女王の説得
各省からの報告を聞いた後、私は思わず息を吐いた。
「……人員は、問題なさそうだな」
「ええ。ラダフォード侯爵家系の者は、財務省と総務省に多く在籍していたので、それが心配だったのですが……法務省と軍務省の者から人員を回すことで対応ができ、一安心です」
「……とは言え、無駄に長引かせるつもりは無い。ギルバート、ネイトとテッドを罷免したことを大々的に告知せよ。それで、ラダフォード侯爵家系の者たちも動揺するであろう」
「そうですね。自分たちを担ぎ上げた人間が、捕まったのですから」
「そういうことだ」
「では、すぐに実行致します」
「ああ、待て」
部屋を出ようとしていたギルバートに声をかけ、足を止めさせる。
「……いかが致しましたか?」
「軍務省長に、この命令書を渡しておけ。今回ネイトに加担した奴らのリストと共にな」
「ああ、彼らの捕縛ですね。確かに急いだ方が良いでしょう。……ネイト省長たちが拘束されたことを知れば、彼らはすぐに逃げ出すでしょうから」
「そういうことだ。さ、早く届けてくれ」
「承知致しました」
そうして今度こそギルバートが出て行った後、私は椅子に深く腰掛けながら息を吐いた。
……この件を通して、宮中の対抗勢力は排除ができる。
不穏分子は残るが、それは追々取り込んでいけば良い。
けれどもそれはあくまで、五大侯爵家系以外の者たちだけ。
……砂上の楼閣とは、正にこのことだ。
そこまで考えて、ため息と共に笑みが漏れた。
……そんなこと、分かっていたじゃないか。
分かっていて、この道を選んだんじゃないか。
人形であり続けることも、できた。
でも、そうしなかった。
『そうしない』と決めたときに、覚悟していたじゃないか。
これぐらいの壁にぶつかることなんて。
緩やかな衰退か、それとも劇的な変革か。
戦いを後に引き延ばすか、それとも今衝突があったとしても行動に移すか……その違い。
知らないと目を逸らし続けるか、歯を食いしばってその重みを背負うか……その違い。
そして私は、選んだ。
自分で選んで、ここに座っているのだ。だからこそ、今更このぐらいのことで動揺していられない。
「……さて、仕事の時間だ」
私は再度息を吐くと、書類に向き直った。
そしてそれから特に問題無く日々が過ぎ、一週間が経った。
「……ラダフォード侯爵家系の官僚が、陛下に面会を求めています」
「そうか。……会おう、謁見の間に通せ」
「承知致しました」
ギルバートの案内で、護衛騎士を引き連れ謁見室に向かう。
謁見室には、多くの官僚たちが待機していた。
「ルクセリア陛下、ご入室!」
瞬間、全員が跪く。
私は彼らを前に玉座に向かい、そしてそこに座った。
「面を上げよ」
ザッと、室内を見回す。
「……ベン・ラダフォードよ。皆を代表し、申し開きがあるのであれば述べよ」
一番の年長者に、問いかけた。
「……我らラダフォード侯爵家出身の官僚は、此度のラダフォード侯爵領の扱いに抗議すべく立ち上がりました。陛下は、何故ラダフォード侯爵家を冷遇されるのですか?」
「……冷遇? 余は、其方らを冷遇した覚えはないが?」
「しかし、ラダフォード侯爵家の当主一家を処刑。その後、何の説明もなければ……ラダフォード侯爵家系の官僚が宮中で針の筵となることは当然ではないですか」
「説明ならしたぞ? 反逆罪によって、侯爵家一家を処罰したと。そして、処罰した者以外には何ら罪は問わぬ……と」
「しかし、それでも……」
とは言え、ラダフォード侯爵家系の官僚たちは白い目で見られたのか。
それは不満に思っても仕方ないか。
「……ふむ。其方らの言い分は、理解した。余の配慮が足りない部分もあったかもしれぬな。改めて、宣言しよう。其方らを、反逆罪の罪には問うことはないと。……それを理由に其方を害す者がいれば、それは余の決定に背く者と」
「しかし、もしかしたら関係していた可能性は排除できないかと……」
「……その証拠は、あるのか?」
別方向からの質問に、私は質問で返す。
「それは……」
「人の罪を問うのであれば、確たる証拠がなければならぬ。そのようなこと、幼子ですら言い聞かせられることであるぞ。彼らがラダフォード侯爵家の反逆に関わっていないことは、調査済。それを覆すだけの証拠があるのであれば、余に見せてみよ」
この場にいる面々がラダフォード侯爵当主と共謀していなかったのは、『心域』で確認済み。
そもそもで、トミーが入念に調べていたのだ……その調査を信じているからこそ、私は行動に移しているのだ。
「この件で、彼らに罪人はおらぬ。故に、彼らを罪に問うことは余が許さぬ。良いな?」
私の言葉に了承すると言わんばかりに、全員が再び頭を下げた。
「……さて、其方らの陳述は聞き届けた。次は、今回の件について話し合おうか?」
「え……」
「……反逆罪の件では罪に問わぬと言ったが、今回の件で問わぬとは言っておらん。良いか? 其方らの行為は、ラダフォード侯爵領の全ての者たちに害を齎すものだったのだぞ?」
「それは、どういう意味ですか?」
「分からぬと申すか。今回、皆の協力と其方らが早くここに来た故、行政の被害が最小限に抑えられた。だからこそ、余は其方らの話を聞く気になれた。もし行政にまで被害を及ぼしたら、其方らには重い罰を与えねばならん。その場合、皆はどう思う? 『やはりラダフォード侯爵領の者は、危険だ』という印象を与えていたのだぞ」
一人、また一人と私の言わんとしたことに気がついたのか、明らかに動揺を見せる。
「良いか。其方たちは、ラダフォード侯爵領の者だからと疑われ、貶められ、それが苦しいと行動に走った。ならば何故、ラダフォードの名を貶めるような真似を自らしたのだ! 其方らの行動によって、これから幾百のラダフォード侯爵領の者が、同じような目を向けられるところであったのだぞ」
「恐れながら……陛下。ならば我々にただ耐えれば良かったと、そう仰るのですか?」
「そうではない! 手段を選べと言っている! 何故、何も罪のない者たちまで巻き込むような手を取った? 何故、堂々と声に出さなかった? ……其方らの矜持は、その程度のものだったのか!」
「それは……」
「其方らは、官僚だ。それ即ち、この国の歯車。一人が動き、またそれによって別の者が動き……と、互いに連鎖し合い、そうして国が回る。其方らの両の肩には、この国の民の生活がかかっている。そのことを、ゆめゆめ忘れるな。……良いか、二度はない。今後何者であろうとも、意図的に公務を妨害する者には重い罰を与える。良いな!
「「申し訳、ありませんでした!」」
全員が、一斉に跪いて頭を下げる。
「……追って、沙汰は下す。まずは其方らは迷惑をかけた者たちに詫び、すぐに業務に戻れ」
そう言い残して、謁見室を出た。




