女王の告白
あけましておめでとうございます。
部屋で少し体を休めた後、隠し通路を出す。
ああ、護衛騎士たちに心域で部屋に入って来ないように言い聞かさなければ。
けれども瞬間、目眩を感じてしゃがみ込む。
……いつもの、発作だ。
今日は宝剣を出したぐらいで、魔法を使っていないのだけど。
否……使っていないからこそ、これだけ軽い発作で済んだのか。
「失礼致します。……ルクセリア様!?」
タイミング悪く、アリシアが部屋に戻って来た。
アリシアの叫びに、部屋の外で控えていた護衛騎士たちが部屋に入って来る。
「『全員、この部屋で見たことは全て忘れて部屋を出ろ。私が良いと言うまで、決して中に誰も入れるな』」
すぐに『心域』を使って、彼らの記憶を消す。
護衛騎士たちが虚な目ですぐに外に出て行く様を、アリシアは首を傾げて眺めていた。
魔法は使えなくなっても、相変わらず私の魔法は彼女には効かないようだ。
「だ、大丈夫ですか!? ルクセリア様」
護衛騎士たちから私に関心が移ったのか、彼女は慌てた様子で私の方に駆け寄って来た。
「大丈夫よ、アリシア。ちょっと、目眩がしただけだから」
「ですが……万が一があったらいけません。すぐに医師を……」
「ダメよ、ダメ。王位を継いだばかりの私が、ちょっとでも体調が悪いところを見せたら……皆が不安になるもの」
渋る彼女に、私はあえて強い口調で答えた。
そうでもしなければ、彼女は納得しなかっただろう……そう思う程に、彼女が私の身を案じてくれていたことが手に取るように分かったからだ。
「疲れが出ただけだから、本当に大丈夫よ」
少し落ち込んだような彼女に、慌てて柔らかな口調で言葉を続ける。
「……分かりました」
彼女は不承不承、了解してくれた。
「それよりも、こんな夜更けにどうしたの?」
「申し訳ございません。酷く乾燥していますので、湿らせた布を掛けておこうかと」
……そう言えば、前に乾燥が気になってお願いしたことがあったっけ。
前世の頃からの癖で、つい乾燥が気になる。
この世界で加湿器は望むべくもないから、湿らせた布をかけるようお願いしたのだ。
最近乾燥が気にならないなあ……とは思っていたけれども、一回しかお願いしたことがないそれを、まさか続けていてくれていたとは。
「あら、そう……ありがとう」
アリシアと話している間に、徐々に目眩が治って立ち上がった。
無事立ち上がったタイミングで、ハタと思い出す。
……そう言えば、隠し通路の扉が開いた状態だったっけ。
彼女の視界にもそれが映っているだろうに、彼女は私に問いかけない。
それは私が聞かれたら困る筈という、配慮だろう。
普段はないそれを目にして驚かない筈がないのに、眉ひとつ変えないとは……流石アリシアだ。
……彼女なら、隠し扉の先を見せても良いか。
否、むしろ彼女しかいない。
『心域』で操ることをなしに、私が頼ることができる侍女は。
「……アリシア。夜更けだけど、ちょっと付き合ってくれない?」
「ルクセリア様のご要望とあらば」
そして私たちは、件の扉の前に立つ。
「……これはね、王専用の隠し扉。宝剣でしか開くことができない扉なの」
薄暗い細道を、私たちは進む。
「さて、着いたわ」
宝物庫じゃない方の部屋に到着すると、私は再び宝剣を出現させた。




