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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
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女王と官僚

ラダフォード侯爵が去ってから、一週間が経った。

慌ただしいノック音と共に、官僚が入って来る。


「報告致します! ラダフォード侯爵家系の官僚たちが、皆、出仕を拒否をしています」


「そうか」


私のあっさりとした反応に、報告してきた官僚は困惑したような表情を浮かべていた。

けれども、私にとっては『何を今更……』という話なのだ。

そんな反応ができるのも、全てトミーのお陰。

彼がラダフォード侯爵領に行くスケジュールを押して王都に残ったのは、何も本当にバーバラの喜劇を見る為だけじゃなかったのだ。

……否、三割ぐらいは喜劇を楽しむ為だったのかもしれないけど。


それはともかく、既に敵を把握している。

そして、行政を維持する為の最低限の業務は既に特定しているのだ。

恐ることも、慌てることもない。


「……既に、情報は掴んでいたんだ。其方、各省長にこれより三十分後、緊急会議をすると伝達せよ」


「はい! 畏まりました!」


彼が去った後、私は横に控えていたギルバートに視線を向ける。


「……大事を前にして、随分と楽しそうなお顔ですね」


「そう、見えるか?」


「ええ。……宮中の反抗勢力を叩けるチャンスを前に、沸き立っているのかと」


「……そうか、そう見えるか」


私はそう呟きつつ、笑った。


「ある意味、そうかもしれぬな。……なあ、ギルバート。私は怒っているんだ」


瞬間、ギルバートは顔を痙攣らせる。

そんな恐れずとも、取って食いはしないのに。


「責務を権利と履き違えているような馬鹿なことを仕出かす者たちを、誰が赦せると?」


「落ち着き下さい、陛下。……彼らは、必要な人材です」


「分かっている。……それに、彼らは乗せられているだけとな」


「ええ、仰る通りかと」


「勿論、ネイト一派は赦せぬ。当然、奴らにはそれ相応の報いを受けさせる。……だが、唆されたにせよ、ラダフォード侯爵家系の者たちも同じ穴の貉ではないか?」


「それは……」


「……戯れが過ぎたな。其方を困らせたい訳ではない。彼らには、懇々と説くとするよ。二度と、このような馬鹿な真似をせぬようにな」


「……あまりやり過ぎないようにしていただけますと幸いです」


「いざとなったら、其方が止めてくれ」


「……私で陛下を止められるか……否、いざとなりましたら精一杯努めさせていただきますが」


「よろしく頼むぞ。……さて、そろそろ会議の準備して向かうか」


「畏まりました」


それから私は幾つか彼と今後の対応策を議論すると、会議室に向かう。

会議室に入ると、既に省長全員が席に着いていた。


「待たせたようだな」


私が入った途端、全員が席を立ち頭を下げる。


「楽にせよ」


ピリリとした緊張感が、部屋中に漂っていた。

流石にこの状況を楽観視する者は、いないか。

……ネイト総務省長を、除いて。


「……さて、本日皆を呼んだのは他でもない。皆、状況は理解しているな?」


全員、静かに頷く。


「報告書を提出した際、余と行政を維持する為に必要な最低限の業務について議論したな?」


再度、全員が静かに頷いた。 但し、ネイト総務省長を除いて。


「ならば各々、職務を果たせ。まずは、残った人員を把握。その上で、優先度の高い業務から人員を充てろ。……この部屋を、対策本部とする。人員が足りない場合、逆に人員に余裕がある場合は至急で報告。また、日の終わりに各業務の対応状況及び今後予測し得る業務量を報告せよ。良いな!?」


「「承知しました」」


「二週間、この状況で業務を保たせてみせよ」


「……お、お待ち下さい」


私の指示に待ったをかけたのは、ネイト総務省長だった。


「何か」


「……その、我が省は受け持つ業務が多岐に渡り、また量も多い。この状況で業務を保たせることは、とても……」


「……難しいと、申すか」


「それは、その……」


「……ああ、そうか。其方、確か未だ報告書を提出していなかったな? つまり、余と議論もしていなかったか」


私は、くすりと笑って彼に視線を向けた。


「だが、それは其方が何も報告していなかったことが要因。自分の仕出かしたことには、責任を取らねばな?」


「それはっ! 我が省は、先ほども申した通り業務量が多過ぎるのです。報告するのにも時間がかかるのは、当然かと」


「……当然? その業務量が分からぬ故に、報告書の提出を命じていたのだ……余が、それを推し量れる訳がなかろう」


「ですが……」


「何より、よしんば報告書の提出が難しいようであれば、状況の報告をすれば良かったのだ。それすらせず、今更『出来ぬ』とよくぞ言えたものだ」


ジッと、ネイトを見つめる。


「では、どうすれば『出来る』ようになるのか? 何が必要か?」


重ねた問いに、ネイトが答える気配はない。


「……答えぬなら、良い。其方は、総務省長を罷免。軍務省長、此奴を拘束せよ」


「そんな! たかが、このようなことで!」


「……たかが? たかがと言ったか!」


私の怒号と共に、魔力が室内に満ちた。

正面からそれを受けたネイトは、魔力にあてられてその場で崩れ落ちる。


「国政を司る者、それも省の長ともなれば、その責任は相応に重くなるのは当然のこと。『行動に移す時は大胆に、だが、臆病たれ』……父王が仰っていた言葉だ。臆病と思われる程に備えを万全に整え、細心の注意を払って業務にあたり、そして異変が起こればこれを見逃さず、対処する。……それは、余たちの肩にこの国の民たちの命が、生活がかかっているからだ! この局面で、『たかが』で片付けられることは何一つないということが、何故、分からぬか!」


私は息を整え、視線を軍務省長に向ける。


「早く、拘束せよ」


「はっ!」


「それから、総務省副省長テッドも同様の処分とする」


「……承知しました」


「皆、時間を無駄にして済まぬな。早く、仕事に取り掛かれ」


私の指示に全員が一礼すると、部屋を出て行った。


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