女王とライバル3
元々ドルネッティ男爵はすぐ側の部屋で控えていた為、呼びに行かせてからすぐに戻って来た。
今し方まで酒を飲んでいたと言うことが一目で分かる、顔色。
辛うじて匂いは誤魔化せているものの、トロンと酔いの回ったような瞳。
でっぷりと出ている腹が隠しきれなかったのか、少しでも前屈みとなると服が破けそうな状態になっていた。
……急な呼び出しだったとは言え、王の謁見室に来るのにこの格好。
先ほどのバーバラ同様、観客の多くは眉を顰めるような表情を浮かべていた。
「……さて、ドルネッティ男爵当主よ。本日より、ドルネッティ家は准男爵に降格だ」
「な、何故ですか!?」
「其方を含め、この場にいた者たち全てが証人であろう? バーバラの余に対する態度は、王族への侮辱。その監督責任を問うことは、当たり前のことだ。……降格だけで済むだけ、マシであろう」
「あの娘とは、縁を切ります! 元々平民の血が入った、貴族の紛い物です。それを、可愛そうだからと引き取ったのですが」
必死に言い募る男爵……もとい准男爵の言葉に、けれども余計に腹が立った。
「准男爵。余は、不愉快だ。これ以上重い罰を言い渡す前に、即刻、立ち去れ」
「な、何を……!」
「第一に、引き取り育てたのは其方。そして社交界に出す判断をしたのも、其方。それ故に、其方が監督責任を問われることは当然のこと。今更縁を切ろうとも、その事実は変わらぬ」
「しかしながら……!」
反論を重ねようと、准男爵が更に言葉を発した。
「其方も、遮るではないか」
それに対し、私は笑みを貼り付けて言葉を返す。
「……は?」
「余の許しなく余の言葉を遮るとは、何事か? バーバラと同じく、其方もまた根本的に王族や貴族のルールを理解していない。血などではない、根本的に其方の教育にこそ問題があったのであろう」
「しかしながら、陛下。話を聞いて下さい!」
「これ以上の申し開きは、不要。……さて、護衛兵よ。この痴れ者を、さっさと謁見の間の外へ放り出しておけ」
陛下っ! と言うドルネッティ准男爵の声が聞こえてきたが、無視。
「……ですが、ルクセリア様も非情な罰を与えるもので」
「非情? 王族への侮辱に対して降格で済むなんて、優し過ぎると思いますけど?」
トミーの反論に、ギルバートは苦笑を漏らした。
「よく考えなさい。この場にいた全ての者が、バーバラのルクセリア様に対する態度を知っています」
「それは当然ですよね。見てたんですから」
「ルクセリア様は、特に緘口令を強いていません。つまり、このことは遅かれ早かれ貴族の耳にも入るでしょう。王族侮辱罪に問われ降格。それが知れ渡れば、何より体面を気にする貴族は恥ずかしくて社交界に出れなくなるでしょう。……また、ルクセリア様の発言力が増せば増すほど、誰もそのような家と付き合いたいと思わなくなるでしょうね」
「……えげつない」
私の発言力が増すと信じて疑っていないトミーの反応に、私はつい笑ってしまった。
「そのように褒められると、こそばゆいな」
「褒めてないですけど」
「ふふふ、そうか? ……まあ、戯れが過ぎたか。トミー、そろそろ出なくて良いのか?」
「仰る通りですね。……そろそろ、御前失礼致します」
トミーを見送った後、私も立ち上がる。
「さて、私も戻るか。ギルバート、幾つか其方に確認したいことがある」
「承知致しました。ではこのまま、執務室までお供致します」
「うむ」
そして私たちもまた、応接室を出た。




