表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
72/144

女王と侯爵 2

「……そういえば、その女性は随分と豪奢な装飾品を身につけているのだとか。失踪事件が起きる度に、装飾品は増えていくのではないか?」


「さあ……女性の装飾品は、無骨者な私には難解ですから。ただ、あれ程の装飾品をよくも惜しげなく買い集めることができるなとは感心していますよ。私には、そこまでの甲斐性はないので」


「……そうか。随分と、面白い話だな」


「いえいえ、陛下のお耳汚しにならなければ良いのですが。……それでは、私はこの辺で」


「うむ」


『侯爵』は、部屋を去って行った。


彼の背を見送った後、私もまた私室に戻る。

そして、机上の遊技盤を弄りだした。


……抜け目のない、男。


『侯爵』を思い浮かべながら、灰色の駒をデコピンで倒す。

五大侯爵家の中でも一番実直ながら、流石そこは侯爵家当主。

どっぷりと頭の先まで権謀術数に浸かっているようだ。


……『侯爵』は、知っていた。


おそらく、かなり前から。

それこそ、私が即位する前から、子ども達は攫われていたのだろう。


そして『侯爵』がそれを知っていたのは、恐らくベックフォード侯爵自身が他の侯爵家に手の内を明かしたからだ。  

明かして、仲間に引き込もうとしたのだろう。


赤信号、皆で渡れば怖くないと。


でなければ、ベックフォード侯爵と同格とはいえ、『侯爵』がそこまでエトワールの件を知る機会はなかった筈。


「本当に、抜け目のない男」


もう一度、私は呟く。

『侯爵』は、エトワールの件に自分が関与していることを否定すると同時に、情報を売ることで私に恩を売った。


本当に抜け目がない。

……彼の立場上、そうせざるを得ないというのもあるだろうが。


あの男は、非常に難しい立場にいる。


かつて彼は私への忠誠を、誓った。

それは多分、彼が私の憎悪を垣間見たから。


その憎悪の矛先を五大侯爵家に向けている私が、莫大な魔力を持ち、五本の宝剣全てを召喚できてしまう。

……その事実は、彼からしたら恐怖でしかなかっただろう。


歴代王でも、魔力が足りず、召喚できた宝剣は一・二本だった。

全ての宝剣を召喚できる場合、その気になれば一つや二つの領地を更地にすることも可能なのだ。


つまり彼の目の前には、解体不能な爆弾があるのと同じ。

爆発が自分の家に向けられないように、服従する道を選んだのだ。


一方で、彼は王家への忠誠を表立って示すこともできなかった。


何故なら私が、人形姫だったから。


宮中に全く影響力がなかった私は、魔力回路が壊れ、大人になるまで魔力の使用を封じると同時に毒にも薬にもならない姫を演じるしかなかった。


そうして、膿を全て吐き出させようという狙いもあったけど。


……それはともかく、人形姫だった私を、彼が表立って擁護する訳にはいかなかった。


擁護するということは、他の五大侯爵家と敵対するのと同じ。

そして人形姫だった当時、彼が私を擁護したせいで他の五大侯爵家に攻撃されたとしても、私は助けることができなかっただろう。


それを彼も理解していたからこそ、彼は私と五大侯爵家の間でバランスよく立ち回っていたのだ。


一族と、領地に住む民を守るために。

そこまで考えて、私は笑った。


「もっと……私を楽しませてね」


彼は、これからどう立ち回るのだろうか。


既に、私は人形姫の仮面は剥いだ。

復讐劇の幕は、開かれた。



その上で、彼が今後どう動くのか……それが、楽しみだった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ