女王とライバル 2
「バーバラ・ドルネッティ」
視線を移し、目の前のバーバラを見つめる。
彼女もまた、私を睨んでいた。
「……本当に、分かっていないのか? 自身が、国家反逆罪の疑いをかけられていることを」
「なっ!」
「当然であろう? 国家反逆罪の罪に問われたヴィルヘルムと、『深い』関係にあった其方を疑うことは。ヴィルヘルムと共謀していたのではないか? あるいは、ヴィルヘルムから何らかの情報を貰っていたのではないか……とな」
事の重大さに思い至ったのか、彼女は傍目から見てそうと分かるほどに狼狽していた。
「し、知らない……! 私は本当に、何にも知らないです……!」
「知らない? 自分から示唆していたではないか。ヴィルヘルムと『深い』関わりがあったと。それなのに、何も知らないと言い切るのか?」
「本当です。……信じて下さい!」
「信じる、か……」
彼女のことを信じることができるか、観察して考えてみた。
信じる要素は皆無だ。
『冗談じゃない! 国家反逆罪ですって? 折角優良物件を捕まえたのに、何がどうしてこうなったの!?』
けれども、心域が彼女を白だと教えてくれる。
「良い。……其方を信じた訳ではないが、ヴィルヘルムが其方に重要な情報を渡していたとは思えぬ」
だからこそ、私は彼女を見逃すことを決めた。
彼女は、私の言葉に安堵の息を漏らす。
尤も、すぐに私の言葉の真意に気がついたのか、複雑な表情を浮かべていたが。
私の言葉は、聞き方によっては『そこまでヴィルヘルムに信頼されていなかったんでしょう? だから、情報も貰えてなかったのよね』と訳せる。
要は、彼女とヴィルヘルムの仲を否定したということだ。
助かったから安心はしたものの、侮っていた私からそんな言葉をかけられて不愉快……というのが、今の彼女の心情と言ったところか。
「……護衛騎士よ、彼女を連れ出せ」
側で控えていた護衛騎士に、声をかける。
彼は心得たと言わんばかりに小さく首を縦に振った。
そしてその後、バーバラは彼に引き摺られながら謁見室から出て行った。
「良かったのですか?」
彼女が部屋から出て行った後、ひょっこりと私の耳元でトミーが囁く。
「……良い。彼女は、白だ」
「陛下がそう仰るのであれば、そうなのでしょうね」
「けど、これでバーバラ様を無罪放免にしたら、舐められません?」
「それでバーバラに罰を与えたら、『嫉妬深い女』との称号を得るだろうな。いずれにせよ、余は批判される」
「あ、いやまあ……そうかもしれませんが」
「それもこれも、余が完全に宮中を掌握できていない故か。……まあ、今は言っても詮無きことか。それはともかく、トミー」
「何でしょう?」
「……誰が、罰を与えないと言った?」
私が問いかけた瞬間、トミーが明らかに動揺を見せた。
「あ、いえ……」
「ふふふ、そのように怯えることはないだろう?」
笑いながら問いかければ、やっとトミーは安堵したように息を吐く。
「……冗談は勘弁して下さいよ。素のルクセリア様は本当に怖いんですから」
「淑女が怖いと?」
「淑女はそのような圧を撒き散らしたりしませんって。まあ怖いもんだってのは否定しませんが」
「それは実体験故か?」
「正にバーバラも怖い部類だと思いましたけど?」
「ふふふ……はは、まあ、そうかもしれぬな。……さて、ギルバート」
「はい」
「ドルネッティ男爵を、ここへ」
「畏まりました」




