフォードは既に潰したから、残りは四家。


勿論、その四家の動向には常に注意を払ってもらっている。


「ウェストン侯爵家ですか?特に大きな動きはないです。ただ、現当主と嫡男のオスカーが、言い争いをしていると噂がありますが」


「ふふふ……そうか。オスカーが、か」


「あれ?知り合いですか?」


私の表情の変化を見落とさず、トミーは興味深そうに問いかけてきた。


「知り合いではない。ただ、会ったんだ。戴冠式の時にな」


「そりゃ、五大侯爵家の人なら戴冠式に出席しているでしょうよ」


「そうだな。……だが、奴だけだったよ。余を恐れなかったのは。宝剣を出した時も、ヴィルヘルムを刺した時も」


私が人形姫と軽んじられていたのは、代々王が受け継ぐ宝剣を出すことができなかったからだ。


代々王が受け継ぐ、五つの宝剣。

普通は前の王が死ねば、次の王が自然と宝剣を召喚できるようになる。


それなのに、私は父が死んでも宝剣を出すことはできなかった。



……表向きは。


真実は、誘拐騒ぎのどさくさで死にかけたアリシアを宝剣の力で助けた結果、体内にある魔力の通り道……魔力回路が壊れたのだ。


魔力回路が壊れているせいで、未だに魔法を使う度に倒れる。

それで体が成長するまで魔法は使わないようにして、表向き人形姫を演じてきたという訳だ。

だから戴冠式で私が宝剣を出した時には、誰もが驚いていた。

その上、婚約者のヴィルヘルムを刺殺したのだから皆が恐慌状態に陥っていた……のだが。


「まさか、情報が漏れていたのですか?」


「否……それはないだろう。奴は、確かに驚いていた。だが……何故か、笑っていたんだ」


「笑っていた?」


トミーですら、オスカーのその反応に驚いたようだった。


「意味が分かんないです。……いずれにせよ、気になるので洗っておきます」


「ああ、よろしく頼む」


彼が去った後、私は手元の仕事を片付けて報告書を読み始める。


「ふう……」


そして手元にある資料を全て読み終えたところで、一息吐く。


……思った以上に内容が酷過ぎて、気分が重い。



まず、国内の魔力持ちの境遇。

……かつてアリシアに聞いた話は、まだまだ可愛いものだった。


都市部では魔力持ちとそうでない者の間に殆ど軋轢がないものの……少しでも都市部から外れると、状況がガラリと変わる。


親が魔力持ちの子を拒絶したり、魔力持ちの子がいる家が一家丸ごと村八分されるところすらある……と。


けれどもそれ以上に状況が酷いのが、セルデン共和国だ。


あの国が魔法を否定する国だということは、知識として持っていた。

持っていたけれども……まさか、こうも魔力持ちが迫害されているとは。



まず国の法律上ですら、魔力持ちは一切の権利が無い。

そしてその上で、魔力持ちに対する偏見や悪意が向けられる。

魔力持ちとして産まれたら、拒絶どころか、すぐにでも亡き者にされそうになるのだとか。


それもこれも、魔法が邪悪な力だとの意識が深く浸透しているせいだろう。

まるで前世の魔女狩りのように過酷で、凄惨な状況。


歴史上、多くの魔力持ちはセルデン共和国という国に殺された。

それでもセルデン共和国に今尚魔力持ちがいるのは、稀に魔力持ちではない両親の間にも魔力持ちが生まれるせい。


だからこそ、セルデン共和国とそこに住む人々の意識が変わらない限り……いつまでも、魔力持ちの被害は無くならない。



……再び、溜息を吐く。

……駄目だ。

気分が滅入り過ぎて、息と共にそのモヤモヤとした思いを外に出すことができない。

私は立ち上がると、気分転換にと城内の図書室に向かった。




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