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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
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女王と参謀

本日2話目の更新です

翌朝、私は朝早くから表宮にいた。

王専用の執務室に陣取り、書類の確認をしている。


「聞きましたよ、昨日の武勇伝を」


「昨日の騒動をそんな風に茶化すのは、ギルバードが初めてだ」


「ふふふ、直接見ていないですからね。それに、ある程度は『予想ができていました』から」


「ああ……それも、そうか。其方の手には、幾つものヒントがあったのだから」


「否定はしませんよ」


「……それで? 城内の様子は?」


「思ったよりも、混乱は少ないですよ。昨日の出来事を受けて、官僚の大部分は休みを取るかと思っていましたが……予想以上に、官僚たちもちゃんと出勤していますし」


「そうか。つまり、通常の業務には支障をきたさないということか?」


「ええ、そうです」


「ふむ……そうか。引き続き、官僚たちの動向に注視せよ」


「畏まりました。……ああ、それと」


「何か?」


「後で他から報告を受けるでしょうが、念の為……私が見た貴族たちの様子を報告します。有り体に言えば、大混乱です。式典に出ていた方は、さっさと王都から領地に帰ろうと準備を急いでいました。……尤も、式典に出ていなかった方は人伝に聞いた昨日の出来事を信じず、変わらずルクセリア様を軽んじているようですが」


「ふふふ……予想通り、か。そのまま足並みが揃わず、自滅してくれたら楽なのだが」


「そんな、生易しい相手ではないでしょう。特に、貴女様にとって最大の障害である五大侯爵については。……ああ、もう四大侯爵家ですね」


ギルバードは、そう言って笑った。

楽しむように、私を試すかのように。


「……それも、そうか。まあ、でも……余を軽んじる者がまだいることは、重畳か。その分、余は楽することができる」


私もまた、溜息を吐きつつ笑って返す。


「それはそうでしょうね。相手が油断するほど、此方は相手の行動が予測し易いですから」


ちょうどそのタイミングで、扉からノック音がした。


「失礼致します。ラダフォード侯爵領派遣隊より、早馬で報告がございます!」


入って来た男は軍服を身に纏い、見事な敬礼をしている。


「聞こう。……ラダフォード侯爵家の関係者の捕縛は?」


「無事、指示のあった面々は全員捕縛が完了したとのことです。今のところ暴動もなく、さして領内で大きな混乱は見られないとのことです」


「そうか。……引き続き、残党による暴動が発生する可能性を考慮し、警戒にあたれ。それから、隊に同伴していた官僚……ノーマンから、何か報告は?」


「特段、ございません。一言、『無事、着』という言伝のみ預かっているとのこと」


「そうか。ご苦労」


「はっ! 失礼致します」


彼はキビキビとした動きで、執務室から出て行った。

そうして彼の姿が完全に見えなくなってから、ギルバードが口を開く。


「……これで、第一段階はクリアーですね」


「ああ、その通りだ。事件関係者の捕縛、それから軍の派遣、そして余の陣営側の官僚の派遣。昨日中にその全てが完了して、何よりだ」


予定通り……否、それ以上だ。

関係者の捕縛はもっと時間がかかると思っていただけに、内心安堵していた。


「あとは、ノーマンがラダフォード侯爵領の領政をどれだけ早く掌握するかですね」


「うむ……その通りだ。彼奴のもとで最低限、領政が機能し続けるようになって貰わなければ、困る。とは言え、既に事前の議論は尽くした。あとは、彼奴の実行力にかかっているということだろう」


ラダフォード侯爵領の領官の中に、私の協力者たちがいる。

トミーを通して、手紙で既に何度も協力者たちと議論を重ねていた。

その中には、王政と同様に『領政の機能を保つ為に、最低限保持しなければならない業務と人員』の特定もしている。

その上で、私は彼らと議論をしてきたのだ。

つまりノーマンはある程度事前情報を持ってラダフォード侯爵領に赴いているということ。


「……と言うわけで、私もできることをせねばならぬな。私を信じてラダフォード侯爵家に向かったノーマンと、ラダフォード侯爵領の協力者たちの信頼に応える為にも」


「そうですね。差し当たっては、第二段階の成功率を高めるべく、こちら側も準備しましょうか」


「うむ、そうだな。差し当たっては、各省長への『別の省で重複した業務』の特定を命じることだな。……して、会議の準備は?」


「勿論、準備は完了していますよ。……最終確認の為に、明日お時間を頂戴しても?」


「無論」


「承知致しました。では、私は準備がございますので、これで失礼致します」


「うむ」


ギルバードが去ったところで、私は手元にある資料の確認を再開する。

……後で、分からないところは皆に聞くとするか。


「失礼します、ルクセリア様」


扉からノック音がしたかと思えば、アリシアが入って来た。


「……あら、アリシア。どうしたの?」


「そろそろ休憩されるかと思いまして、甘味をお持ち致しました」


「まあ! アリシアの甘味! 嬉しいわ、ちょうど疲れて甘味が欲しいと思っていたところなの」


「それは良かったです。本日の甘味は、じゃじゃーん! チーズで作ったケーキです!」


「まあ……まあ! 私、チーズのケーキは大好きだわ。流石、アリシア。私の好みをよく理解してくれているわね」


書類を一旦脇に置いて、アリシアのケーキに集中する。

クリームチーズで作られたケーキを口に入れた瞬間、濃厚な甘みが口いっぱいに広がった。

添えられたベリーの酸味が良いアクセントになっている。


「んー!! 美味しい!」


思わず叫んだ後、一心不乱に食べた。

……少し、否、かなり行儀が悪いが仕方ない。

やっぱり疲れた時の甘いものは、正義。

それが、私の好みを熟知したアリシアが作ったものなら尚更。


結局、すぐに目の前のケーキはなくなってしまった。


「……おかわりもございますが、いかがいたしますか?」


「勿論、いただくわ」


今日は全く動いていないから、食べたら太るだろうな……と一瞬思ったものの、迷いはない。

結局、私はアリシアが準備してくれたケーキを全て食べ切ってから、再び業務に戻ったのだった。


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