女王は、溜息を吐いた
「セルデン共和国に密偵は?」
「既に放っています」
「分かった。ならば、引き続き新たな情報が入れば知らせよ」
「承知致しました。……それから、エトワールの件で相談が」
「ああ、あの見世物小屋か」
アリシアから教えて貰った、王都で話題の見世物小屋。
「ええ、まあ。ちょっとその捜査で煮詰まったので、ご相談に」
「……確か、ベックフォード侯爵家と繋がりがある可能性が高いということだったな?」
転々と各地で興行していた見世物小屋が、『あの』結婚式後の不安定な王都に根を張っていることに違和感を感じて、監視をさせていた。
そうしたら案の定、五大侯爵家の一角であるベックフォード侯爵家と繋がりがあった……という訳だ。
「はい。監視中に複数回、ベックフォード侯爵家の手の者と密会している場面を発見していましたから。ただ、その目的が未だに不明なんですよ」
「ベックフォード侯爵家の者と何か手紙のやりとりは?」
「それが、全然ないんですよ。まあ、お互い王都にいて接触が容易いということを考えると、わざわざ証拠となる書類を残さないという方を優先しているのかもしれません」
「ベックフォード侯爵にしては、慎重な対応だな」
「ええ、そうなんです。……それで、ですね。ベックフォードの家に、調査に入っても良いですかね?」
「構わぬ」
「なら、早速にでも」
「……配下ではなく、其方が直接調査に入るのか?」
「勿論。侯爵家ですからね……最高レベルの警備と考えて備えるべきだと」
「そう、だな……。ならば配下の者たちを借りても良いか?」
「皆、それぞれ調査で出払っていますけど。……ご命令とあれば」
「ならば、命令だ。……過去、エトワールが興行して回った地を調べよ」
「足取りならば、既に調べがついていますが」
「それぞれの地で、何か事件が起きていないか。……どんな小さなことでも、関係がないと思われるようなことでも良い。ベックフォード侯爵家に繋がりのある組織が、何の意味もなく各地を回るとは思えぬ」
「あいつらの過去の足取りから、目的を探るということですか。……どうやら俺は、視野狭窄に陥っていたようですね。部下にすぐ調査させます」
「うむ。其方の力量であれば、ベックフォード侯爵家から何等かの情報をもぎ取ってくると信じているが……今は、少しでも多くの情報が欲しい」
「ええ、そうですね。……すぐにでも指示を出します」
「頼んだ」
トミーは頭を下げると、そのまま部屋を出て行った。
それから間もなく私も部屋を出ると、護衛騎士に守られながら私室に戻った。




