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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
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女王と会議 2

本日3話目の更新です

会議室を出ると、私は執務室に戻った。

その後、手元にあった資料を読みきって今に至る。


「んー……」


積み上げられた資料は、それなりの量だ。

……パソコンなんてない為、全ての資料は紙のみ。

前世でも、画面越しのものよりも紙の方が頭に入り易いと感じるアナログ人間だったので、そこは問題ない。

ただ、流石に量が殺人的な多さだ。


資料を読み終え、私は椅子に体を預けながら宙を見る。

天井まで貼られた壁紙の紋様を眺めつつ、頭の中を整理する。


丁度そのタイミングで、ノック音がしてギルバートが入って来た。


「……失礼します。会議はどうでしたか?」


「万事、上手くいったよ」


「おや……どこぞの省長が、反対すると思ったのですが」


「よく言う……。勿論、その『どこぞの省長』にも応諾させたよ」


総務省長が反対するのは、予想済みだった。

だからこそ、反対意見を封じる為にギルバートを通して彼の生徒たちに会議前に情報を集めさせたというのに。


「それは良うございました。孤軍奮闘しているノーマンの為にも、早々に本丸である王宮内の組織を整える必要がありますから」


ギルバートの言葉に、私は首を縦に振る。


「……『重複した業務』の整理が終われば、第二段階はクリアー。これ迄其方の生徒たちと検分してきた『真に必要な業務』の特定については完了している故、生徒たちの一部には省長の補佐をして貰おう。それと残った生徒たちと我々で、追加の部署・業務について検討を始めるぞ」


「承知致しました」


「……にしても、時間が足りぬ。ノーマンの為にも早々に進めたいが……」


「焦りは禁物です。国政の基盤を整えることは、これからの国政の改革の為にも特に重要な作業ですから。……貴女様が求める、『領政の集中と国政の分散』の為にも」


領政の集中と、国政の分散。

それが、私の描く最終的な政治機構の構造。


「初めて聞いたときから、面白い考えだと思いましたよ。特に、国政を分散させるということは」


「残念ながら、余の体は一つ。故に、一つ一つの業務に割ける時間はそう長くない。なればこそ、各省長に権限を持たせ、判断させた方が効率的であろう? 余は、全体のバランスを整えるのみ」


現状は、各領主に決定権がある。

それを、国政の各省が決定権を持つようにする。

各領地の業務は各省に報告があげられ、そして各省の決定が各領に反映される。

各省長は互いに牽制をし合い、王と各領主は監督する為の権利を持つ。

大枠は、そんなたころだ。


「早く、そうなれば良い。流石にこの量の資料は、金輪際ごめんだ」


私は机にある資料を見て、笑う。

今は私も一担当者として、この国の現状を知る為に資料を読んでは担当者の話を聞いて……そうして自身の知識を蓄えるより他ない。

情報は、命だ。

それも、正確な情報が必要だ。

何も知らずに、決定を下せることなんてできない。

何も知らずに、もしくは正誤のあやふやな情報だけで判断することは、ギャンブルと同じ。

否……ギャンブルだとて情報を元に戦略をたてるプレイヤーがいるのだから、同列に扱うことはギャンブルに失礼か。

とにかく、私に必要なのは正確な情報。そして、土台の知識。

知った気になってサインをするだけのトップには、絶対にならない。

……無能なトップは部下を国を殺すのだから。


「まだ、やるべきことがある。教育体制の整備、福祉制度の導入、医療技術の進歩、魔導師の保護と育成、国内の開発、経済の発展促進……挙げたらきりがない。それらを一度に進めることは難しくとも、せめて種を蒔かねばならぬ。そして育つ土壌を作り上げることこそが急務」


「一つ、気になっていたことがあるんですが。質問をしても良いですか?」


「何か?」


「陛下は、まるで実現したそれらの政策を見てきたかのように仰りますよね?」


ギルバートの鋭い言葉に、私は思わず笑った。


「……どうして、そのように思った?」


「ずっと、疑念はあったんです。陛下と国政の改革を話し合い始めた頃から。まるで陛下は完成形を知っていて、それをこの国の慣習に合わせようとしているのではないか?と。自分でも突拍子もないことだと思いますが」


「残念ながら、余も完成形は知らぬよ」


教育水準の高い国にいたと思う。

でも、それを活かしきれなかった。

だから、私が知っているのは表面的なことだけ。


もっと、知っておけば良かった。

ただ与えられるものに甘受するだけでなく……もっと、全てのことに興味を持てば良かった、と。


なんて、今更な後悔か。

それに全てを知っていたとしても、日本のもの全てをこの国に適用することはしなかっただろう。


それは日本の法や行政が決して完成したものではないからだ。

完成ではない、それ故に時代に即した改正を加え続けている。

ならば時代や文化も違うこの国に、当然同じものを導入したとしても上手くはいかない。


とは言え、あの国……否、あの世界がこの世界よりも進んでいたこともまた事実。

取り入れられるところは上手く取り入れ、そしてこの国の発展に寄与しなければならない。

……それが、父と母を亡くした私の存在意義なのだから。


だからこそ、私は知らなければならない。

この国のことを、もっと深く……もっと広く。

そして結果、読みたい資料は山積みとなる……という訳だ。


「故に、其方らの助けは余にとって必要不可欠。期待しているぞ」


「……どうやら、上手く話を逸らされてしまったようですね。ですが、貴女様にそうまで言われてしまうと、張り切るより他ないです」


ギルバートの言葉に、私は笑みを深めた。


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