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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
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王女と見習い侍女3

アリシアが来て、三日が経った。

まるで最初から一緒にいたかのように、彼女はすぐにこの生活に順応していた。

塔の内部の敷地面積は狭いとはいえ、一人で全てを掃除をするのは大変。

彼女のお陰で、大分部屋の掃除は進んでいた。


ガシャン、ガラガラ……!


壁にぶつかった感触と、物が落ちる音に自然と眉間に皺がよる。

後ろを見れば、まさに棚の上にあった筈の瓶が落ちていた。


「ご主人さーまー?」


後ろから、鋭い目つきでアリシアが現れる。

彼女の目線の先には、無残なゴミの山。


「……わざとじゃあないわ。それと、呼び名。ご主人さまは止めてって」


「あ、そうですた。……そんなことより、お怪我は?」


「大丈夫。私には当たらなかったから」


「それなら良かったです。……ここは、私がやるです」


「え、良いわよ。私が壊したんだから、私が片付けるわ」


「……でも、ルクセリア様。ここにはまだ、壊れ易いものがたくさんあるです」


確かに、部屋には瓶等割れ物が多くある。

……二次災害を防ぐ為にも、ここは大人しく引き下がった方が良いか。


「うう……そうね。じゃあ、申し訳ないけどアリシアに頼むわ」


「はいです」


それから自室で大人しく待機する。

なんだか、アリシアに悪いなあ……と思いつつも、することがないので本を読んでいた。

読みかけの本の続きが気になっていたので、丁度良い。

それから暫くその本を読み続け、アリシアが終わった頃を見計らって戻った。


「そろそろ終わったかしら?」


「はい、丁度終わるました」


「そう。それなら、一緒に少し休憩しましょう」


「はいです!」


アリシアに茶具を準備して貰って、私がお茶を淹れる。

アリシアは恐縮して頻りに『自分がやる』と言っていたけれども、迷惑をかけたからと押し切った。

今日私のした仕事と言えば、残念なことにこのお茶を淹れたぐらいだ。


「……ルクセリア様が自分でお部屋の掃除をすることにったのは、やっぱり少しでも早く塔に来たかったから? です?」


「その通り。本当は準備ができてから転居……って話だったんだけど、私としては一刻も早く王宮を出たくて。それで、部屋は自分で整えるからって、さっさと出て来ちゃったの」


王宮の中には多くの人がいて、当然常に『心の声』が聴こえて来る。

その上、心域でいつ誰に危害を加えてしまうか自分で自分が怖かった。

だから、お父様から塔での生活を命じられた後、これ幸いと、逃げるように来てしまったのだ。


「今、私以外の使用人がいないのも、同じ理由です?」


「そうね。食事は届けて貰えることになっていたし、何とかなるかなって」


塔は昔から王族を幽閉する為にあった場所の為、人の目に触れずに生活ができるような造りになっていた。

例えば料理や生活必需品については、地下通路を渡って王宮の一室へ受け取りに行っている。


ふと、アリシアの目線が気になった。

何だか、不思議なものを見るような目だ。


「何? アリシア」


「いやあ……よく、一人で塔に移り住むと決めたですね」


「それ、『片付けもできないのに』って言葉が抜けてない?」


「……」


彼女の無言に、私は笑った。


「まあ、そう思うわよね。……引っ越す前までは、自分で出来ると思ったんだけど」


「でも、ルクセリア様……お掃除したことない、です?」


「ええ。でも、夢で予行練習したし」


『前世』を夢と表現しても、強ち間違いではないだろう。


「……やっぱり」


「やっぱり?」


「……だってルクセリア様、掃除、ないです」


「え、嘘。そんなに酷い?」


慌てて聞いた私に対して、アリシアは少し気まずそうにしていた。

まあ、答え難い質問だっただろう。


「お願い! 正直に答えて」


「……掃除すると、必ず物落として壊すます。整理した本は、本棚に入ってないです。あと……掃除をした後、何故か物が失くなるです?」


「……返す言葉もございません」


思わず敬語で答えていた。

昔から、何故か掃除は苦手だった。

仕事となると整理整頓も仕事の一環として認識しているからなのか、何とか対応できたのだけど。


「やっぱり、アリシアが来てくれて良かったわ。とっても助かっているもの。そこの一角だって、私が壊したものの片付けだけじゃなくて棚の上の掃除まで終わっているものね」


今更ながら、アリシアが来てくれて良かった。

あそこで追い返していたら、未だに生活の目処が立っていなかっただろう。


「私も、ルクセリア様のお手伝いができて嬉しいです」


アリシアは、はにかんだような笑みを浮かべていた。

うん、可愛らしい。


「……さて続きをやりましょう! っと言いたいところだけど、この部屋はなるべく手伝わない方が良いわよね」


残念ながら、壊れ易いものが多いことには変わりがないし。


「はいです……」


ふと、棚が置かれていた場所を見た。


「そうだ! 時代は、DIY!」


「……DIY?」


「そう。専門家じゃなくて、私みたいな素人が家具とかを作ったりすること。苦労する分、愛着が湧くし、何より大きさとかを自分好みにできるのよね」


「……ですが、材料は何処です?」


「この塔の裏って、資材置場兼倉庫になっているのよね。そこに、木材とか道具が置いてあった筈」


「え、この塔の裏に『出ることができる』ですか?」


「あー……この塔って、地下通路しか外に通じる道がないと思っているでしょ?」


「ええ、そう聞いてるです」


「実は隠し扉があって、そこから外に出ることができるのよね。探検してたら、見つけちゃって」


塔に入ってまず浮かんだ言葉は、正直に言えば……『ボロい』という一言。

けれどもそれと同時に、好奇心が疼いたのも確か。

前世の頃に読んだ物語の中に、城の隠し扉だとか仕掛け階段のことが書いてあって、そういった仕掛けは本当にあるのだろうか? と、つい探検して回った。

……そしてその結果、見事に外につながる道を見つけたという訳だ。


「という訳で、外にも出れるという訳よ! ささ、早速資材を取りに行こうっと」


「……ルクセリア様、お待ちを」


「あら、なあに?」


「資材を取りに行く手伝いをするです」


「あら、大丈夫よ。体を魔力で覆えば、資材なんて軽いでしょうし」


魔力を持つ人は、体に魔力を纏わせることで誰でも身体機能の強化ができる。

つまり、力持ちかつ素早く動けて体力もある……ということだ。


「ですが……ルクセリア様の手は二つだけです。魔力で身体を強化しても、一度に持てる量には限りがあるです」


「……うーん、それもそうね。でも、アリシアは掃除で忙しいでしょうし……」


「目処はついてるです」


「なら、お願いしようかしら」


それから二人で塔を抜け出して、木材を運び込む。

アリシアも魔力持ちのお陰で、あっという間に持ち込めた。


「さーて、取り掛かりましょうか!」


「切るのは私がやるですよ? ルクセリア様に万が一お怪我があってはいけないです」


「大丈夫よ。夢で何度もやったことがあるから」


そう言いつつ、早速作業に取り掛かる。


「夢って、それ掃除と同じパターン……って、ルクセリア様ぁー!」


そうして私はアリシアの制止もどこ吹く風で、さっさと棚作りを始めたのだった。


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