女王とライバル
謁見室に到着すると、護衛騎士二人に守られた厳かな扉が開かれる。
そして、私は玉座への道を進んだ。
「御機嫌よう、ルクセリア様」
私の入室に気がついた彼女は、その場で立ち上がってカーテンシーをする。
……王の入室中に、王の断りもなく声をかけるとは。
既にこの時点で、急遽集められた観客……もとい貴族の面々は失笑をしていた。
私はその挨拶をして無視して、玉座に座った。
「……久しいな、バーバラ。それで、用件とは?」
「え……」
私の口調の変化に驚いたのか、彼女は目を見開いている。
少しも表情の変化を見逃さないと、彼女を必要以上に見つめていた。
「用件とは、何か?」
「その、ご挨拶をと思いまして……」
「ほう、挨拶。……男爵家の一令嬢が、挨拶の為に余を呼びつけたと?」
じっと見つめれば、彼女は所在無さげに目を泳がせる。
「……申し訳ありません。本当は、どうしてもヴィルヘルムがどうしているのかを聞きたかったんです。一体、彼はどこにいるのでしょうか? 私、もう……心配で心配で……夜も眠れなくて」
ポロポロと涙を流しつつ、彼女はそう言った。
控室での一幕を聞いてなければ、信じてしまいそうになるほどの迫真の演技だ。
……惜しい、非常に惜しい。
今からでも彼女を引き込んで、人を惹きつけるこの才を活用できないだろうか?
……ダメだ、彼女は既に顔が売れ過ぎている。
「ヴィルヘルムのことは、厳罰に処した」
そんなことを考えつつ、淡々と彼女に言葉を返した。
「そんな……っ! ルクセリア様がヴィルヘルムのことを愛していたからって、そんなのあんまりです。大切な人の幸せを願おうとは思わなかったのですか?」
殊更に、彼女は驚いたような反応を示す。
悲壮感を漂わせ、顔色は今にも倒れそうなそれだ。
「ふふふ……まるで余が嫉妬に駆られて、ヴィルヘルムを処分したような物言いではないか」
けれども私は彼女の言葉に、つい笑ってしまった。
「侮るでない。国政を前にして、余の感情など二の次。余がヴィルヘルムを処断したのは、反逆者のラダフォード侯爵の直系であった故。……本来であれば、其方も尋問せねばならぬ」
「なっ……どうして私が! やっぱり、ヴィルヘルムに愛されていた私が目障りだったのね!?」
私のことを指差しながら、彼女はつかつかと近づいて来る。
……人のことは指差してはいけません、は前世の言葉だったか。
この世界では、特にその言葉を聞いたことかないが……少なくとも、王に対する態度でないことは確かだろう。
「無礼な! ……この方を、どなたと心得る。先ほどから話を聞いていたが、陛下に対して何て失礼な物言いか!」
護衛騎士が、彼女の行く手を阻みつつ叫んだ。
彼がこうも感情を表に出すことは、今まで見たことがない。
それだけ、怒っているということなのだろう。
「……なっ! 私は……」
護衛騎士に睨まれた彼女は、その怒気に当てられて怯んだ。
「良い」
「ですが、陛下……!」
「……其方が余の代わりに怒ってくれたことには、感謝している。だが、今は良いのだ」
「……はっ」
護衛騎士は軽く頭を下げると、元の位置に戻った。




